2011 Fiscal Year Research-status Report
食品成分と齲蝕原性バイオフィルム及びαグルカンの相互作用に関する研究
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23593118
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Research Institution | Iwate Biotechnology Research Center |
Principal Investigator |
矢野 明 (財)岩手生物工学研究センター, 生物資源研究部, 主席研究員 (50312286)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | alpha-glucan / Streptococcus mutans / biofilm / polyphenol |
Research Abstract |
本研究は、口腔常在菌及びミュータンスレンサ球菌を含む齲蝕原性バイオフィルム中のαグルカンの役割を解明すること、また食品成分の齲蝕予防機能を、GTF阻害によるものとそれ以外のものに分けて明らかにすることを目的とする。H23年度の計画では、αグルカンをプレート表面上に固定し、αグルカンそのものへのStreptococcus mutansの直接相互作用およびbiofilm形成におけるαグルカンの役割について解析することを予定していた。 S.mutans培養液より菌体外多糖(α-1,3-1,6グルカン)及び組換え株よりα-1,3-グルカンを精製、α-1,6グルカンとして市販デキストランをプラスチック上に固定し、蛍光標識S.mutans菌体との結合を検討したところ、予想に反し、どのグルカンに対しても有為な結合を検出できなかった。唾液コート面への付着は同様の系で検出できることから、グルカン面への付着は、歯面への初期付着よりも弱いことが推測された。一方、αグルカン上でスクロースを含まない培地を用いてS.mutansを培養した場合に、マイクロコロニー形成→biofilm状の菌塊形成が観察された。菌塊量はグルカン量に比例して増加した。この事から、新たなグルカン合成が無くとも、αグルカンが十分量存在すればbiofilmが形成されることが示唆された。グルカン結合蛋白質は、様々な口腔細菌から報告されているが、S.oralis, S.gordonii, S.sanguinisについては、biofilm様の菌塊の形成が観察されず、S.mutansがαグルカンを活用する独自の機構を持っている事が示唆された。但し、デキストランについては菌によって代謝消失してしまうためか、培養後も菌体が付着せずその役割を明らかにできなかった。デキストランの役目を明らかにするためには、別のアプローチが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プラスチック表面上へのαグルカン固定を実施し、口腔レンサ球菌のグルカンへの付着能を蛍光ラベルによって評価した。手法としてはハイドロキシアパタイトへの初期付着を評価可能な感度を有するが、グルカン表面への付着が予想以上に弱く、定量的検出が困難であった。さらにα1,6グルカン(デキストラン)については、細菌に利用され消失してしまうと思われ、相互作用の解析が出来ないことが判明した。そこで、α1,3及びα1,3-1,6混合グルカンに解析対象を限定し、口腔細菌を培養することで、バイオフィルム状の菌塊が形成される量を測定する系を構築し、グルカン-口腔細菌間の相互作用を評価することとした。その結果、予想通りαグルカン表面での培養を行うことで、Streptococcus mutansはsucroseなしでbiofilm様の菌塊を形成することが明らかになった。GTFによる新たなグルカン合成が無くとも、グルカンが十分量存在すればbiofilm形成が行われる可能性を示す重要な新知見である。他の口腔細菌(S. gordonii, S. oralis, S.sanguinis)は、biofilm様の菌塊形成がほとんど起きなかった。顕微鏡による形態観察は、スライドグラス表面へのグルカン固定が不安定で、安定したデータの取得に至っていない。 一方で、食品成分のbiofilm阻害活性については予定以上の研究進展があり、ヤマブドウ由来ポリフェノールが歯面への初期付着を強く阻害する事が明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
αグルカン固相表面にbiofilm様の菌塊形成が行われる事が判明したが、これがbiofilmであるかどうか、マーカー遺伝子の発現を解析することで確認を行う。さらに、多菌種存在下での菌塊形成についても解析する。食品成分が菌塊形成の阻害作用を示すか検討を行う。具体的にはヤマブドウ由来ポリフェノール成分、食品由来多糖成分等について、菌体の初期付着、菌塊形成阻害能が見られるか確認する。さらにポリフェノール等がGTF活性の阻害及びバイオフィルム中のグルカン量を減少させるか調べる事で、齲蝕予防作用の全体像を明らかにする。その上で、食品成分の活用について新規手法があり得るかどうか探索を進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に、試薬、培地、プラスチック製品等の消耗品費の購入に充てるが、口腔細菌の培養をより安定させるためにCO2インキュベータの購入を行う計画である。
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