2012 Fiscal Year Research-status Report
脳卒中に伴う摂食嚥下障害発生機構の神経解剖学的解明
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23592725
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Research Institution | Morinomiya University of Medical Sciences |
Principal Investigator |
森谷 正之 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (80303981)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 忠吉 森ノ宮医療大学, 保健医療学部, 教授 (40294136)
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Keywords | 三叉神経運動核 / 運動前ニューロン / 脳虚血モデルラット / 舌下神経核 / 神経トレーサー |
Research Abstract |
本研究課題は脳卒中に伴う摂食嚥下障害発生機構の神経解剖学的解明を試みるものである。平成24年度は①一過性脳虚血モデルラット作出のプロトコールの作成、および②三叉神経運動核、顔面神経核、舌下神経核、疑核へ入力するニューロンの分布様体を解明することを目指して研究計画をスタートした(昨年度の「研究実施状況報告書」に記載の通り)。①のテーマについて、その第一段階として、脳組織の標本作成を行う際の組織の変形について検討を行った。これは脳虚血が生じたときにその影響範囲を定量的に評価するときの基礎的データを得るために実施した。脳の組織標本作製に当たって、固定→切片薄切→免疫組織化学的反応→乾燥→包埋という多くのステップが必要になる。その過程で組織の変形が生じる可能性があるが、どのような変化が起こるかについての詳細な検討はなされていない。本研究での検討の結果、ラットを用いての標本作成時、特に「乾燥」のステップで大きな収縮が生じることが明らかとなった。さらに、標本(切片)の厚さが厚いほど収縮の程度が大きくなることが明らかとなった。これらのことから、虚血による脳組織の変化を評価する際には、厚さ30マイクロメートル以下の切片薄切を行えば、生体の脳組織からの収縮が5%以内に抑制できることが示唆された。また、②のテーマについて、脳への神経トレーサー注入法を用いて、ラット大脳皮質(2次感覚皮質)と口腔顔面領域の2次感覚ニューロンプールとの線維連絡について検討した。その結果、2次感覚皮質と反対側の三叉神経感覚群との間に密接な線維連絡があることが明らかとなった。このことは、大脳皮質2次感覚皮質に虚血が生じた際に、口腔顔面領域からの感覚入力に何らかの変化が生じ、摂食嚥下機能に影響をもたらすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】に記載した通り、平成24年度の研究計画実施当初に計画していた内容につき、着実に成果を上げている。脳虚血モデルラットの作出を実施するとともに、脳虚血による脳組織の変性の影響が、生体(intact animal)に対して組織標本上でいかに再現されているかを検討した。このことは、血管を結紮するという客観的に安定した処置効果(再現性)を期待しがたい方法論の下で実施する脳虚血モデル作成において、標本上での影響範囲と生体での影響範囲を対応させるための基礎的なデータを提供できた点で評価できる成果である。 また、大脳皮質の2次感覚皮質と三叉神経感覚核群との直接の線維連絡を解明できた点も評価出来る。三叉神経感覚核群は口腔顔面領域の様々な感覚情報を中継する領域である。三叉神経感覚核群の中でも特に三叉神経主感覚核や吻側核は、感覚情報を上位中枢(視床など)に送るのみならず、三叉神経運動核に入力して運動制御を行っている。本研究では中大脳動脈を結紮することによる脳虚血モデルラットの作成を目指しているが、中大脳動脈により栄養されている2次感覚皮質が虚血に陥った際に、顎運動や舌運動など摂食嚥下機能への影響を検討する上で、2次感覚皮質と三叉神経感覚核群の線維連絡が明らかになったことは大きな意義がある。 平成24年度は以上のような実績を上げたことに加え、脳虚血モデルラット作出のための手技も向上してきた。本研究課題の最終年度となる平成25年度研究計画の順調な遂行に向けての準備も整いつつあり、平成24年度の達成度は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度に当たる平成25年度は、これまでの結果を踏まえて以下の3つの視点で研究をさらに進展させる。 ①摂食嚥下機能に関与する運動前ニューロンの分布様態の解明:平成24年度は大脳皮質と三叉神経感覚核群との線維連絡を解明した。平成25年度は、三叉神経感覚核群と三叉神経運動核、顔面神経核、舌下運動核などとの線維連絡を神経トレーサー注入法を用いて明らかにする。 ②口腔顔面領域の感覚情報を伝える一次求心線維の中枢投射の解明:平成24年度の成果で、大脳皮質と三叉神経感覚核群との間に線維連絡があることが明らかとなった。平成25年度は一次求心線維の三叉神経感覚核群への中枢投射の様態を解明し、大脳皮質からの入力との関係について検討する。 ③脳組織の組織標本作成過程での変形の解明:平成24年度の成果で、脳組織が組織標本作成過程で収縮し、その影響は切片の厚さが厚いと大きくなることが明らかとなった。平成25年度はこの結果を受けて、固定操作による組織の変形、固定液の種類による組織変形の影響について検討する。 ④脳虚血モデルラットの作成:平成24年度に引き続いて、死亡率が低く、虚血による影響範囲が大きく変化しないモデルラットの作成プロトコールの開発を試みる。従来の縫合糸を利用しての結紮に加えて、ステンレスビーズを用いた方法を試みるなど、より安定したモデルラットの作出に取り組む。これら①~④の成果を踏まえて、本研究のテーマである「脳卒中に伴う摂食嚥下障害発生機構の神経解剖学的解明」を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の直接経費は90万円である。本年度の計画実施に当たって、以下の物品と消耗品の購入を予定している。 トレインディレイジェネレータ:神経トレーサーの注入に当たって、末梢神経刺激が必要となる。末梢神経(咬筋神経、舌神経、舌下神経など)を刺激する際にトレインディレイジェネレータが必要なので購入を予定している。 薬品類:神経トレーサー、神経トレーサーを標識するための抗体類、ABCキットなど、高額な薬品類の購入を予定している。また、麻酔薬、固定薬などの購入も予定している。 実験動物:モデルラットの作出には動物が必要となる。また、運動前ニューロンの分布様態の解明、一次求心線維の中枢投射の解明にも動物が必要で、それらの購入を予定している。 旅費・投稿費:実験の打ち合わせ、成果発表のための学会参加等で旅費が必要となる。また、学術雑誌への成果発表には投稿に必要な経費が必要となり、これらへの支出を予定している。
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Research Products
(3 results)