2012 Fiscal Year Research-status Report
新しい陽電子手法による,水の液体構造および活性種のナノ秒領域の反応に関する研究
Project/Area Number |
23600011
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
平出 哲也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 研究主幹 (10343899)
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Keywords | 陽電子 / 消滅寿命 / LSOシンチレータ |
Research Abstract |
LSOシンチレータを用いて,計数効率を格段に向上させるため,上面30㎜φ,下面40mmφ,高さ30mmの比較的大きなもの2個を用いた。シンチレータが大きくなると時間分解能の向上が難しくなると想定され,BaF2に比べ,100ピコ秒ほど劣る,350ピコ秒程度の時間分解能を,Na-22を用いた陽電子寿命測定で実現したいと考えていたが,実際には,従来と同じ手法で行ったところ,半値幅で200ピコ秒ほど悪い,450ピコ秒程度の時間分解能となることがわかった。そこで,光電子増倍管から信号を通常はアノードから取り出すが,ダイノードから取り出した信号は信号波形の初期の立ち上がりが速く,ごく小さい変化量からタイミング信号を取り出すことが可能となり,100ピコ秒程度の時間分解能の改善を得ることに成功した。また,LSOはシンチレータ自体に自然放射能を多く含んでおり,自ら発光しているが,その発光強度は,Na-22の陽電子の試料中への入射を知らせる1.27MeVのガンマ線による全吸収ピークと干渉することはなく,全吸収ピークの部分のみを使用することで,ランダム同時計数による信号ノイズ比の劣化も起こらないことを明らかとした。また,消滅ガンマ線のタイミングも全吸収ピーク部分を用いることで,さらに時間分解能が向上し,300ピコ秒程度,つまりBaF2に比べて50ピコ秒程度の劣化に抑えることに成功した。これはLSOの発光がBaF2に比べ非常に遅いことを考えると画期的な結果である。 さて,最終的には半導体検出器も加えた3つの検出器による3光子同時計測で行うため,さらに信号ノイズ比が改善されることとなり,消滅時刻の計測にはコンプトン領域も入れることが可能となる。一方,時間分解能が劣化することとなり,実際の測定時の時間分解能は現状で370ピコ秒程度である。計数率は従来の装置に比べ目標の10倍の実現に近づいている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進展としては当初の計画通りに進んでいるが,東日本大震災の影響で実質的に1年間以上実験などが遅れることとなり,結果として当初の予定と比較すると1年程度の遅れが出ていると考えられる。しかしながら,目標としてきた装置開発においては,懸案となっていた時間分解能において,新しい手法を導入し,大きく改善が見られ,装置の計数率も計画していたものに近づきつつある。今後はさらにスタート信号用の検出器を増やすことで計数率の向上を計画しており,おそらく,目的の計数率を実現できる。これは使用する線源が弱くても計測に時間がかからなくなることとなり,試料への照射効果を低減でき,当初計画していたとおりの実験が計画通りに可能になる。また,高温高圧水の測定を目指してドイツのグループと連絡を密にとり,測定用セルの設計において、シミュレーション計算など行い、進めているが、震災後に他の研究や業務などを行う必要があったため、同様に遅れが出ている。現状での唯一の懸案事項は,試料の温度コントロールに使用する予定であった,インキュベータが震災の影響で破損し,使用できなくなっていることであり,試料の温度制御の方法を考える必要がある。特に,25℃以下で安定した測定を行うのには何かしらの冷却システムが必要となる。この件も全体の達成度に影響を及ぼす可能性もあり,他から借用できるものを探すなど,対策を急いでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験の計画が東日本大震災の影響で1年ほど遅れており,研究期間の延長を申請する予定である。ほぼ,すべてにおいて計画通りに研究は遂行されており,計画にあった通り,スタート信号用の検出器をもう一台増やすことで,目標としてきた装置の開発を実現する。唯一の懸案である温度制御に利用する予定であったインキュベータ(借用物品)については,できれば計画通りに行うため,借用物品を他から探すことで解決したいと考えている。 装置の開発がほぼ予定通りに進んでおり,現状では標準試料としてポリイミド(カプトン)と溶融石英(産総研提供標準試料)の測定を行っている。今後は実際に水をはじめとする極性溶媒,生理食塩水などにおいて,温度や放射線などの刺激の効果などを明らかにする測定も行っていく。 また,ドイツで行う予定の,高温高圧水の測定であるが,最近では日本国内でもいろいろな装置が開発されてきており,それらの装置での測定に利用できるような形で開発を行い,将来,国内で開発されるであろう高エネルギーX線ビームでの測定に適用できるように工夫をした高温高圧水測定セルを準備したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在,設計中の高温高圧セルの見積もりを行い,発注する計画である,計画では100万円弱の予算で作成の予定としてあったが,実際に交付される予算内で,できるだけ汎用性のあるセルを作成する計画である。 計画は予定通りに成果を上げており,これらを国際会議や国内の会議で発表する。9月にポーランドで陽電子消滅の国際会議があり,そこで装置開発,および実際に測定した結果などについても発表の予定である。この会議の次の週にドイツで陽電子に関連したビーム利用の国際会議があり,高温高圧水の測定を行う予定であるドレスデンの施設から,成果発表や研究者の参加があり,時間的に可能であれば、打ち合わせと調査のために参加する計画である。また,研究期間の1年間の延長を希望する予定であり,次年度における実験のためのドイツ出張や成果発表などのための予算を一部残すことを計画している。
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Research Products
(6 results)