2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒト膵ベータ細胞量測定に向けた、PETプローブの探索と比較検討
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23602016
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐古 健生 独立行政法人理化学研究所, 細胞機能イメージング研究チーム, リサーチアソシエイト (30525556)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 膵ベータ細胞イメージング / PET |
Research Abstract |
まず、手術標本より入手したヒト膵組織から切片を作成してin vitro autoradiograpy(ARG)を行った。タンパクが変性すると、受容体とPETプローブとの特異的な結合が阻害されるため、ARGでは通常、無固定の組織を使って室温で反応させるのであるが、膵は消化酵素により自己融解するため何らかの対策が必要となる。当初は、凍結切片をアルコールで後固定したものを用いて、室温下で反応させることを試みたが、組織の融解や切片の剥離は防げたものの、非特異的な集積が強くなってしまった。そこで、スライドガラス貼り付け後の乾燥時間を長くした無固定切片を用いたり、反応液にプロテアーゼインヒビターを加えるなどの対策を行ったが、いずれも十分な結果は得られなかった。一方、健常なラットを用いてPET撮像を行い、in vivoでの3種類の候補PETプローブの比較を行った。PET画像を解析し、PETプローブの分布・排泄・動態を検討した。また、撮像後にラットを解剖して組織を取り出し、ガンマカウンターで放射活性を測定して、膵臓をはじめ主要臓器や組織での集積を比較した。その結果、3種類のプローブはいずれも膵臓に高く集積したが、最も高く集積したプローブは最も低いプローブの約2倍集積することが明らかになり、ヒト用のPETプローブになり得る可能性が示唆された。この成果は第6回日本分子イメージング学会(JSMI)および第51回日本核医学会(JSNM)で発表され、JSMIでは最優秀発表賞を受賞し、JSNMではハイライト講演に選出された。これらの結果は、現在学術雑誌への投稿するため論文を現在作成中である。なお、これら3種の候補PETプローブを含む薬剤は、膵内分泌細胞診断薬として特許申請を行い、平成24年3月に国際特許としてPCT出願された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト膵組織を用いたin vitro autoradiographyでは、膵組織の特異性により、3種類の候補PETプローブを比較できるに至っていない。また、提供された膵組織は手術標本であり、治療を優先に行われているため、研究試料として状態が十分でない可能性も否定できない。提供から保管までの試料の取り扱い方法の再検討を含め、膵組織の自己融解と、タンパクの変性による受容体とPETプローブとの結合能の低下を防ぎつつ、それらの特異的結合を定量化するために、プロトコールの改善が必要である。今後は検出可能なin vitroの系の確立を目指す。一方、動物を使ったin vivoの系では、3種類の候補PETプローブがいずれも膵臓に高く集積することが確認され、最も高く集積したプローブでは、膵臓への特異的集積が増加し、肝臓への非特異的集積が減少してS/N比が改善されるなど、ヒト用PETプローブとしての可能性が示された。PETは感度と定量性に優れ、生体内における標的分子の時間的・空間的動態を明らかにできる利点があるが、上記の結果はまさにその利点を生かした成果であり、ラットとヒトとの種の差は存在するものの、代謝などの影響をうける生体内において候補PETプローブの特性の違いが明らかになったことで、ヒト膵ベータ細胞量測定に向けて大きく前進したと言える。これらの成果は、国際特許への出願を済ませており、学術雑誌投稿のために現在論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
状態のよいヒト膵試料の確保に時間を要することから、前年度に引き続き今後も、ヒト膵組織を用いたin vitro autoradiographyを行ってゆく。膵組織の自己融解とタンパク変性による結合能の低下を防止しながら、膵ベータ細胞に発現しているソマトスタチン受容体との特異的結合によるPETプローブの膵集積が定量可能なプロトコールの開発を行い、3種類の候補PETプローブを比較検討して、ヒト臨床PET試験に向けた最適なPETプローブの選択を行う。動物実験では、2型糖尿病モデルラットを用いて、経時的にPET撮像を行う。血糖値やインスリン値、HbA1cといった既存の糖尿病マーカーで糖尿病の進行をモニタリングしながら、糖尿病発症前から発症後、更には重篤化に至るまで、それらマーカーとPETプローブの集積についての変化を追跡し、それらの相関を明らかにしていく。また、PETは機能画像や代謝画像・分子画像に適している半面、解剖画像は不十分なため、MRIやCTなど解剖画像に適している他のイメージングモダリティを用いてラット膵臓の解剖学的同定を行い、PETとの融合画像を用いて、より精度の高い膵ベータ細胞量の定量化法の確立を目指す。さらに、膵ベータ細胞量の定量化に影響を与える可能性がある膵近傍臓器へのPETプローブの非特異的集積、特に腎臓への非特異的集積を抑えるために、PETプローブの標識に用いる放射性金属核種を結合させるキレーターの改良を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、46万円余りの研究費を使用せずに残った。これは、学術論文関連の費用として謝金等に15万円計上していたが、実際にはまだ論文が作成段階であることや、糖尿病マーカーキットの費用として消耗品費に30万円計上していたが、実際には血糖値の測定を既存の測定器とチップで行ったため、新規の購入が不要となったためである。平成24年度の研究費の使用であるが、まずヒト膵組織を用いたin vitro autoradiograpyについては、スライドガラスやドライアイスなどの消耗品を購入する。膵組織の自己融解とタンパク変性を防止するためのプロトコールの改善に当たって、必要な試薬があればそれを購入する。次に、2型糖尿病モデルラットを用いた経時的なPET撮像については、市販されている2型糖尿病モデルラットを購入する。動物の使用数は当初の計画から変更しないが、2型糖尿病モデルラットが当初見積もっていた金額より高価であったため、使用数の多さと相まって、消耗品費は当初の計画より増える予定である。また、画像解析や論文作成に使用しているPCが老朽化してきたため、PC本体を購入する予定である。平成23年度に余った研究費については、これらで使用することとする。一方、PETでは十分な解剖画像が得られないため、MRIやCTなど解剖画像に適した他のイメージングモダリティを用いてラット膵臓の解剖学的同定を行うのであるが、そのために必要な造影剤などがあればそれを購入する。これら研究から得られた成果を発表するために、学会への参加や学術雑誌への論文投稿を行ってゆくが、その経費を研究費から支出する。
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Research Products
(5 results)