2012 Fiscal Year Research-status Report
使い続けるためのデザイン - 近代イギリスの家具とリサイクル文化
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23611045
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
真保 晶子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 非常勤講師 (50578474)
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Keywords | イギリス史 / 消費文化 / 家具 / デザイン / リサイクル / 修理 |
Research Abstract |
本研究は、今まで家具・住宅史の中で注目されてこなかった家具の修理とリサイクルの歴史に焦点を当てる。産業革命といわれる工業化の進行した時期、18世紀後半から19世紀前半のイギリスでは、生産者と消費者が家具を長く使い続けるとともに、長期間使い続けられるデザインを共同で考え実行していた。これらの実例をもとに、現代社会におけるリサイクルとデザイン、そして生産者と消費者の関係の在り方を考えるための新たな視点を提示することが本研究の目的である。 2012年度は引き続き関連文献の整理と理論研究を行なった。18世紀から19世紀イギリスの中古市場・リサイクル文化についての関連研究の分類と分析を行ない、過去の生産者・消費者にとって「デザイン」は何を意味していたのかを探った。また、現地調査の準備、文書の所在などの確認、絵画や家具そのものなど視覚資料として参考になるものも探索した。 中古市場・リサイクルに関連したものであれば、領域・国・時代を問わず参考にしたが、やはり、この分野では服飾に関わるものが多く、特にB. Lemireによる著作が多くを占める。インテリアと家具史に関する限り、中古市場・リサイクルについての著作は、C. Edwards and M. Ponsonby (2010)などごくわずかである。だが、A. Vickeryの著書(2009)において、家の中の修理や清掃に目を配ることは妻の有能さを示す規範となるものであったと同時に、女性たちは家庭内を快適にするという感覚で、積極的に修理・維持を進めたという説明がされていることも当時の考え方の手がかりになる。この結果は、現在、研究動向論文としてまとめているところであるが、できるだけ早く学術雑誌に発表する予定である。また、現地調査を準備する過程で探索した文書や視覚資料の有効な活用についてまとめている部分も研究ノートとして発展させていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2012年度にイギリスで現地調査を行なう予定であったが、日程の都合が付かず、来年度に延期することにした。2011年度末で早稲田大学での助教の任期が終了し、2012年度は、複数の大学で非常勤講師をしながら、春から秋にかけて、就職の応募と採用面接に時間を費やさざるを得なかった。幸い、2013年度から武蔵大学で任期3年の助教の職を得たので、授業と通常業務の合間に、研究に割く時間を増やせる見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はイギリスで現地調査を行なう。18世紀から19世紀のイギリスを代表する家具メーカー、ギロウ社の書簡から、家具・インテリア製品の修理の相談、古いものを利用して作り直す相談、中古家具の紹介・譲渡などリサイクルに関わる事例を分析する。また、寝具メーカー、ヒール社の19世紀後半の史料にも当たる。さらにトレードカード(業務紹介広告)をもとに中古や修理を扱う家具製造業者の割合を長期的期間において概観した結果をまとめる。これらをもとに、工業化期イギリスで、長期的に使い続けられるものというデザインの概念が、生産者・消費者の中に存在していた事例を示すことをめざす。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、ロンドンでの現地調査を行なうための旅費支出が中心となる。また、その準備と途中経過執筆に関わる書籍・消耗品の購入費、人件費(研究補助者による資料整理賃金、英語論文校正謝金)、さらに学会・研究会での口頭発表および学会誌への投稿に伴う支出も予定している。
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