2012 Fiscal Year Research-status Report
薬剤耐性菌出現を防止するための、看護師の手指表面免疫物質による抗菌効果
Project/Area Number |
23593142
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
荒川 満枝 大分大学, 医学部, 准教授 (00363549)
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Keywords | 手指衛生 / 薬剤耐性菌 / 免疫 / サイトカイン / 看護師 |
Research Abstract |
抗菌剤の乱用がもたらした薬剤耐性菌の出現は世界的な問題である。看護師の手指は患者に直接接触する機会が非常に多く、手指衛生は院内感染防止の最重要ポイントである。これまで我々が明らかにしてきた看護師の「手指表面の正常な免疫機能」という視点から、本研究は、「手指の免疫機能と皮膚常在菌との相互作用」を明らかにすることを目的としている。 H23年度に、手指表面に存在する一部のサイトカイン測定方法として、ELISA法の構築・最適化を概ね完了し、安価な測定が可能となっていた。また、手指表面物質と手指の常在菌をご提供いただくボランティアを募集に関しては、学内研究倫理委員会へ諮問を経てボランティア募集をH23年度末より開始した。今年度、約30名のボランティアの協力が得られ、手指の細菌と共に手指表面の物質を採取し、これを使って、上記で構築したサイトカインの測定を実施したところ、個人によって検出されたサイトカイン、その他免疫物質の種類や量に差があった。 資料採取の際は、手洗いを全くしない時(手洗い前の状態)のものと、何らかの手洗い(日常手洗い、衛生的手洗いなど)をしたもの(手洗い後の状態)とをランダムに実施して採取したため、今後詳細な解析を行って、手洗いが手指表面の免疫物質に与える影響を検討する計画である。細菌の同定、手指表面物質の細菌増殖抑制効果については、今後実験に供せるよう、試料を適切に保存した。 さらに、学会としての手指衛生に対する考え方、法改正、臨床の動向、世界的な手指衛生の動向、研究方法などについては、病院感染や消毒に関するセミナーや日本ワクチン学会学術集会に参加し、情報収集を行った。さらに昨年度に引き続いて皮膚等の研究を行っている看護系大学教員と研究会を行い、本研究の結果について考察を重ね、発表すべき学会等について示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、「手指の免疫機能と皮膚常在菌との相互作用」を明らかにすることを目的とし、具体的には、以下の3点を明らかにすることとしている。1.安価で有用な手指表面サイトカイン測定システムの構築。2.個人特性による手指表面サイトカイン分泌の違いと常在細菌叢への影響。3.手洗い方法が手指表面のサイトカインに与える影響。 上記目的のうち、1.に関してはH23年度に概ね順調に条件検討が終了し、本年度実際の試料を測定したところ、予想通り希釈等の配慮は必要であったが、構築した系に大きな問題はなかったため、ELISAによるサイトカ等の免疫物質の種類と量についての結果を出すことができた。結果として、個人によって検出されたサイトカイン、その他免疫物質の種類や量に差があり、論旨の方向性は概ね定まってきたところである。現在ELISAのみで行っている測定は、論文としてまとめる際にウエスタンブロット法等で確認が求められると考えているが、まだ着手できていない。 2.3.の達成のため、H23年度には、細かな試料採取方法や保存方法に関して予備実験を概ね終了したため、本年度はボランティアとして健常な手指を持つ約100名を予定していたが、現在約30名の協力者が得られたところである。ただ、30名いずれのボランティアも研究の趣旨を良く理解され、本研究に期待をかけられる方が多く、大きな興味を持って参加していただいたため、各種の手洗い前、手洗い後の結果を得ることができるなど、当初の計画よりも比較検討が可能な試料採取ができた。従って、現在の結果でも、予定の100名よりは少ないが、目的達成には十分であると考える。ただ、より正確な結果を得たいため、今後さらに30名程度のボランティアの募集を実施し、試料を得て細菌の培養や各測定をしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
目的を達するために、ボランティアとして健常な手指を持つさらに約30名を予定している。H25年度半ばまでは募集を続け、試料数を増やすことが出来るよう、適宜ポスターの更新などを行いたい。得られた試料を使って適宜測定、細菌同定,保存の作業を行う。試料の採取・測定・細菌同定・保存には24年度の30名でも、多くの時間を要したが、研究者は試料採取,測定ともに熟練してきており、今年度よりもより迅速な結果処理は可能であると考えている。 同時にボランティアの特性と手指表面サイトカイン分泌、常在細菌叢の情報の整理を適宜行いながら、学会にて結果の公表を行う。学会発表では、識者の意見をいただく機会を得、論文作成に繋げたい。 25年度には冷凍保存していた細菌および手指表面物質を使用して、手指表面物質の抗菌効果を測定する。測定方法に関しては、細菌の増殖抑制を指標としながら、顕微鏡観察などを併せて、根拠を明確に示す。研究方法として新しく紹介されるものがないか、適宜情報を集めながら吟味する。 また25年度も、学会としての手指衛生に対する考え方、法改正、臨床の動向、研究方法などについては、常に各学会等を通して情報収集・情報交換を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度はさらにボランティア募集をし、試料採取・測定を行うため、引き続きディスポーザブル器具や測定したデータ保存のためのメディアが大量に必要となると考えられる。特にサイトカイン測定のための抗体等に、予算を多く使用する。 試料の大量採取に伴って、連携研究者には、試料の採取、試料の凍結保存、試料管理、必要時には実験の補佐に当たってもらわなければならないため、年に3回ほど本学への出張をお願いするための旅費を要する。学会発表や学会やセミナー、勉強会での情報収集・情報交換のための旅費も使用する予定である。
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