2011 Fiscal Year Research-status Report
乾漆を応用した炭素繊維漆コンポジットの制作工程の最適化と構造材料としての強度試験
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23611028
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
土岐 謙次 宮城大学, 事業構想学部, 助教 (20423783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金田 充弘 東京芸術大学, 美術学部, 准教授 (00466989)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 乾漆 |
Research Abstract |
「制作工程の最適化」1、 型からの離型処理 従来の炭水化物系離型材(伝統的には米糊が一般的)に替わるものとしてテフロンシート等の使用を検討した。主に調理用オーブン等による食品調理用のテフロンシートが離型性・再利用性の面で好適であることを確認した。主に平面および二次曲面での使用については問題ないが三次曲面への馴染みが悪く今後の課題となる。2、 硬化時間の改善 熱処理による硬化時間の改善を試みた。一般的には数日を要する漆の硬化時間を改善すべく、温度・時間ともに制御可能な温風式乾燥炉を利用して一般的に漆の熱硬化の目安となる110-130度・1~数時間の環境で実験を行ったが、炭素繊維を骨材として漆を含浸させたものを試料としたがいずれも硬化状態において芳しい結果が得られなかった。最適な条件を探ることが課題となった。炭素繊維乾漆の強度実験の予備的実験として、従来の麻布による乾漆の強度実験を行った。この実験では円筒状の乾漆実験体を用いた。麻布を漆で8層に積層したものが10,000Nを上回る座屈耐性を持つことが判明し、構造材として用途によっては十分な強度を持つことが判明した。また、次年度に実施予定の炭素繊維乾漆の強度指標として基準となる実験データが得られたことも成果である。より体感的にその強度を確認するために乾漆による椅子の制作を行った。設計には構造の検討、型製作の為の構造データの共有の点からCADによる設計環境を導入した。石膏や粘土による型製作が一般的であるが、デジタルファブリケーションによる合板を使った型製作と上記テフロンシートによる離型処理による乾漆制作が可能であることが確認された。将来的には上記強度試験によって得られた乾漆の物性データを用いることで、乾漆による構造物を制作する際の強度設計のシミュレーション・最適化が行える可能性が見いだせた点において大きな成果があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
炭素繊維乾漆の強度実験の予備的実験として、従来の麻布による乾漆の強度実験を行った。この実験では次年度に実施予定の炭素繊維乾漆の実験体制作の際の手順や技法について有意な知見が得られ、実験体制作工程の最適化が図れたことが成果である。また、強度指標として基準となる実験データが得られたことも成果である。これらは当初計画にはなかったが、先行的にデータが得られたことで研究は進展している。一方で、FRP成形に用いられる空気圧(負圧)を利用した真空バック方式を用いた、骨材積層間の密着と漆の含浸の平均化については、同時に処理を行う熱処理の過程で上記問題が残っており、計画どおりに進展していない。乾漆の椅子は展示会等で数回発表の機会を得ており、乾漆の実用強度と、本研究の成果を周知する機会として計画外の好機であり、総合的におおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
計画どおり、24年度は炭素繊維漆コンポジットの構造用材料としての強度試験を行いFRPとの比較を行う。東京藝術大学建築科金田研究室による研究では、乾漆による円筒構造の座屈耐性試験を行っており、本研究にとって有意な知見を与えている。この研究に即した実験を行い、構造用材料としての漆コンポジットの制作手法を探る。予備的に行っている実験では制作工程における手順や工法の問題点が見つかっており、均質な実験体を制作するために改善を行う。具体的には各工程で必要となる漆の質量を算出し工程毎に管理する、などが挙げられる。また、本年度制作した乾漆造形による椅子を中心にした研究成果の発表を京都、東京、仙台で巡回して行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度は強度実験が主体であり、実験体の制作素材として漆、炭素繊維などの消耗品が中心となる。また上記、空気圧(負圧)を利用した真空バック方式による工程の実験のためのポンプ等の設備を導入の予定である。さらに上記巡回展示・発表のための作品運搬費、発表者の旅費等も見込んでいる。
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