2012 Fiscal Year Research-status Report
アメリカにおける高齢者の貧困の実態とブッシュ・オバマ政権の年金政策の比較研究
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23610010
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
吉田 健三 松山大学, 経済学部, 教授 (80368844)
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Keywords | アメリカ / 年金システム / 社会保障 / 企業年金 / 福祉国家 |
Research Abstract |
当該年度の主な研究業績は、『アメリカの年金システム』(日本経済評論社)である。 これは、これまでの研究を踏まえて、アメリカの年金システムを自由の理念と自助の規範というアメリカ的原則を体現する公私二層システムとして把握するものである。公私それぞれの層では、自由と自助の原則を補完する独自の論理が発達した。第1階の社会保障年金では勤労者に幅広く最低限の所得提供を試みる基礎的保障の論理である、第2階の企業年金においては年金給付を「繰延賃金」として保護する受給権保護の論理である。 また、本書では、このような認識を踏まえて、1980年代以降のいわゆる「福祉国家再編期」においてアメリカ年金システムがどのように対応したのかについても明らかにした。基礎的保障の論理に支えられた社会保障年金では、基礎的保障の論理の安定性を一つの要因として、1983年の社会保障年金修正法以降は一度も大きな改革がなされていないという安定性が発揮された。一方、受給権保護の論理が発達した企業年金においては、この保護の論理を梃子として伝統的な年金プランの急速な再編成が進行した。すなわち、確定給付型年金プランから確定拠出型の貯蓄プランへの移行である。 当該の助成事業の成果として、本書ではアメリカ年金システムの実際的な所得保障機能およびそれをめぐる論点、変化、また企業年金および社会保障年金の両層におけるブッシュ政権、オバマ政権の政策の性格についても、歴史的な視点から分析と対比が試みられている。社会保障年金においては、ブッシュ政権の個人勘定化提案とその頓挫が、企業年金においては、個人の権利の進展に伴う政策課題、対立軸の変化が明らかにされている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように当該年度は、『アメリカの年金システム』を発表することができた。これは、本事業のもとで進められてきた研究の集大成の一つといえる。本事業で目的とされている論点について、包括的かつ歴史的に捉えたものである。残りの課題は、本成果を踏まえて、いまだ不十分な論点、すなわちアメリカの今日の年金政策を規定する金融ビジネスの発展およびそれに関連する諸政策、国民的退職後所得保障の大きな柱でありながら、その特殊性から『アメリカの年金システム』でカバーすることができなかった公務員年金に関する研究である。 また現地調査については、当初の計画に比べれば少ないが、ワシントンD.C.での調査は、資料の質、および聞き取りともに本事業に非常に有益なものであった。特に、今日「財政の崖」との関わりで問題となっている社会保障年金の改革論について重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
『アメリカの年金システム』を踏まえて、次の2つの論点について資料収集と成果の提出をはかりたい。第1は、アメリカの今日の年金政策を規定する金融ビジネスの発展およびそれに関連する諸政策に関する研究、第2は国民的退職後所得保障の大きな柱でありながら、その特殊性から『アメリカの年金システム』でカバーすることができなかった公務員年金に関する研究である。これらは、今日のアメリカの高齢者への所得保障およびその変化を考察する上で非常に重要な論点である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
関連する文献の収集、整理につとめるとともに、計画書に従ってアメリカ現地での聞き取りや調査を進めて行きたい。ただし、国内研究に従事しており、十分に事業を進めることができない可能性がある。
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Research Products
(1 results)