2011 Fiscal Year Research-status Report
癌増殖での Hippo pathway の働きと間質造成における作用
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23592788
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Research Institution | Aichi Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
藤井 万紀子 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 主任研究員 (70406031)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Hippo シグナル / YAP / CTGF / TGF-beta |
Research Abstract |
本研究は悪性腫瘍の増殖とその増殖を補佐する周囲間質組織との相互作用のメカニズムを解明し、早期の有効な治療法開発に結び付けることを目的としている。その一つのアプローチとして最近注目を集めている新たなoncogeneの一つであるYAPとその上流でYAPの局在を制御するHippo pathwayについて腫瘍細胞そのものと、周囲の間質細胞双方での働きを検討する。 最近新たなoncogeneとして注目を集めることになったYAP は、癌抑制遺伝子NF2によって活性化されるHippo pathwayが負に機能調節する転写コアクチベーターであり、器官形成時にサイズを決める因子として最初にショウジョウバエでYkiとして同定された。YAPを過剰発現させるとショウジョウバエの器官が大きくなり、マウス由来線維芽細胞であるNIH-3T3細胞の細胞密度を上げた。YAP遺伝子の増幅や過剰発現は大腸がん、肝細胞がん、悪性中皮腫、肺がんなど多岐に渡る種類の癌で認められており、その中に頭頸部扁平上皮癌も含まれている。当該研究では扁平上皮癌でのYAPの働きを理解するとともに、その上流に位置するHippo Pathway の構成因子が関与するシグナルが増殖に与える影響を詳細に検討し、最終的にはHippo pathwayを標的とした新規治療法の開発のための知見を得ることを目的とする。 具体的方法としてはがん細胞増殖におけるHippo pathway, YAP の関わりについて Hippo pathway 構成因子の発現、YAPの核内への程度を検討する。細胞増殖とHippo pathway やYAPとの関連を過剰発現系、short hairpinを用いたノックダウンダウン系を使って検討し、Hippo pathway やYAPがそれぞれどのような標的遺伝子の発現を制御するかを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
癌細胞での細胞内シグナルでどのようなことが起こっているかを調べるために、我々はHippo pathwayとTGF-betaの間の協調作用を主に中皮由来細胞である悪性中皮腫細胞を用いた実験を行っていた。悪性中皮腫ではneurofibromatosis type2 (NF2)など、Hippo pathwayを制御する因子あるいはHippo pathwayに欠失がある。このような特徴のある細胞を用いてHippo pathwayとTGF-betaシグナル伝達系の間にどのような相互作用が存在するかについて調べた。 我々はHippo pathway によって制御されるYAPがTGF-betaシグナルの伝達物質Smad3と結合し、Connective Tissue Growth Factor (CTGF)発現を調節することを見出した。興味深いことに、YAPが関与しSmad3と協調的に転写を促進する標的遺伝子は限定的であり、Smad7、MMP2、fibronectinなどはYAPには影響を受けない。CTGFのプロモーター領域には特殊な配列があり、Smad3、YAP、p300、TEAD4がその領域において複合体を形成し、転写を促進すると考えられた。更に、CTGFの発現が種々のタイプのがんで細胞増殖を促進し、細胞周囲のコラーゲン造成に関与する可能性を見出した。これらのことから、TGF-betaとHippo pathwayの欠失により発現誘導されるCTGFががんの増殖に関与することがわかった。これらの結果を元に、扁平上皮癌細胞におけるHippo pathway、CTGFの役割について詳細な解析を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) YAP遺伝子の増幅や過剰発現は種々のがん細胞で認められている。YAPはOncogeneとしての機能があると考えられ、Hippo pathwayの欠失あるなしに関わらず、過剰発現や遺伝子増幅により核内の集積が上昇し、標的遺伝子の活性を上げることが可能だと考えられる。扁平上皮癌の組織切片をYAP抗体で染め、核内への集積がどの確率で存在するかを検討する。更に扁平上皮癌の細胞株を用いて細胞増殖とHippo pathway やYAPとの関連を検討する。またNF2、Latsの発現も、mRNA、たんぱくレベルで検討し、これらのたんぱく質で発現に異常がないかどうかを検討する。(2) 癌細胞周囲には間質が引き込まれ、血管新生や線維芽細胞の造成などが起こり、増殖時の酸素、栄養の補給や足場を提供すると言われている。多くの場合、結合組織ではCTGFの発現が亢進しており、線維芽細胞が密に造成されている。癌組織での間質細胞造成時に、Hippo pathway-CTGF発現系が重要な働きを担っているかどうかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
扁平上皮癌の組織切片をNF2、Lats、などのHippo pathway 構成因子の抗体で染め、 更にYAP抗体で核内への集積がどの確率で存在するかを検討する。扁平上皮癌の細胞株を用いてNF2、Latsの発現を、mRNA、たんぱくレベルで検討し、正常粘膜細胞と比べてこれらのたんぱく質で発現に異常がないかどうかを検討する。YAP、NF2を過剰発現させ、扁平上皮癌の細胞増殖に与える影響をin vitroで検討する。YAP、NF2をレンチウイルスベクターに組み込み、癌細胞に感染させる。更にshort hairpin YAPを組み込んだレンチウィルスベクターを 感染させYAPたんぱく質の発現を阻害し、両者の細胞増殖に対する影響をMTT法で検討する。 以上の実験を行うにあたり、組織切片の染色のための抗体、細胞内での発現やシグナル伝達を調べるための細胞培養のための培地、mRNA抽出、RT-PCRのための試薬、レンチウィルスベクター産生のためのプレートや試薬を購入予定である。また、学会発表を行う予定である。
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Research Products
(4 results)