2011 Fiscal Year Research-status Report
象牙質の成長線の周期と体内時計の情報伝達分子のメラトニンの分泌リズムとの関係
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23592727
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Research Institution | Kochi Gakuen College |
Principal Investigator |
三島 弘幸 高知学園短期大学, その他部局等, 教授 (30112957)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田畑 純 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (20243248)
服部 淳彦 東京医科歯科大学, 教養部, 教授 (70183910)
里村 一人 鶴見大学, 歯学部, 教授 (80243715)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メラトニン / 歯学 / 象牙質 / 成長線 / 細胞・組織 / 遺伝子 |
Research Abstract |
成長線の周期性はサーカディアンなど生物時計との関連があり、サーカディアンリズムの同調因子は主としてメラトニンである。本研究ではメラトニンと象牙質における成長線の周期性との関係を解明し、その作用機序を探ることを目的とする。 材料としてSDラットの歯胚組織を用いた。方法として、1)妊娠ラットにメラトニン経口投与を行い、出産後5日令(歯根形成期)にて、夜間と昼間に歯胚を摘出した。その後、対照標本と投与群と比較するため、HE染色や線維染色を施した。顕微鏡と画像解析ソフトで解析した。2)対照のラットの切歯象牙質の成長線の形態学的解析、ラマン分光での解析、化学組成の分析などを行なった。 出生4日夜間時の切歯組織標本の観察において、象牙前質にヘマトキシレンに濃染する石灰化前線が観察された。昼間に屠殺した試料では、石灰化前線は濃染されない。夜間に石灰化が進行し、ヘマトキシレンに濃染する層が形成され、昼間にヘマトキシレンに淡染する層が形成され、濃染層と淡染層が対になった成長線になると考察される。また濃染層と淡染層の間隔を形成すると、平均15.50±1.15μmであった。これはサーカディアンリズムの成長線の間隔の結果とほぼ一致する。妊娠ラットにメラトニン経口投与した場合、対照群に比較し、低濃度では成長線の濃染層の幅が広がり、淡染層の幅が狭くなっていた症例が認められた。線維染色の標本では、臼歯の象牙質に対照では認められなかった成長線が観察された。高濃度ではヘマトキシリンに濃染した層のみ観察され、淡染層が認められなかった。メラトニンが、象牙芽細胞に作用し、成長線の周期性形成を制御している可能性が示唆された。メラトニン経口投与した場合、対照群に比較し、常に石灰化が亢進した状態が続くことが判明した。メラトニンが硬組織の石灰化促進にも影響があると考察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
妊娠ラットにメラトニン経口投与(低濃度20μgと高濃度の100μg)を行い、出産後5日令(歯根形成期)にて、夜間と昼間に歯胚を摘出した。メラトニン経口投与した場合、対照群に比較し、常に石灰化が亢進した状態が続き、低濃度と高濃度ともヘマトキシリンに濃染した層が観察された。低濃度では、濃染層の幅が広がり、淡染層の幅が狭くなっていた。さらに対照群では認められなかった臼歯の象牙質の中層に成長線が観察された。このヘマトキシリン濃染層は線維染色(アザンマロリー染色)を施した場合も濃染し、コラーゲン線維が密集していると判断された。この結果はFIB処理による超薄切片のTEM観察でもコラーゲン線維の密集層として認められた。高濃度の場合、対照群に比較し、石灰化前線付近に石灰化球が密に分布し、より石灰化が促進していると推測された。メラトニン投与により象牙芽細胞においてCaの分泌やコラーゲン線維の分泌が活性化されたと考察された。対照群切歯や臼歯の象牙質では確認できなかった成長線が2本のヘマトキシリンに濃染した層の間に観察された。このことは、当初の目的通り、メラトニンが成長線の周期性や成長線形成に関与しているという作業仮説を裏付ける結果となった。 象牙質の成長線の化学組成や結晶組成の解析において、SEMやTEMの観察では、象牙質に電子線の濃度による暗帯と明帯の対になった成長線が観察された。分析結果では、Ca, P, Mgの元素が検出され、明帯がよりCaやPが密集していた。顕微レザーラマン分光装置において、961cm-1にPO4のピークが検出され、そのピークは明帯で暗帯より高かつた。分析電子顕微鏡の結果と調和的であった。微量ながら暗帯でMgが増加していた。暗帯では、Caの含有量が減り、その代りMgが増え、その領域ではアパタイト結晶の中でMgがCaと置換したと考察された。
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Strategy for Future Research Activity |
抗メラトニン抗体染色を用いた免疫組織学的研究を行った。だが、うまく染色されなかった。歯胚組織中のメラトニン受容体の局在は判明できなかった。他の研究者の結果では象牙芽細胞に受容体が局在していることが判明しており、なぜ免疫染色がうまくいかないかを分担研究者と討議している。試料の摘出の問題、固定条件の問題かどうか詳細に検討していきたい。場合により、未脱灰試料に変えて、染色を試みたい。問題点を解決して、再度免疫組織を試み、象牙芽細胞の局在を検証したい。またメラトニン投与により、受容体細胞がどのように変化するなどを形態学や免疫組織学的に検討したい。 メラトニン投与により、象牙質が石灰化亢進したという裏付けを対照群と投与群のALP染色を行い、検索したい。またSEM-EDS分析やSEM-WDS分析を用いて、CaやPの元素の濃度変化により石灰化亢進を裏付けたい。Mg以外の微量元素の組成変化があるかを追求する。ラマン分光装置により、PO43-以外の分子組成の挙動変化を検討する。TEMでの観察で、アパタイト結晶の大きさやに変化が観られるかを観察する。またメラトニン投与によりコラーゲン線維の密度変化が認められるかTEMで観察する。メラトニン投与によりメラトニンレセプターのmRNA発現の日周変化を昼間と夜間とで分析し、遺伝子発現の解析を行う。時計遺伝子の探索が可能かどうか、プライマー作製の検討を行う。メラトニン投与期間では、出生後5日で主に検討してきた。この場合、成長線は2本認められた。出生後3日目から象牙質の石灰化が開始されることが判明した。しかし、2本の成長線の対照群と投与群の比較では、成長線の周期や形成出現の解明にはまだ不十分なところがある。より長期に渡る投与が必要と判断された。このため、投与し、出生後7日―10日の試料を作製し、成長線の周期性の変化をより詳細に追求する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度に得られた結果を基にして、下記の実験を行う。I、メラトニン投与の実験において、より長期間の投与(出生後7日―10日)をした場合の成長線の周期性のデータ収集を行う。メラトニン投与の象牙質の組成の解析を行う。脱灰試料を用いて、HE染色やアザン・マロリー染色を施し、観察する。さらに抗メラトニン抗体を用いた免疫組織化学法を行い、メラトニンレセプターの局在を突き詰めたい。またin situ hybridization、EPMAや顕微レザーラマン分光装置による解析を行う。(里村、田畑、三島分担)。II、メラトニン受容体(膜)遺伝子解析。歯堤形成期や蕾状期の歯胚の摘出(三島分担)。歯堤形成期や蕾状期でのメラトニン受容体(膜)遺伝子発現を調査し、メラトニン合成酵素のmRNAの発現を検索する(服部、鈴木分担)。III、象牙質での成長線の化学組成や結晶組成の解析。歯を摘出する(三島分担)。周期性の異なる成長線の化学組成や結晶組成の調査を引き続き行う。研磨標本を用いて顕微レザーラマン分光装置やX線回折法、SEM-WDS法を用いて、分析する。FIB法による超薄切片作成技術を改良し、その切片を透過型電子顕微鏡によるコラーゲン線維やアパタイト結晶の構造解析をする(三島分担)。得られた結果を取りまとめ、これまでの研究成果の発表を国内外の学会で行い、研究成果の討論を行う。 次年度に、培養歯胚の発生段階(鐘状期歯冠形成期や歯根形成期)に、メラトニンを経時的に投与し、メラトニン投与の培養歯胚の象牙質の成長線の形成過程や石灰化機構過程、あるいは組成の解析を行う計画(田畑、三島分担)を立てており、この研究計画に向けての行動計画を分担研究者と綿密に検討する。
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Research Products
(18 results)