2012 Fiscal Year Research-status Report
里親不調により里子との離別を体験した里親のメンタルヘルスとそのケアに関する研究
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23593477
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Research Institution | Seirei Christopher University |
Principal Investigator |
入江 拓 聖隷クリストファー大学, 看護学部, 准教授 (30267877)
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Keywords | 児童養護 / 専門里親 / 支援システム / 負担感 / 体験の構造 / ナラティブ / 主観的体験 |
Research Abstract |
里親不調による里子との離別を余儀なくされた5名の里親を対象としたインタビュー内容が質的記述的に分析され、里親の体験の構造を踏まえた「負担感」の支援の要点が以下のごとく明らかとなった。 里親不調による里子との離別という大きな喪失体験を余儀なくされた里親の措置変更前後の「負担感」は【児童養護のシステムに対する失望】に下支えされる形での【里子との離別による激しい情動体験】【痛みを伴う自己洞察による喪失体験の継続的な問い直し】【痛みを伴う自己洞察による喪失体験の受けとめ】【生きる力の再生のための人との繋がりの希求】という一連の「悲嘆のプロセス」によってある程度説明が可能であり、里親はそれらを通して傷つき翻弄されるに任せるだけではなく人間として成長し「生きる力の再生」を体験していることが明らかとなった。 したがって里親が体験している「負担感」を支援するための要点は、里子との離別に伴う正常な「悲嘆のプロセス」が安全におこなえるような環境や人的資源が提供されることである。 また、里親を取り巻く状況と不調による措置変更前後のプロセスを「平和学」で提唱される「直接的暴力」「構造的暴力」「文化的暴力」の概念によって検討した結果、里親の「負担感」を取り巻く構造には「機能不全を起こすリスクの高い小さな共同体としての里親家庭」「機能不全を起こしている児童養護のシステム」および「里親をマイノリティとして扱う文化的力学・社会的要因」の三重の構造があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
里親不調に伴う措置変更を体験した里親へのインタビューに際して、被験者は里子との離別という大きな喪失体験を抱えている上に、マイノリティーとして心理社会的にも傷つき、社会や対人関係から退却的になっている事が当初から予想されていた。そのため、インタビュー自体が新たな外傷体験とならないように、インタビュー手順および倫理的配慮について慎重に検討し、以下の手順を踏んだ。 1.一般の人が比較的容易に入手、アクセス可能な里親に関する図書、手記、里親および、ファミリーホーム開設者や行政機関が設置したHP、ブログなど電子媒体の内容を分析した。2.発達障害や知的障害児など、いわゆる育てにくい子どもの養育をおこなっている里親がどのような主観的体験とともに「負担感」を体験しているのかを知るために、日本グループホーム学会が実施し平成21年度独立行政法人福祉機構助成事業の報告書として出版した「障害児の里親促進のための基盤整備事業報告書」の中の養育里親の体験に関する自由記述データ(n=839;163034字)をテキストマイニングの手法により探索的に分析し、発達障害児と身体障害児と健常児では自由記述にどのような質的な違いがあるのかを明らかにした。 テキストマイニングの結果を踏まえながら、調査対象とすべき被験者の範囲および、収集すべきデータの質について検討し、里親にとって非侵襲的なインタビューガイドを作成した。研究者が長い専門里親歴があったため、共感的なスタンスで被験者の語りを妨げることなく聴取することが可能であったこと、また里子との離別から時間が経過し、被験者が苦しい胸の内を具体的に語ることが可能な状態に至っていたこと、そして事前に考慮期間を設けていたことや、夫婦一緒の聴取をおこなった結果、リラックスした中でそれぞれの思いが語られたことなどが良質のデータを得ることに繋がった可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
里親不調による里子との離別を余儀なくされた5 名の里親を対象としたインタビューが質的記述的に分析され、里親の体験の構造の概観とそれらを踏まえた「負担感」の支援の要点が明らかとなったが、いわゆる「育てにくい子ども」や、養育者が「養育拒否感を抱かされやすい子ども」として統計上挙げられている発達障害や身体障害、とりわけ人生早期の段階での虐待などによる愛着障害を持った子供の養育に携わる専門里親の体験と、その支援の要点に関する基礎情報を収集する必要性が今後の課題として浮かび上がってきた。 一方、我が国の児童養護を取り巻く状況や、システムとしての里親制度の中では、専門里親ではない一般の養育里親に対しても、そのような育てにくい子供たちがかなりの割合で委託されている現実がある。あらかじめ育てにくい子どもであることを承知の上で受託している専門里親ですら、これまでの調査で明らかとなった深刻かつ構造的な負担感を被っていることを踏まえれば、そのような覚悟や自覚の比較的乏しい一般の養育里親の体験も踏まえて、包括的に支援されるべき養育上の負担感と、それらをもとにして吟味された支援の要点が明らかにされる必要があると思われる。 我が国の児童養護システムの中で、行政などを通してなされる里親、専門里親に対しての研修は、子どもに関わる際の技法的知識と関連技術の概論的内容に偏っており、里親の主観的体験を慮った上での支援を踏まえたシステムとは言い難い状況にある。これらの課題を加えて、さらに実態調査を継続し、予期的社会化プログラムのような包括的な支援策の方向性とその要点を検討する必要性があると思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでの調査研究で、児童相談所の配慮を欠いた介入による措置変更により心理社会的に傷ついた専門里親を何組か知ることができた。いづれも、発達障害、愛着障害の里子を養育していた里親であった。 今後は専門里親に限定せず、一般の養育里親の体験にまで調査対象の範囲を広げインタビューを継続する。 それに関わる通信費、交通費(仙台、静岡、東京、山口、九州)、旅費、謝礼および、関連学会での発表や論文投稿のための経費として予算を執行したい。
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