2011 Fiscal Year Research-status Report
抗酸化物質を用いた口腔癌周囲環境中の活性酸素を治療標的とした新規治療法の開発
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23592953
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松沢 祐介 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (30351620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋田 京子 北海道大学, 歯学研究科(研究院), その他 (40399952)
大賀 則孝 北海道大学, 歯学研究科(研究院), その他 (40548202)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 腫瘍微小環境 / 活性酸素 / 腫瘍血管内皮細胞 / 口腔癌 |
Research Abstract |
さまざまな環境要因からの活性酸素が、癌の発症や進展に関与していると考えられている。口腔内は、喫煙、熱刺激、香辛料刺激、機械的ストレスなど、活性酸素が発生しやすい環境である。腫瘍微小環境の炎症細胞は、活性酸素、ケモカイン、プロスタグランジンなどさまざまなメディエーターを放出し、癌の悪性化の進展の実行役である。しかし、炎症細胞の他に腫瘍微小環境の間質を構成する腫瘍血管内皮細胞(TEC:tumor endothelial cell)、腫瘍関連線維芽細胞の活性酸素による癌の悪性化への影響を検討した報告はみられない。われわれはこれまで腫瘍血管内皮細胞が正常血管内皮細胞(Normal Endothelial Cells: NEC)と比較して,(1)増殖能、運動能などの生物学的活性が高い(2)薬剤抵抗性を有する(3)特異的な遺伝子の発現する(4)染色体不安性があるなどさまざまな点で異なることを報告してきた。申請者らは、腫瘍血管内皮の染色体異常、核異型などのゲノム不安定性に、腫瘍血管内皮が産生する活性酸素が関与しているのではないかと着想した。 H23年度の本研究では、腫瘍間質を構成する腫瘍血管内皮細胞の活性酸素産生能を、正常血管内皮細胞(NEC:Normal Endothelial cell)と比較して解析した。また腫瘍組織は線維芽細胞、マクロファージ、腫瘍血管などから構成され る複雑な組織であり、低酸素環境になっていることが知られている。腫瘍血管では血管同士の結合が疎で、組織間圧が上昇し、有効な血液循環が得られていないため、低酸素に曝されている部分がみられる。そこで正常血管内皮に低酸素ストレスを加えることにより腫瘍微小環境のような疑似環境を構築し、正常酸素状態と低酸素状態における活性酸素に対する影響を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト舌癌細胞(HSC-3)、ヒト高転移性腫瘍細胞(A375-SM)をヌードマウスに皮下移植し、腫瘍塊からの血管内皮マーカーであるCD31抗体を用いて、舌癌由来腫瘍血管内皮(HSC3-EC)ヒト高転移性腫瘍細胞由来(Highly metastatic tumor endothelial cell: HM-TEC)を分離・培養した。正常コントロールとして、正常皮膚から血管内皮を分離・培養した。PCR法とフローサイトメーター解析で、分離したTECとNECにおいて血管内皮マーカー(CD31、54、105、144)の発現があることや管腔形成能があることを確認した。一回の採取で腫瘍組織中に血管内皮細胞は2~5%しかおらず、分離できた腫瘍血管内皮はきわめて希少である。このように培養腫瘍血管内皮細胞が、血管内皮マーカーを発現し、他細胞の混入がないことを確認した後、分離・培養したTECとNECにおける細胞内活性酸素量の測定を、フローサイトメーターと細胞浸透性蛍光プロー ブ 2’, 7’-Dichlorodihydrofluorescin diacetate (DCFH-DA)を用いて行った。今回用いた細胞浸透性蛍光プロー ブ 2’, 7’-Dichlorodihydrofluorescin diacetate (DCFH-DA)は、細胞内の活性酸素によりDCFに酸化され蛍光を発するシステムで、蛍光強度は細胞質ゾルのROSレベルに比例する。TECとNECにおける細胞内活性酸素量の測定をしたところ、NECに比べ、TECにおいてROSの産生が高かった。またNECに低酸素ストレスを与えると、定常酸素状態に比べROSの産生が高いことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度以降では正常血管内皮に比べ、1)腫瘍血管内皮において活性酸素が高いことや2)低酸素ストレスで、正常血管内皮における活性酸素が上昇することのメカニズム解明の基礎的研究を行う予定である。ROSの上昇に、血管内皮のおけるVEGF-VEGF-R シグナリングが関与しているとの報告が最近みられる。そこで、低酸素ストレス下正常血管内皮での、PI3Kの経路、Aktシグナリングの活性化の関連、NF-κB細胞内シグナル伝達をwestern blotting法を用いて解析予定である。また、癌組織は強い低酸素とともに、極度の低栄養状態にある。そこで、低酸素低酸素(1%~5%02)、低血清下(無血清培地下)で、活性酸素(ROS)能が変化するかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度研究費の使途はほとんどが消耗品である。腫瘍血管内皮における活性酸素(ROS)測定キットならびにROSを介したシグナル伝達経路の検索用の抗体も必要と考えられる。また、血管内皮の初代培養には高価な培地を必要とし、培養用試薬の項目も必要なものとして考える。H23年度は、ヌードマウス皮下移植塊からの血管内皮の分離・培養に効率よく行うことができ、当初購入を予定していたヌードマウスの一部分を購入する必要がなくなっため、未使用額が発生した。H24年度は、腫瘍から分離した血管内皮の特性を解析するために、初代培養を継続的に行う必要があり、CD31抗体、血管内皮専用の高価な培地を必要とし、培養用試薬の項目も必要である。またフローサイトメーターの管理・測定において、精度管理ビーズやフロー液、蛍光付き抗体などの高価な試薬が必要である。
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