2012 Fiscal Year Research-status Report
癌増殖での Hippo pathway の働きと間質造成における作用
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23592788
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Research Institution | 愛知県がんセンター(研究所) |
Principal Investigator |
藤井 万紀子 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 主任研究員 (70406031)
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Keywords | 間葉系組織由来悪性腫瘍 / TGF-b / Hippo pathway / YAP / CTGF |
Research Abstract |
口腔領域原発の悪性腫瘍としては、上皮細胞由来のものや、間葉系細胞由来のものが存在するが、本研究では間葉系組織由来の難治性悪性腫瘍の増殖とその増殖を補佐する周囲間質組織との相互作用のメカニズムを解明し、早期の有効な治療法開発に結び付けることを目的としている。口腔領域における悪性腫瘍では、治療法としては主に外科的切除法、化学療法、放射線療法などが挙げられるが、顎顔面における治療では、機能、審美性の保持が他の部位よりも重要となり、切除可能な範囲も狭く、早期の血行性、リンパ行性転移の頻度が認められる。そのため、分子標的治療法の開発が急務であるが、未だその発生、増殖、転移機構には未知の部分が多い。 新たな分子標的治療法の開発の一つのアプローチとして我々はがん微小環境に重要な役割を果たすサイトカインであるTGF-bシグナルを中心に、最近注目を集めている新たなoncogeneの一つであるYAPとその上流でYAPの局在を制御するHippo pathwayとの相互作用について、腫瘍細胞および周囲の間質細胞双方での働きについて検討を行った。connective tissue growth factor (CTGF)は、TGF-bシグナルとHippo pathwayそれぞれが直接転写に関わっているたんぱく質として既に知られている。繊維芽細胞でのYAPの働きはTGF-bシグナルのそれと似通った部分があり、CTGFが変化の中心的役割を担っていることも考えられたため、間葉系由来悪性腫瘍でのTGF-bシグナルとHippo pathway / YAPの働きを検討した。その結果、これまでに我々は悪性骨肉腫細胞株においても、TGF-bとHippo pathway / YAPの協調的細胞増殖促進作用があることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TGF-bシグナルは、口腔癌の中で占める率の圧倒的に多い扁平上皮癌のような上皮由来癌では、初期のものでは増殖を抑制するが転移を伴う段階になると、増殖促進に働くようになる。しかしながら線維芽細胞のような間葉系由来細胞では、TGF-bシグナルは最初から細胞増殖促進の作用を呈する。我々はYAPがTGF-bシグナルの細胞内伝達物質Smad3と結合し、connective tissue growth factor (CTGF)タンパク質発現を調節することを見出した。CTGFのプロモーター領域には特殊な配列があり、Smad3、YAP、p300がその領域において複合体を形成し、転写を促進する。CTGFたんぱく質は、線維芽細胞造成、血管新生などに強い作用を示すことが知られている。癌組織実質と間質との相互作用に、TGF-b、CTGF、VEGFなどが強く関与しているとみられるが、そのメカニズムには未だ明らかになっていないことが多い。我々は悪性中皮腫細胞株マウス移植モデルを用いて、CTGF を強く発現する悪性中皮腫細胞では細胞間質の量が多く、発現の少ない細胞では細胞間質の量が少なく、胞巣状の組織像を呈することを見出した。CTGFの発現低下は、悪性中皮腫細胞の細胞増殖促進作用を抑制した。これらの結果を踏まえ、顎骨で全体の5-7%が発生すると言われる骨肉腫について調べたところ、5種類の骨肉腫細胞株全てにおいて、YAPの核内での発現が増殖促進作用に強く関わっていることがわかった。更に、TGF-b刺激が骨肉腫細胞の増殖に重要であることを確認した。今後更に骨肉腫細胞でのTGF-bおよびHippoシグナル経路の関わりについて検討していく考えである。
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Strategy for Future Research Activity |
分子標的治療は、癌患者での治療の体力的負担を減らし尚且つ有効な手段として、種々の癌で実際に行われ、良好な治療成績をおさめるものも出てきている。しかしながら癌は由来の器官などによりその性質は多岐にとんでおり、それぞれの癌種におけるきめ細やかな検討が必要であると考えられる。我々は、その中でも難治度の高い非上皮由来細胞から発生する悪性腫瘍を標的とした研究を行っている。TGF-bは、上皮由来細胞では細胞増殖抑制に働くが、間葉系由来細胞では細胞増殖促進に働くことが知られており、TGF-bによる細胞増殖促進作用を中心に研究を進めて行きたいと思っている。更に上皮由来細胞より発生する悪性腫瘍でも、悪性度が進行するにつれ、TGF-bの作用が抑制から促進に変化するということがあり、EMT (epithelial-mesenchymal transition)やepigeneticな変化によるものという議論がある。これらを踏まえ、骨肉腫細胞株を用いて細胞増殖に対するHippo シグナル経路、YAP の関わりについてHippo pathway 構成因子の発現、YAPの核内移行の程度を過剰発現系、short hairpinを用いたノックダウンダウン系を使って検討する。Hippo pathway やYAPがそれぞれどのような標的遺伝子の発現を制御するかを検討する。マイクロアレー等を用いて、癌実質における遺伝子の全体的な変化を検討する。更にTGF-b、YAPがCTGFを介して周囲に存在する繊維芽細胞、血管造成にも関係していることをin vivoおよびin vitro実験で検討する。以上の検討により骨肉腫細胞株の増殖におけるTGF-シグナル伝達系の関与を明らかにし、YAPを標的とした間葉系由来悪性腫瘍の新規治療法の基礎的知見を得ることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は、YAPおよびHippo pathwayとTGF-bシグナル伝達系の関係について検討した論文の執筆を行い、また研究に使用する最適な細胞の収集選別に時間がかかったため、予定していたシグナル伝達系に関与するタンパク質の抗体、分子生物学実験用試薬および消耗品、生化学実験用試薬および消耗品、細胞培養関連試薬、実験動物管理・維持費等を次年度での購入予定として繰り越した。既に骨肉腫細胞株を用いた基本的な増殖アッセーや、抗体を用いた発現チェックは終わっており、次年度は2つのパスウェーの関連を分子生物学的、細胞生物学的手法を用いた解析を中心に行う予定である。更に解析が進めば、動物実験を用いて、組織構築に及ぼす影響を解析していく。
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Research Products
(8 results)