2011 Fiscal Year Research-status Report
脳卒中に伴う摂食嚥下障害発生機構の神経解剖学的解明
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23592725
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Research Institution | Morinomiya University of Medical Sciences |
Principal Investigator |
森谷 正之 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (80303981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 忠吉 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (40294136)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 三叉神経運動核 / 運動前ニューロン / 脳虚血モデルラット / 舌下神経核 / 神経トレーサー |
Research Abstract |
当初計画において、平成23年度は2つのテーマを設定していた。1つは「一過性脳虚血モデルラットの作成」で、もう一つは、摂食嚥下機能の制御に関わる三叉神経運動核、顔面神経核、舌下神経核、疑核へ入力するニューロン、すなわち「運動前ニューロンの分布の様態の解明」である。 脳虚血モデルラットの作成については、縫合糸による血管結紮のみならずステンレスビーズを用いた血管梗塞による手法も試用し、我々の目的に合致するプロトコールを開発中である。モデルラットの作成に当たっては、同一の手法を用いても、それによる影響の出現(梗塞が発生する範囲、運動障害など発生する症状、死亡率など)が変動し、「再現性」の確立が大きな課題であることが分かってきた。平成24年度はこの問題点の克服に重点を置いて計画を進行する。また、脳虚血により変性したニューロンの同定を行う手法を併せて検討する。 運動前ニューロンの分布様態については、三叉神経運動核に対する運動前ニューロンの分布を詳細に検討中である。三叉神経運動核は、開口筋運動ニューロンが分布する領域と閉口筋運動ニューロンが分布する領域とに分かれており、それぞれについて運動前ニューロンの分布を検討した。その結果、三叉神経感覚核群、三叉神経上核、脳幹網様体など様々な領域からの入力を受けていることが明らかとなった。その成果の一部は第47回日本理学療法学術大会(神戸)などの学会で報告予定である。平成24年度は三叉神経系に加えて、舌下神経核について詳細に運動前ニューロンの分布を解明する予定である。 一方、我々の研究では脳組織の標本作成が不可欠であるが、標本作成に伴う組織変形については検討されていない。我々はこれについて検討を行い、(1)切片の乾燥に伴って組織収縮が生じること、(2)切片の厚さが厚いと収縮量が大きくなることを明らかにした。成果の一部を日本医学写真学会雑誌にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は2つのテーマを設定していた。一つは「一過性脳虚血モデルラットの作成」である。当初計画では、縫合糸を用いて血管結紮を行い脳虚血を引き起こしてモデルラットを作成することを目指していた。しかし、結紮の強度を個体ごとに統一することが極めて困難で、その結果として生じる影響(梗塞が発生する範囲、運動障害など発生する症状など)も個体ごと変動し、「再現性」の確立が大きな課題であることが分かってきた。そのため、縫合糸による結紮のみならず、ステンレスビーズを用いた血管梗塞による手法も試用し、我々の目的に合致するプロトコールを開発中である。よって、「一過性脳虚血モデルラットの作成」については、当初計画よりも若干進行が遅れている。 平成23年度の二つ目のテーマとして、摂食嚥下機能の制御に関わる三叉神経運動核、顔面神経核、舌下神経核、疑核へ入力するニューロン、すなわち運動前ニューロンの分布の様態を明らかにすることを盛り込んでいた。平成23年度に三叉神経運動核への入力様式について、その概要を明らかにした。すなわち、三叉神経上核、三叉神経吻側核、三叉神経主感覚核、脳幹網様体などから多くの入力を受けていることが明らかとなった。また、このとき用いる神経トレーサーとして、コレラトキシンBサブユニットが有用であることも分かった。よって、運動前ニューロンの分布様態の解明については、当初計画よりも進行が進んでいる。 一方、我々の研究では脳組織の標本作成が不可欠であるが、標本作成に伴う組織変形については検討されていない。我々はこれについて検討を行い、(1)切片の乾燥に伴って組織収縮が生じること、(2)切片の厚さが厚いと収縮量が大きくなることを明らかにした。この成果については、当初計画に盛り込んでおらず、計画以上の成果として評価できる。 以上の成果を鑑み、本研究計画は概ね順当に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は以下の(1)と(2)の視点から計画を推進していく。(1)平成23年度の成果を踏まえて、平成24年度は一過性脳虚血モデルラット作出のプロトコール完成を目指す。そのための方策として、平成23年度の後半より試用している「ステンレスビーズ」を用いた虚血モデルの解析を行う。このとき、脳組織やニューロンに対する影響を客観的に捉えるために、c-fos発現等を指標として梗塞が発生している脳部位でのニューロン活動の変化を検討する。また、脳血管の梗塞部位を変化させることに伴う梗塞発生部位の位置変化についても検討する。さらに、ニューロンの「形態学的」変化のみならず、「生理学的」変化についても、主として電気生理学的な手法により検討し、自律系への影響を検討するために、宮本の主導で国立循環器病センターの協力を得て、脳虚血に伴う呼吸循環動態の変化についても調べる。(2)三叉神経運動核、顔面神経核、舌下神経核、疑核へ入力するニューロン、すなわち運動前ニューロンの分布の様態を明らかにするために、電気生理学的手法を組み合わせて実験を行う。すなわち、平成23年度は脳図譜を利用してstereotaxicにトレーサーを注入して運動前ニューロンの標識を行ったが、今年度は電気生理学的解析に必要な機器類を科学研究補助金で購入し、より正確なトレーサー注入を行って運動前ニューロンの標識を試みる。 さらに、平成25年度にかけて、脳(主として大脳皮質)での虚血が運動前ニューロンに及ぼす影響について、(1)と(2)で得た手法と結果を基盤にして本研究課題の目的達成に向けた実験を実施していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費配分額は直接経費が130万円である。本年度の計画実施にあたって、以下の物品と消耗品を購入する。電気刺激装置:神経トレーサーを注する際、脳部位の同定のために購入する。末梢神経(三叉神経、顔面神経、舌下神経から分岐してくる運動神経成分を含んだ末梢枝)に双極刺激を装着し、細胞外記録法で目的とする運動ニューロンプールを同定する。この末梢神経刺激に電気刺激装置が必須となる。また、梗塞が発生した脳部位の刺激にも使用でき、有用性が高い。プラー:上記の電気刺激装置を使用して神経活動記録を取る際には微小管ガラス電極が必須である。また、神経トレーサーの注入の際にもガラス管微小電極が必要である。外径約1.8mmのシリカガラスを用いて微小電極を作成可能なプラーを購入する。抗体類:脳(特に大脳皮質)のニューロンや、摂食嚥下機能の制御に関与する運動神経細胞の活動性を客観的に評価するため、c-fosやアポトーシスの指標となる物質に対する抗体を購入する。旅費:本研究課題で得られた成果を発表するための学会参加に必要な旅費を計上する。また、脳虚血モデルラットの作成では、データ取得や情報交換のための出張が必要となるのでその旅費も計上する。実験動物・薬品類:モデルラットの作成には多くの動物が必要となる。また、運動前ニューロンの分布解明にも多くの動物が必要となる。それらの購入に必要な経費を計上する。動物実験を行うにあたって、麻酔薬、固定剤、組織化学反応・免疫組織化学反応などに様々な薬品が必要となる。それらの購入に必要な経費を計上する。
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Research Products
(3 results)