2011 Fiscal Year Research-status Report
里親不調により里子との離別を体験した里親のメンタルヘルスとそのケアに関する研究
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23593477
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Research Institution | Seirei Christopher University |
Principal Investigator |
入江 拓 聖隷クリストファー大学, 看護学部, 准教授 (30267877)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 養育里親 / 里親不調 / 離別 |
Research Abstract |
本研究の目的は、(1)里親不調により里子との離別を余儀なくされた「里親」の「語り」の分析をおこなうことにより、里親の負担感に関する体験の構造を明らかにし、(2)子どもにとっての安全な養育環境の大前提である里親のメンタルヘルスとそのケアに関する要点を検討することにある。H23年度は、以下3点について実施した。1.里親不調を体験した里親の手記および全国調査資料を対象としたテキストマイニングによる分析:当事者の主観的体験の構成概念を探索的に検討し、半構成的インタビューの際の妥当な質問項目の検討をおこなった。2.研究対象者の選択:研究者が関与する当事者団体である里親会、全国ファミリーホーム連絡協議会の会員、児童養護関連学会の参加者である養育里親(専門里親含む)のうち、「里親不調による措置変更を体験していることを、全国大会(学会)や地方の当事者団体、児童養護、福祉関係の研究会、ワークショップ等で等で自ら公表している者」で、それら学会や研究会のセッション終了後の会場において本研究の趣旨および概略を直接口頭で説明し、研究協力を依頼した。その際、里親不調による措置変更を体験後3年以上経過し、措置解除・変更にいたるプロセスやその当時の思いをある程度冷静に言語化でき、家族や養育中の里子にも悪影響がないと本人が判断していることを確認後、「後日研究協力依頼書および同意書を郵送する旨」を伝え、名刺等の交換をおこない連絡先を把握し、最終的に里親4名よりインタビューの承諾を得た。3.実施した文献検討および里親、小規模居宅型児童養護施設運営者、児童擁護関係団体の役員および、研究者とのディスカッションによる課題の抽出と整理の結果を関連雑誌に投稿した(児童養護とファミリーホーム、vol.2, pp88-93,pp133-139)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に必要なデータは、当事者の体験談をもとにした書籍やブログ等の情報発信や出版などの機会と才能に恵まれたごく一部の養育者のそれではなく、サイレントマジョリティーとも言うべき物言わぬ大多数の里親の言葉の中にあると考え、全国的に調査された自由記述データに関するデータベースが無いか検索した結果、日本グループホーム学会が実施し、平成21 年度独立行政法人福祉機構助成事業の報告書として出版した「障害児の里親促進のための基盤整備事業報告書」に養育里親の体験する具体的な負担感に関する自由記述データを見出すことができた。pp79-149)。これは障害児の里親促進のための調査であるが、実質的には養育里親が児童相談所を通して受託する里子のほとんどすべてが、実親との離別と言うトラウマを経験しており、様々な障害があるが故に、核家族化した今の社会状況の中で、養育を担う実親が地域の中で孤立化し虐待に及んでしまった結果、保護されてくるという経過を伴っているので、本研究で扱う「育てにくい子供を養育する里親の主観的な負担感」の検討に資するデータであると思われた。それら自由記述の内容は納得できるものであり、コンピュータで解析するためのテキストデータとしても妥当な形式、分量であると判断されたため、里親の養育上の負担感の構造を検討するための主要データとすることとした。それにより、里子との離別に伴う里親の主観的体験や養育上の負担感の構造が明らかになりつつあり、負担感を構成するいくつかの概念を抽出し、インタビューの際のキーワードとして採用した。H24年度に実施するインタビューの被験者の承諾も順調に得ることができた。それらの方法等については研究者の所属する機関の倫理審査を通過した。
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Strategy for Future Research Activity |
数名の養育里親に対して、半構成的インタビューを行うが、個人のプライバシーの保護のために、研究中はデータの管理に十分留意し、特に下記については尊守する。1)インタビュー内容を逐語録に作成する際には、個人を特定できるような事柄は匿名で記載する。研究結果の公表にあたっても、個人名は勿論、居住地域、時期が特定できないように処理を行う。発表もしくは投稿原稿の該当箇所の事前確認について約束する。2)ICレコーダーに録音した音声データと逐語録は施錠可能な部屋に保管し、研究終了後には音声データおよび逐語録として書き起こした内容は研究者の責任において、消去、裁断・破棄することを約束する。3)データの処理は、ネットに接続されていないパソコンを使用して処理をし、USBメモリ等外部記憶媒体は使用しない。4)研究で得た情報は、本研究の目的以外に用いることはない。5)話したくない内容については、無理に話す必要がないことを説明する。6)不快を感じた場合は、途中辞退できることを説明する。7)面接での話は、その内容について解釈するものであり、養育者の養育上の力量などを評価するものではないことを説明する。8)時間的拘束に対して不都合が生じた場合、途中辞退できることを説明する。9)その他:研究者は、自身が養育(専門)里親であり、被験者と同様の痛みを共有する「当事者」でもある。当事者団体等でのこれまでの活動を通して「里親不調」を体験した里親との個別的交流は多くあり、里親不調の体験を振り返り安全に言語化するということの彼らの切実なニーズと困難性、また、その作業は当事者によっては独特の痛みを伴う可能性のある作業でもあることや、そのことの及ぼす近親者への影響については熟知している。対象者のインタビュー中の反応やその後の経過などをフォローしながら、途中で研究協力を辞退される場合はその意思を尊重し迅速に対応したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
インタビュー(九州、仙台、東京)のための旅費、宿泊費および、関連する研究会(全国大会)、研究成果発表のための学会参加費、宿泊費、被験者との通信費が中心となる。当初H24年度に購入予定であったPCM音源を編集可能なICレコーダーはH23年度末に購入し、研究者所有の音声認識ソフトにて、録音データ⇒テキストデータへの効率的な変換が可能であることを確認済みである。当初H23年度に予定していたテキストマイニングソフトウェアのバージョンアップのための経費はH24年度に執行し、上記デジタルデータの質的分析を行いながら、補足的に探索的検討を並行しておこない、分析の精度を高める予定である。インタビューの一部は、H25年度(最終年度)初旬にずれ込むことも想定し、インタビュースケジュール等幅を持たせて計画したい。
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Research Products
(2 results)