2012 Fiscal Year Research-status Report
口腔内細菌叢解析に基づく齲蝕・哺乳齲蝕病因論のリコンストラクション
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23593043
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Research Institution | Tokyo Dental College |
Principal Investigator |
櫻井 敦朗 東京歯科大学, 歯学部, 助教 (90431759)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新谷 誠康 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (90273698)
丸山 史人 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30423122)
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Keywords | 口腔内細菌叢 / 乳酸桿菌 / 哺乳齲蝕 / 齲蝕 |
Research Abstract |
これまで齲蝕の原因菌は、歯面定着性、酸産生能の高さからミュータンスレンサ球菌が主力であると考えられてきた。しかし、口腔は約600種類の細菌種が生息していると考えられており、さらに外界からも多様な微生物の侵入にさらされていることから、齲蝕をはじめとする口腔疾患が単一の細菌種のみで説明できるとは考えられない。近年高速シークエンサーの登場により、数十万塩基もの遺伝子配列が数時間で取得できるようになり、ウェブ上のデータベースと照合すればその遺伝子がどんな細菌種に由来するものであるかを推定することができる。本研究ではその手法を利用して小児を中心とする口腔の細菌叢の全貌の把握、齲蝕や哺乳齲蝕の発症に関与する細菌種の同定を試みた。平成23年度より申請者の所属する病院の小児歯科に来院した1~9歳児の患児から歯面プラークを採取し、培養法では主に乳酸桿菌属細菌の単離・同定を、さらに歯面プラークからの細菌由来ゲノムの抽出を行って、16S rDNAをターゲットにした次世代シーケンサーによる解析を行っているが、試料数はすでに125に達し充分な量となった。乳酸桿菌の検出頻度と齲蝕発生には相関関係が認められるほか、特にL. fermentumを保有していた被験者においては重症齲蝕が頻繁に発生していた。元来乳酸桿菌は付着能を有さないことから主に唾液中に存在すると考えられてきたが、本研究では歯垢中から多くの乳酸桿菌を検出し、歯面バイオフィルム中に少なからず存在すると考えられる。また、シーケンサー解析は約40の試料について行い、平均5000 readの遺伝子情報を得た。小児は成人よりも口腔内に多くの細菌種が存在しており、個体間のバリエーションが多いことを明らかとした。現在口腔内の状況や保護者への聞き取り調査の結果と照合し、口腔内細菌叢と口腔疾患の関連についてさらに解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年~25年度は、平成23年度に得た歯面バイオフィルムを試料して培養、シーケンス解析をした結果から、ピックアップした菌種の菌数・菌株数と口腔内診査・アンケートとの相関解析およびピックアップした菌種の齲蝕原性に関する解析および既知の齲蝕原性菌との相互作用に関する解析を行う予定であった。そのために新たに対象とする患児より試料の採取を行うこととしていたが、試料数はすでに125に達し充分な量が達せられた。培養法による研究では本研究では乳酸桿菌属細菌をターゲットとすることとし、これらの培養・単離・同定手法を研究室内で確立しており、試料中の菌数・菌種の解析が順調に進んでいる。単離された菌の菌種同定に基づいた乳酸桿菌属細菌の構成と口腔内診査・アンケートとの相関解析を現在進めているが、L. fermentumの高齲蝕誘発性、乳酸桿菌のバイオフィルム中の存在については学会発表のほか、医療従事者を対象とした招待講演でも取り上げて報告を行っている。さらに,同一試料より得られた一つの菌種であってもすべてが同じ遺伝子プロファイルを持った単一の菌株に由来するとは限らず,またL. fermentumなどでは複数の菌株を口腔内に有していると重症齲蝕が多くなることを、CHEF–DRIIによるパルスフィールドゲル電気泳動を行うことで明らかとした。次に、16S rDNAをターゲットにした、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析についてはこれまでに約50名の試料について完了した。昨年度は得られたread数が十分量に満たない試料があったが、解析のための試薬等を工夫することにより十分なread数を得ることができた。シーケンス解析の手法は相当程度確立できたと考えられるため、今後はもう少し試料数を増やしたい。また今後、口腔内細菌叢の構成の解析および口腔内診査・アンケートとの相関分析を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究予定は平成24年度に引き続き①ピックアップした菌種の菌数・菌株数と口腔内診査・アンケートとの相関解析、②ピックアップした菌種の齲蝕原性に関する解析および既知の齲蝕原性菌との相互作用に関する解析、である。①については昨年度より検討をすすめており、すでに学会発表や招待講演で発表しているが、今年度も解析を雑誌論文への発表を行う。本年度はパルスフィールドゲル電気泳動を未実施の試料すべてについて行い、一つの試料中の同一菌種内に異なる遺伝子プロファイルを持つ菌株がいるか否かを確定する。得られた結果と口腔内診査記録や生活習慣に関するアンケートと再度照合を行い、相関の有無を検討する。②については、口腔内細菌叢解析による遺伝子データの蓄積を進め、小児から成人に至るまで標準的な細菌叢の変化に関する基準の作成を行う。その上で数種の菌種については、S. mutansをはじめにした複数菌種の存在下での解析を進めたいと考えている。具体的には既知の齲蝕原性菌とピックアップした菌、またはピックアップした菌種同士の複数の組み合わせによる、口腔を模した環境における菌増殖や歯面への付着能試験,バイオフィルム形成の評価,酸産生能試験を行う。それぞれの試験は単独の菌を供試した場合と比較する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度はパルスフィールドゲル電気泳動装置、リアルタイムPCR、遺伝子シーケンスにかかる消耗品,細菌培養,プラスチック類の費用として計500千円、研究打ち合わせ費・国内学会参加費として100千円,論文投稿費用として200千円を計上している.また昨年度からの繰り越しが73,709円となっているが、これは平成23~24年度までに手法の確立ができた16S rDNAをターゲットにした次世代シーケンサー解析について、さらに試料数を増やしてデータの蓄積を図るために、試薬等の購入のために使用する予定である。物品費についてはすべて消耗品として使用する予定で、設備備品の購入は予定していない。
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Research Products
(9 results)