2011 Fiscal Year Research-status Report
DLC膜コーティングと化学修飾を併用したチタン製口腔インプラントの表面機能化
Project/Area Number |
23592895
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
遠藤 一彦 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (70168821)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 純チタン / DLC膜 / 耐食性 / 化学修飾 / 生体活性化 |
Research Abstract |
本研究では、純チタンの表面にダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を形成し、さらにその表面に生体機能性分子を固定化する化学修飾法を確立することによって、耐久性と機能性に優れた口腔インプラントのフィクスチャーとアバットメントを開発することを最終目的としている。研究初年度である平成23年度は、主に鏡面に研磨した純チタン試料の表面にプラズマイオン注入・成膜(PBIID) 法を用いてDLC膜を形成し、酸性フッ化物溶液中(0.9% NaCl + 0.1% NaF溶液、pH4.0)における耐食性を電気化学的手法、ICP発光分光分析法および表面分析法を用いて評価した。最表層の成膜条件は、メタン、アセチレンおよびトルエン混合ガス雰囲気にて、真空度0.7 Pa、高電圧パルス印加電圧10 kV、プラズマ生成高周波出力300 Wとした。断面のSEM観察から、膜圧は約3μmであった。酸性フッ化物溶液中で腐食電位を測定した結果、研磨した純チタン試料は浸漬直後から電位が急激に低下して約-1 Vとなったのに対して、DLC膜でコーティングした試料では電位の急激な低下はみられず、浸漬12時間後も-0.2Vと高い値を維持した。浸漬試験の結果、研磨した純チタン試料から溶出したチタンは235.8±38.7ng/cm2であったのに対して、DLC膜でコーティングした試料では0.20±0.07 ng/cm2と有意に少なかった(Student's t-test, p<0.001)。また、浸漬後の試料表面をSPMで調べた結果、研磨試料の表面粗さ(Ra)は48.3±7.3 nmであったのに対して、DLC膜でコーティングした試料では5.8±1.8 nmと小さな値を示した。以上の結果から、DLC膜コーティングを施すことによって、純チタンの酸性フッ化物溶液中における耐食性を飛躍的に向上できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の計画通り、試料の作製と酸性フッ化物溶液中における耐食性評価の実験を実施することができた。また、酸性フッ化物溶液中における純チタンの腐食は、DLC膜コーティングによって予想以上に効果的に防止することができた。これらの結果に基づいて、来年度以降の研究計画を変更することなく実施することができる。 また、副次的成果として、矯正用ブラケットの表面にDLC膜をコーティングしたところ、硬さの値が著しく高くなるとともにワイヤーとのフリクションが低減化した。洗口剤溶液として使用される酸性フッ化物溶液中における耐食性も高くできることから、臨床的に極めて有用な表面処理であることを明らかにしている。これらの成果の一部をまとめた論文はEuropean Journal of Orthodonticsに受理され、印刷中の状態となっている。T. Muguruma, M. Iijima, W.A.Brantley, S. Nakagaki, K. Endo, I. Mizoguchi: Frictional and mechanical properties of diamond-coated orthodontic brackets. Eur. J. Orthod., in press.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、申請時に立てた研究計画通りに実施する予定である。すなわち、平成24年度は、DLC膜を形成した純Ti試料の耐磨耗性を評価するとともに、DLC膜の表面に生体機能性分子をその活性を低下させることなく結合させる化学修飾法を確立する。さらに、接着性タンパク質であるコラーゲンやフィブロネクチンで化学修飾した表面におけるヒト骨髄間葉系幹細胞の動態について詳細に調べる。今年度に繰り越した研究費は186円と少額であり、今度の研究計画や研究の遂行に影響はない。 平成25年度は、ラミニンで化学修飾した試料の表面におけるヒト歯肉線維芽細胞ならびにヒト歯肉上皮細胞の動態を明らかにする。また、研究の総括を行って、DLC膜の形成と生体機能性分子を用いた化学修飾法を併用して処理した口腔インプラントのフィクスチャーとアバットメントの機能と耐久性に関して明らかにするとともに、臨床応用の具体的方法とその意義について提示する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の主用途は、今年度と同様に物品費(消耗品)になる予定である。そのほか、現在までに得られている成果をブラジルで開催される国際歯科学研究会(IADR)で発表するほか、国内で開催される専門学会で1回発表する予定であり、出張費を35万円ほど計上する予定である(海外出張30万円、国内出張5万円)。
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