2012 Fiscal Year Research-status Report
炭素線治療における中性子被ばくの低減化に関する研究
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23602008
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小森 雅孝 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30392228)
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Keywords | 炭素線治療 / 中性子被ばく / GEANT4 |
Research Abstract |
本研究課題はモンテカルロシミュレーションコードGEANT4による計算にて行う。計算を行うためのクラスターシステムを4月に導入した。最新の8コアCPU6台を有し、従来のPCを用いた計算と比較すると、計算速度が大幅に向上した。並列計算のテストを経て、5月には本格的にシミュレーションを開始した。 前年度PCにて構築した放射線医学総合研究所の炭素線治療装置HIMACの照射ポート、治療室のジオメトリデータをクラスターに移植し、中性子フルエンスの計算を行った。ICRPから報告されている換算係数を用いて、患者位置(アイソセンター)からの距離別中性子周辺線量当量を算出した。ジオメトリデータ並びに、GEANT4で用いている物理プロセスを見直すことにより、既に報告されているHIMACでの中性子周辺線量当量実測値と比較すると、アイソセンターからの距離にも依存するが、最大でも30%程度の相違に抑え込むことができた。中性子の計算は荷電粒子と比較すると難しいとされる。本研究の遂行に問題ない相違と判断し、研究を進めることとした。 HIMACではアイソセンター直上流の多葉コリメータ、4枚羽根コリメータが、患者被ばくに関わる主な中性子の発生源であることが既に報告されている。よって、照射ポートのさらに上流にアルミ製固定開口幅のコリメータを配置し、中性子被ばくの低減を試みた。標準的な照射野条件(ビームエネルギー290、400MeV/n、拡大ブラッグピーク幅60mm、照射野直径100、200mm)でそれぞれ固定コリメータの開口幅を、一様照射野に影響を及ぼさない範囲で最小にすることで最適化を行い、そのコリメータの条件で中性子周辺線量当量の計算を行った。結果として、最大45%程度の中性子線量当量の低減が可能であることが分かった。今後は固定コリメータの配置、材質等を変更して計算を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クラスターシステムの導入は遅れることとなったが、それまでにHIMAC照射ポート、治療室をGEANT4に構築し、準備を進めていた。マルチコアCPUを搭載したPCを利用して、並列計算の準備を進めていたことも幸いし、想定よりも早い段階でクラスターシステムによるシミュレーションの本格的な稼働が可能となった。 照射ポートを構成する装置と炭素線の相互作用により中性子が発生し、患者位置へと飛来するが、中性子の発生、輸送の計算は、荷電粒子と比較すると格段に難しいと予想していた。しかし、GEANT4の中性子に関する計算精度が想定よりもよかったので、HIMACにおける中性子線量当量の実測値を概ね再現することが、想定通りの時期となった。 中性子被ばくの低減は、既存のコリメータよりも、さらに上流の位置にコリメータを配置して、中性子の発生源を患者位置から遠ざけることで達成する見込みであった。このアイデアも効果的であり、まだコリメータの位置、材質等は最適化していないが、既に患者位置近傍での中性子線量当量を45%程度、減少させることができた。 以上が研究が概ね順調に進んでいると評価する理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までは当初の計画通りに研究が進んでいる。次年度はコリメータを配置する位置、その材質などを変化させて、中性子線量当量がどのように変化するかを評価する予定である。 既存の粒子線治療施設の照射ポートには、複数のコリメータが配置されている。しかし、それらコリメータは照射ポートを構成する機器を粒子線から守ることを主眼に置いて配置されており、中性子による被ばくを考慮して設計されているとは言い難い。本研究の最終的な目的は、それらのコリメータを中性子被ばくを考慮して設計した場合、どの程度、被ばく量が低減できるかを、HIMACを例にとって提示することである。本研究で、既存の粒子線施設全ての照射ポートを仮定して中性子線量当量を計算することは不可能である。 次年度は学会発表や論文報告にも注力する必要がある。本研究の成果をもとに、各施設の医学物理士等が自施設での中性子被ばくの低減を目指して、照射ポートに配置されているコリメータを見直すことがあれば本望である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は残額が小額の予算を無理に使用することなく次年度に繰り越すことで、基金制度を大いに活用できたと考えている。次年度は当初予算が少ないので、学会発表や論文発表等の研究成果を発表するために、学会参加の旅費や英文校正費用等に、本年度の残額を含めた助成金を使用する予定である。
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Research Products
(3 results)