2012 Fiscal Year Research-status Report
共用ベクターを用いた難培養性口腔嫌気性菌への遺伝子導入・発現系の開発
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23592722
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
西川 清 愛知学院大学, 歯学部, 講師 (50340146)
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Keywords | タンネレラ・フォーサイシア / 嫌気性口腔細菌 / 遺伝子導入法 / 遺伝子破壊 / 共用ベクター / ナチュラルコンピテンス / バイオフィルム / 薬剤耐性マーカー |
Research Abstract |
共用プラスミドの改変とそれらの効率的な導入方法の探索を進める過程で、タンネレラ・フォーサイシア(以下Tf菌)が、自ら菌体外のDNAを取り込みゲノム改変を起こす能力、いわゆるナチュラルコンピテンスの高い細菌であることを初めて発見した。更にこの能力を応用して、任意の遺伝子破壊株を簡単に作製する方法を確立した。 従来この菌種に形質転換を起こすためには、数日間の液体培養後グリセロール水に再懸濁した菌細胞に対し、電気的穿孔法にてDNA構築体を強制的に送り込む方式(エレクトロポレーション)が専らとられていた。しかし現実にはこの方法による成功率は低く、仮に成功しても一度に得られる変異株の数は非常に少ないので、効率と再現性の両面で課題が残されていた。 しかし今回、血液寒天培地上でバイオフィルム状態を保ったまま任意のDNA構築体と混ぜ、ある一定時間嫌気培養条件下で放置すると、それ以上何ら人為的な操作を加えなくとも、本菌が自然にDNA構築体を細胞内に取り込み、目的の遺伝子座に高効率に相同組換えを起こす現象を初めて確認した。実験を反復し、この現象に再現性が有ることを確認すると共に、複数の遺伝子破壊株作製へと応用を試み、いずれも短期間で目的とする変異株を多数得ることに成功した。 今回開発した方法は特別な装置を必要とせず、プロトコル自体非常に単純であるが、形質転換効率は極めて高い。従来のエレクトロポレーション法に取って代わり得る、本菌では初の再現性の高い形質転換(遺伝子破壊)プロトコルが確立できたと考えている。この成果は第35回日本分子生物学会で発表し、更に論文に纏め専門分野の英文雑誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで共用ベクター候補のプラスミドの改変作業を精力的に行い、ポルフィロモナス・ジンジバリス(以下Pg菌)において機能することが確認できた構築体はいくつか得られたものの、それらのうち、Tf菌体内への導入と保持に成功したものは、現時点ではまだ無い。少なくともPg菌で機能するプラスミドベクターがそのままTf菌でも機能するという訳にはいかないことは明白である。単にベクターのサイズだけの問題ではなく、プラスミド複製に関わる制御配列や、薬剤耐性マーカー遺伝子産物のTf菌における機能性などの更なる検討が今後必要と思われる。 Tf菌におけるナチュラルコンピテンスの発見とそれを応用した高効率かつ簡便な新しい形質転換プロトコルの確立によって、予定していた2種類のハイブリド型2成分制御系遺伝子の破壊株作製は容易にかつ再現性良く成功したが、それらに特徴的な表現型を明らかにするところまでは解析が進んでいない。年度途中で当初予定していたプロテオミクス関連機器の使用ができなくなったことが大きい。親株と比較した際の自己凝集能や増殖度など、見掛け上変異株に特徴的と思しき現象はいくつか認められるものの、それらを裏付ける遺伝子レベル、若しくはタンパク質レベルでの網羅的な解析がまだ途上であるため、本質的な所までは明らかになっていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は①共用ベクター候補プラスミドに組込む適切な薬剤耐性マーカー遺伝子の選択と、②プラスミドのTf菌への高効率導入法の2項目に集中し検討を進めることとする。 ①現在Tf菌の遺伝子破壊株作製に応用実績のある薬剤耐性マーカー遺伝子はエリスロマイシン(EM)耐性のermFとクロラムフェ二コール(CP)耐性のcatの2種類のみである。一方、共用ベクター候補プラスミドに元来組み込まれているのはテトラサイクリン(TC)耐性のtetQであるが、これまでのところTC耐性のTf菌変異株作製に関する成功例の報告はない。更に本菌標準株の染色体DNA中には意外にも正常なtetQ関連遺伝子群が存在する。この事実はTetQが仮に発現したとしてもTf菌標準株では機能しない可能性を示唆し、tetQをTf菌薬剤耐性マーカー候補として検討するのは得策ではない。一方ermFはTf菌やPg菌等の主要歯周病原細菌で既に、遺伝子破壊株のマーカーとして利用実績がある。本研究で開発を目指す発現ベクターは、遺伝子相補目的で遺伝子破壊株へ導入する用途が多いと予想されるので、EM耐性とは異なる薬剤耐性マーカーが望ましく、現時点ではCP耐性のcat遺伝子以外に選択肢が無い。cat遺伝子の発現をドライブする制御配列に関しては、現時点でermFプロモーターがTf菌で機能することが確認されており、これをcat遺伝子上流につなげ自律的に機能する薬剤カセットを構築し、Tf菌に導入してCP耐性を獲得した変異株が得られるか検討する。 ②プラスミド導入方法は、ナチュラルコンピテンスを利用した高効率遺伝子破壊株作製プロトコルの応用を検討する。先ず空ベクターで試し、導入株が得られない場合は、プラスミドでトランスに遺伝子相補する試みを中断し、染色体DNA中の適当な場所にマーカー遺伝子とつなげた状態で挿入する、シス相補株の作製方法確立に方針転換する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでに得られた2種類のハイブリッド型2成分系遺伝子変異株の網羅的な表現型解析に関し、学内での遂行が困難な場合は、学外のプロテオミクス専門業者に委託するなどして進める。調製した総タンパク質サンプルを業者に送り、それらの二次元電気泳動と質量分析に関する実験とデータ解析の依頼を検討しており、その委託料支払いに研究費の一部を充てる計画である。 また、現在研究データの保存、データ解析、学会発表、および論文作成等に用いているパーソナルコンピューター(PC)および関連ソフトの新機種への更新が必要である。6年前購入し現在使用中のPCは、メモリの容量・処理能力共に、年々大容量化しているデータの処理に対応できなくなりつつある。また現OSは最新のものより3世代古いWindowsXPで、マイクロソフト社から2014年4月初旬にサポート期間の終了が予告されており、以降はセキュリティー更新プログラムの提供が途絶えるため、これに対応した措置でもある。 消耗品に関しては、自律的に機能する新規薬剤耐性遺伝子カセットの構築と発現ベクターへの組込み、形質転換および塩基配列決定に用いる遺伝子工学関連の試薬キット類は随時購入する。他にTf菌、Pg菌、及び組換え用大腸菌株の培養に必要な液体培地や寒天培地作製に用いる培地成分や抗生剤、シャーレ、ディスポ-ザブル試験管などの容器類、更にタンパク質レベルでの解析に必要な試薬・キット類も随時購入予定である。
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