2011 Fiscal Year Research-status Report
α放射性同位体の核医学利用のための211Rn/211Atジェネレータ開発
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23600013
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
西中 一朗 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (70354884)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 放射線 / 加速器 / 放射性医薬品 / 核医学 |
Research Abstract |
原子力機構タンデム加速器施設において原子核反応、29-57MeV Li(リチウム)+natPb(鉛)で生成した209-211At(アスタチン)同位体の励起関数をガンマ線、アルファ線スペクトロメトリーにより決定した。今後のトレーサー実験の基礎基盤となる重要な核データを得た。211Rn(ラドン)/211Atジェネレータ用Rn分離装置、ジェネレータ装置の製作に着手した。震災の影響で211Rnの許認可申請が遅滞しているため、211Rnでのトレーサー実験に先駆けて、分離装置内での211Atの化学挙動を調べるためのトレーサー実験を行った。加速器で生成したAtトレーサーを照射試料から分離するための簡易乾式分離法の研究開発を行い、211Rn/211Atジェネレータ用Rn分離装置でのAtの化学挙動を明らかにした。これによって、ジェネレータ開発で必要となる211Atの溶出特性についての重要な知見を得た。「タンデム加速器を利用した核医学のための研究 ―α放射性同位体による新しい癌治療を目指して―」と題する基礎科学セミナーを8月に開催した。211Rn/211Atジェネレータ研究開発についてタンデム加速器利用課題研究として共同研究を進めている本研究課題の連携研究者である金沢大学横山明彦教授の研究グループ、日本放射化学会、製薬企業の研究開発者から参加者を募り、幅広い観点から議論することで、新しい研究開発の意義や重要なポイントなどを再確認した。Li+natPb反応での励起関数測定とAtトレーサーの簡易化学分離法の開発について得られた予備的な研究成果を日本放射化学会年会(9月)および京大原子炉専門研究会(1月)で口頭発表した。また、金沢大学横山明彦教授の研究グループと研究成果報告会を1月に実施し、研究の進捗状況、研究成果、研究計画について議論、検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災の影響のため211Rnの放射性同位体使用許認可申請が遅滞しているため、211Rnトレーサーを用いた実験が実施できなかった。この点では当初の平成23年度研究実施計画から遅延しているが、研究実施計画を見直し、平成24年度に計画していたジェネレータ装置の製作に着手するとともに、Atトレーサーの製造、無担体放射性元素アスタチンの溶出特性などの化学挙動に関する実験研究を精力的に進めた。これにより3年間の研究期間で研究目的を達成するという観点からはおおむね順調に進展していると判断する。Atトレーサーの製造、化学挙動に関する実験研究では、Atトレーサーの簡易乾式化学分離法の開発を行った。この簡易乾式化学分離法では、加速器でのリチウムビーム照射によって鉛金属薄膜標的中に生成したAtを電気炉で20分間、650℃に加熱することで60パーセント以上の効率で分離、回収できることを確認した。気化したAtは650℃以下の分離装置内壁面の吸着し、約2mlのエタノールや水によって80パーセント以上の効率で容易に溶出できることを明らかにした。無担体Atトレーサーの溶出挙動を明らかにしたことで、トレーサー利用による放射性医薬品の研究、放射化学的基礎研究に対する重要な知見が得られた。協力研究を開始した日本原子力研究開発機構の量子ビーム応用研究部門RI医療応用研究GrにAtトレーサーを提供し、このAtトレーサーを用いて、多くのがん細胞に発現が確認されている膜タンパク質「Her2」に親和性のあるペプチドへの標識を行った。Atトレーサーを用いた放射性医薬品研究での研究結果をフィードバックし、本ジェネレータ開発に活かす協力研究体制が整った。この協力研究体制は当初の研究計画にはなかったが、本研究の目的達成に向けて、その有効性を高く評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きLi+natPb反応で生成したAtトレーサーを用い、共同研究に基づく放射性医薬品研究と無担体アスタチンの化学挙動についての基礎研究を推進する。放射性医薬品研究における標識化合物合成の高効率化を目指し、無担体アスタチンの溶出特性などの化学挙動を明らかにする。無担体アスタチンの化学挙動は、同族ハロゲン元素の臭素、ヨウ素に比べて複雑であり、未解決な研究課題が多い。無担体アスタチンの化学挙動を基礎科学的観点から調べることで、211Rn/211Atジェネレータの基礎基盤技術の確立を目指す。あわせて211Rn/211Atジェネレータ用Rn分離装置、ジェネレータ装置の製作を進める。次年度中には、211Rnの使用許認可が得られる予定であり、211Rnトレーサーを用いた性能試験を開始する。性能試験結果を検討し、装置の高度化を目指した改良を行い、211Rn/211Atジェネレータの実用化、使用許可の獲得を目指した基礎基盤技術を開発する。具体的には、希ガス放射性同位体211Rnの化学的特性を利用し、温度制御による金属表面等への吸着、脱着によって化学分離する際の、211Rnの放射化学的純度及び化学収率を調べることで、最適な化学分離条件を検討する。211Rn/211Atジェネレータ用Rn分離装置、ジェネレータ装置の開発においては性能試験結果に基づいてこれら装置の特許出願を目指す。加速器実験は、連携研究者、協力研究者らと協力して実施し、トレーサー実験、装置の性能試験、性能評価を効率的に進める。学会や研究会での研究発表を通して、核化学、核医学分野の研究者と議論することで研究の意義や重要なポイントを確認し、研究の推進方策について検討を行い、効率的、効果的に研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の加速器実験、トレーサー実験の実施状況に基づいて、本年度使用予定の研究費の一部(20万円)を次年度に繰り越した。次年度と翌年度についても、211Rnの使用許認可スケジュール、加速器運転計画など外的な要因を含め、装置の性能試験などの研究の進捗状況に応じて研究費を配分し、本研究期間内の研究を効率的、効果的に進める。次年度の研究費は、主として加速器実験とトレーサー実験で使用するヘリウムガス、化学薬品、実験器具等の消耗品の購入に使用する。装置の高度化を目指した改良のためのガス配管部品、バルブ等を消耗品費で購入する。また、得られた研究成果を発表する日本放射化学会年会や研究会、および共同研究者との報告会に参加するための旅費として研究費を使用する。翌年度については、次年度までに得られた結果を基に無担体211Atの溶出特性を検討し、211Rn/211Atジェネレータ用Rn分離装置、ジェネレータ装置の改良を行い、装置の高度化を図る。加速器実験によって装置の性能試験を行う。実験で使用するヘリウムガス、化学薬品、配管部品等を消耗品費で購入する。3年間の研究で得られた研究成果を取りまとめ、日本放射化学会年会、国際会議において研究成果を発表する。
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Research Products
(1 results)