2012 Fiscal Year Research-status Report
難治性根尖性歯周炎の血管内皮細胞を介した炎症の遷延と治癒機構の解明
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23592811
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
武市 収 日本大学, 歯学部, 講師 (10277460)
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Keywords | 慢性根尖性歯周炎 / 歯根肉芽種 / midkine / 誘導型一酸化窒素合成酵素 / 臍帯静脈血由来血管内皮細胞 / real-time PCR / Porphyromonas gingivalis |
Research Abstract |
外科的に摘出した根尖病巣組織50例を試料とし、メスで2分割した。一方を中性緩衝ホルマリンで固定したのち、パラフィン切片を作製し、ヘマトキシリンーエオジン重染色した。試料の84%(42例)は重層扁平上皮とコレステリン結晶を含まず、肉芽組織中には幼弱な血管に富む高度な細胞浸潤を伴うため、歯根肉芽腫と病理診断し、以下の検索に供した。 分割した他方を用いてmRNAを抽出し、相補的なDNAを合成した。ヒト誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、midkineおよびG3PDHに特異的なPCRプライマーを用いて、real-time PCR法による定量的遺伝子検索を行ったところ、全ての試料でiNOSおよびmidkineのmRNA発現を認めた。なお、iNOSとmidkineの遺伝子発現の割合には相関性を認めなかった。 なお、陰性コントロールとしてインプラントの二次手術時に摘出した健常歯肉を試料とし、歯根肉芽種と同様に試料の検索を行ったところ、炎症細胞浸潤の程度は低く、また血管内皮細胞の数も少なかった。また、real-time PCR法による分析を行った結果、歯根肉芽種に比較して有意に低いiNOSおよびmidkineのmRNA発現を認めた(Kruskal-Wallis test)。 Porphyromonas gingivalisから温フェノール法を用いてLPSを抽出したのち、凍結乾燥した。LPSの定量を行ったのち、ヒト臍帯静脈血由来血管内皮細胞(HUVEC)に対してLPS、リコンビナントヒトinterferon gammaおよび腫瘍壊死因子で共刺激を行ったところ、real-time PCR法によりiNOSとmidkineの遺伝子発現が確認された。 以上のことから、iNOSおよびmidkineは炎症特異的に発現され、血管内皮細胞を介して歯根肉芽種の発症に影響している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたよりも多くの試料を収集することができ、研究に供試することができたため、多くの研究データを得ることができたことが研究達成に大きく貢献している。 研究内容については、病理組織学的、免疫組織学的および分子生物学的手法を用いて検索しているが、それらは申請者が以前から常日頃行っている手法であり、内容を熟知しているため、研究自体は非常に円滑に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究結果から、歯根肉芽種中の血管内皮細胞で、midkineおよび誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の強いタンパク発現が確認された。また、平成24年度の研究結果では、歯根肉芽腫中のmidkineおよびiNOSの遺伝子発現が確認され、健常歯肉に比較して有意に高い発現を示した。根尖性歯周炎の原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalisから抽出したLPSを用いて、ヒト臍帯静脈血由来血管内皮細胞(HUVEC)を刺激したところ、midkineおよびiNOSの強い発現を確認したことから、歯根肉芽種中の血管内皮細胞がこれらmidkineおよびiNOSの発現に大きく関与していることが推察された。 今後は、歯根肉芽種中で発現しているmidkineの機能を解析することを目的として研究を行う。すなわちchemokineの細胞遊走能に着目し、代表的な細胞遊走因子であるchemokineとmidkineの歯根肉芽種中の発現および細胞遊走能を比較検討していく所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度購入予定であったヒト臍帯静脈血由来血管内皮細胞(HUVEC)は初代培養のものを購入したが、一般的に継代4~8代のものを使用することが推奨されている。培養が難しく、cell lineと違い、増幅し続ける細胞ではないため、10回程度HUVECを購入すると目算し、経費に計上した。しかし、その全てを購入する前に平成24年度で計画した研究のデータが得られたため、HUVECを全て購入することがなかったことから、若干の余剰金が発生した。余剰金については、以下に記す平成25年度の使用計画のうち、培養実験に用いるHUVECの購入に当てる予定である。 平成25年度は、歯根肉芽種におけるchemokineとmidkineのタンパクおよび遺伝子発現を検索する。また、Porphyromonas gingivalisから抽出したLPSを用いてHUVECを刺激し、同様にchemokineとmidkineのタンパクおよび遺伝子発現を検討し、歯根肉芽種の検索結果と比較検討する。そのため、HUVECおよび細胞培養液を購入する。細胞遊走を解析する方法として、免疫組織学的検索(蛍光二重免疫染色法)および分子生物学的検索(real-time PCR法)を行うため、抗体と検出キット、遺伝子解析用試薬およびそれらに使用する器具を物品費として購入する。 これらの研究結果を、平成25年9月4-7日にフィレンツェ(イタリア)で行われるInternational Association for Dental Research (IADR)での学術大会で発表する予定である。また、日本歯科保存学会(秋田県)に参加し、成果の発表および研究に関する調査、情報の採取を行う予定であり、旅費と学会参加費を申請する。同時に、研究成果を専門の英文雑誌に投稿する予定であり、投稿前に英文校正(校閲)を依頼するため、その費用を申請する。
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