2013 Fiscal Year Research-status Report
生活実態に基づいた漆器の審美性・機能性に関する実験的検証
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23611046
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
田中 みなみ 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (30261936)
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Keywords | 漆 |
Research Abstract |
平成25年度は、本務の業務に注力していたため、研究については準備を進めるにとどまり、研究成果は得られていません。 研究のための準備については、次のように進めました。平成25年度は主として検体用の漆塗り板を制作するための準備を進めました。【1】文献調査:先行研究で、漆塗膜の実験がどのように行われてきたか調べ、実験の目的、検体の作成方法、検体の検査方法について検討しました。【2】漆塗りを依頼する先に出向き、漆の種類のバリエーションと検体用の塗りの方法について打ち合わせ、漆のバリエーションとして有油の黒、有油の朱、無油の黒、無油の朱の4種を決定しました。また、検体として漆塗り板にはアクリル板を使用することとし、漆の食いつきを良くするために200番のサンドがけすることを決定しました。【3】摩擦試験を依頼する先に出向き、摩擦試験にかけるためアクリル板のサイズについて打ち合わせ、サイズを決定しました。 今後の研究の展開として、検体を作成し3ヶ月の乾燥の後に実験に入ります。実験は、主として生活実態を考慮し、油分を付着させ、付着させた油分を水、洗剤液、ぬるま湯および布、スポンジ、紙を使用して摩擦することで除去し、除去後の油分の残差を求めることで漆塗膜の洗浄性能について明らかにしたいと考えています。本研究のもうひとつの目的として、油分が漆塗膜の表面に残ることによって艶が増し、美的な要素が増すといわれていることについても、主観評価によって明らかにしたいと考えています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成25年度は、前年度の平成24年度より引き続いた本務の業務の多忙により、本研究への時間の配分が少なくなってしまいました。本務の業務では、委員会の委員長、カリキュラム改編の主導的立場、研究室で担当していた学生の疾病等にともないプロジェクトの最終成果物制作を教員が制作せざるを得なかったこと、地域連携のプロジェクトが発生し、取材と制作でほぼ1年を要したことがあげられます。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究は、次の二つの観点を併せ持つ「漆」という日本古来の天然樹脂を現代科学の眼をとおして見直すものです。二つの観点とは、ひとつは「用」そしてもうひとつは「美」です。これまで「美」の観点については、さまざまな文献で表現され、またひとびとの間でも一定の評価を得ていることが筆者の研究によりわかっていますが、「用」の観点については、まだ緒に就いたばかりといえます。 塗料としての性能検査のデータが少なく、塗料の多くが屋外での使用を前提としたものであることから、特に屋内での使用、まして食器用塗料としての検査は各地ではじまったばかりといえます。 先行研究により、漆塗膜の抗菌性が知られるようになりましたが、さらに、剥離性や、防汚性能についても研究することで、汚れを落としやすい食器、すなわち、水や洗剤の使用を減らすことができる食器用塗料の開発につながるのではないかと考えています。この研究を進めることにより、地球環境への負担を減らすことはもとより、災害時などにおいて使いやすい食器として漆器の可能性を探るものです。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は平成23年4月に採択となりましたが、同年3月に発生した東日本大震災の対応のため研究協力機関である岩手県工業技術センターとの連携が滞ったこと、ならびに検査用の漆板を作成依頼先も岩手県二戸市にあることから、震災後の混乱が落ち着くまで十分な作業体制が整わなかったこと、以上の理由から研究の全体計画がほぼ1年以上にわたって遅れていることが理由です。 平成26年度には、試験片を作成して試験を開始するとともに、官能評価も実施します。また、平成25年度までの研究内容をまとめた内容を学会発表する予定です。このため、試験辺の制作費用、塗装の委託費用、試験の試薬等の材料費、摩擦試験の委託費用、打ち合わせのための旅費、学会発表費、学会参加旅費等に使用する予定です。
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