2011 Fiscal Year Research-status Report
高齢者のスピリチュアルケア実践のプロセスとその課題の検討
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23593488
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Research Institution | Kawasaki University of Medical Welfare |
Principal Investigator |
国光 恵子 (竹田 恵子) 川崎医療福祉大学, 医療福祉学部, 教授 (40265096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太湯 好子 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (10190117)
小薮 智子 川崎医療短期大学, 看護科, 助教 (70435345)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高齢者 / スピリチュアリティ / スピリチュアルケア / アセスメントツール / 看護実践プロセス / QOL |
Research Abstract |
本研究の目的は、看護の独自性をふまえた高齢者のスピリチュアルケアの方略を構築し、その課題を検討することである。平成23年度は、高齢者のスピリチュアリティの特徴およびスピリチュアルケア実践の実態と課題の明確化を図ることを目的に、一般病院の慢性期病棟および療養型病床において高齢者のスピリチュアルな側面への看護を大切にしている看護師20名を対象とする面接調査を実施した。調査内容は、辛い状況にもかかわらず心豊かに過ごしていると考えられた事例、スピリチュアルペインがあり心穏やかでないと考えられた事例、言語的コミュニケーションが困難な高齢者の心の内面の把握方法、およびチームとしてスピリチュアルケアを展開するために必要と考えること、などについてである。現在、逐語録を作成し、SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて事例分析を行っているところである。 現段階までの分析の結果、高齢者では認知症等により言語的コミュニケーションが困難なことも多く、その場合にはスピリチュアリティの把握が難しいこと、コミュニケーションが可能な場合でも具体的に表現されることが少ないことが明らかになった。また、高齢期には家族とのかかわりが重要であることや身体的機能低下によりスピリチュアリティが覚醒しやすい状況にあること、高齢者のもてる力を活かし、高齢者の自律を大切にしながら日常のケアを実践することを通して「あなたの存在が大切であることを伝えること」がスピリチュアルケアになりうることが示唆された。そしてそのためには、看護師が感性を持ち、高齢者のスピリチュアリティの側面へ関心を向けることが必要であると考えられた。 今後、事例分析を重ねて高齢者のスピリチュアリティの特徴を明らかにするとともに、スピリチュアルケア実施の現状と課題について整理する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、高齢者のスピリチュアリティの特徴およびスピリチュアルケア実践の実態と課題を明確にするために、看護師を対象とした面接調査を実施した。具体的には、インタビューガイドの作成と調査、逐語録の作成、データの分析を予定していたが、現在、面接調査をすべて終了し、事例の分析を行っているところである。 今回の調査は、看護師が語る事例を通して高齢者のスピリチュアリティの特徴等について分析をしようとするものである。しかし、看護師自身が"高齢者のスピリチュアリティ、スピリチュアルケア"として意識しているか否かを問題としていないため、面接調査において今回のテーマにふさわしい事例を語っていただけるかどうかは、インタビューガイドの良し悪しによって大きく左右されると考えられた。そのため、インタビューガイドの作成にあたっては、学会への参加やスピリチュアルケアを実施している緩和ケア病棟の見学等により得た情報を参考にしながら、研究者間で検討を重ねた。さらに、プレ調査を実施し、面接内容と表現についてブラッシュアップを図った。また、分析方法についても、研究者が従来行ってきた内容分析の手法では得られたデータの特性を踏まえた分析とならない可能性が予測されたため、分析方法の再検討を行うと共に、その分析手法(SCAT)についての学習会を実施した。 以上の理由により、平成23年度中に分析を終了することはできなかったが、上述の内容は研究を遂行していく上で不可欠の手続きであったと考えられる。また、平成23年度内に分析が終了しないことは当初計画の中でも想定していたことでもあり、今回、達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度中は分析手法に慣れることに時間を要したが、今後の分析はこれまでよりも円滑に進められると考えている。平成24年度より研究分担者の変更があることと、残りの事例分析を早急に終了して次のスッテップに移行するために、分析の役割分担を再確認すると共に研究成果を発表する機会を設定した。また、平成23年度中に分析を行った事例について、学会発表および論文発表として研究成果の発表を予定している。これらの発表を通して得られた示唆を、今後の分析に活かしていきたいと考えている。 平成24年度実施予定であるスピリチュアルケア実践プロセスツールの検討と高齢者へのスピリチュアルケアの方略の検討においては、現場の看護師の協力が不可欠である。そのためにまず、看護師が高齢者のスピリチュアリティおよびスピリチュアルケアについての理解を深めることが必要である。研究者らとの学習会に加えて、スピリチュアルケアを専門とする研究者や老人看護専門看護師による研修会を、事例分析と並行して実施していく。その上で、高齢者の特徴をふまえたスピリチュアルケアを展開するための実践可能なツール(プロセスシートとガイドライン)の検討・作成を、現場の看護師とともに行う予定である。また、高齢者へのスピリチュアルケアの方略の検討については、スピリチュアルな課題を有する高齢者を対象に作成したツールを用いて事例展開し、カンファレンスを行いながら方略の検討をすることから、ツールの検討を十分に行ったうえで取り組む予定である。 当初の計画では平成24年度に、看護師によるスピリチュアルケアについての知見を得る目的で海外のメディカルセンターの視察を予定していたが、国内で先進的に行われている施設の視察や、看護師によるスピリチュアルケアについて国内外の実情に精通している研究者から講義を受けることに変更する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究費の使用において当初の予定と大きく異なったのは、資料収集旅費と音声のテキスト化の業者委託費用である。前者は学会の開催地の変更により所要経費が減額となったため、後者は面接調査の件数が30件から20件へ減ったこと(緩和ケア病棟の見学時に得た情報をふまえ研修参加者を変更)と一部未実施であること、予算案の段階で検討していた業者よりも単価の安い業者に依頼をしたためである。 平成24年度は、上記の今後の推進方策に従って研究を遂行するに当たり、以下(1)~(7)の費用が必要である。(1)平成23年度に実施予定であったデータの分析に係る費用:音声のテキスト化代金および分析結果を研究参加者に確認するための調査旅費。(2)面接調査で得られた成果の成果発表旅費およびスピリチュアルケア実践プロセスツールの検討と高齢者へのスピリチュアルケアの方略の検討に向けた情報収集旅費。(3)現場の研究協力者である看護師が高齢者のスピリチュアリティおよびスピリチュアルケアについての理解を深めるために開催する研修会の講師旅費および講師謝金。(4)作成したツールを用いて事例展開し、カンファレンスを行いながら方略の検討をする際に助言を受けるための研究協力者旅費と謝金、および研究協力者である看護師への謝品。設備備品として、カンファレンスを充実させるための次世代電子ボード。(5)高齢者の特徴をふまえたスピリチュアルケアを展開するためのツール(プロセスシートとガイドライン)の印刷代。(6)以上のほか、データの分析や文献検討を円滑に進めるためのソフト、研究成果をまとめる際に活用する電子辞書、論文作成時必要となる翻訳料、研究を進めるにあたって必要となる文具等。さらに、(7)研究期間を通して研究を円滑に進めるために、データ・資料整理等を依頼する協力者謝金。
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