2011 Fiscal Year Research-status Report
分子動力学予測による心筋症発症機序を放射光回折で検証:分子内応力に伴うα螺旋の歪
Project/Area Number |
23612005
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
山口 眞紀 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (30271315)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹森 重 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20179675)
大野 哲生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30233224)
木村 雅子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30328314)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 心筋症 / X線回折 / トロポニン / 分子動力学 |
Research Abstract |
1.回折実験用セルの作成:放射光を透過する石英ガラス(特注品)あるいはカプトン膜の間に微細な線維状筋標本を配置し、ペルチェ素子で温度管理をしながら溶液をかん流するための試料セルを作成した。2.変異トロポニンK247Rの作成:ヒト心筋トロポニンTのcDNAはヒト心筋mRNAからRT-PCRにより増幅し、クローニング(pBluescript-2-SKT)ベクターに組み込んだ後に、オリゴヌクレオチドを用いてPCRにより変異を導入した。発現には低温発現ベクターと大腸菌(BL21)を用い、アフィニティークロマトグラフィにより生成した。3.トロポニン入れ替え法による骨格筋細胞への変異型および野生型トロポニンの導入:Hatakenakaらの方法に基づき、大過剰の変異トロポニンTを含む人工細胞内液に筋細胞を浸し、内因性のトロポニンを変異トロポニンTと置き換えることで、変異を導入した。変異体導入の効率を、電気泳動法により標本のサイズを変えて調べたところ、標本の径がおよそ20ミクロン程度で拡散障害が最小となり、変異体導入が効率よくおこることがわかった。4.変異型および野生型トロポニン導入筋の機能測定:変異型および野生型トロポニン導入筋の張力特性を調べたところ、K247R変異体では予想に反して野生型より単位面積当たりの張力が小さくなっていることがわかった。5.放射光施設でのX線回折実験:骨格筋に比べて筋原線維含有量が少なく、また配向もよくない心筋標本から、定量的な解析が精度よくできるような良好な回折像を得るための条件検索を行った。心臓から標本を採取する部位の違いによる回折像の違いと保存液の組成、照射のパターンについての検討を重点的に行った。トロポニンが明瞭に分離できる条件を探索した。6.回折像の解析:回折像の解析に際し、ノイズを除く方法を改良した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
回折実験用セルの作成および変異トロポニンの作成は目標どおり進めることができたが、Hatakenakaらの方法による変異体の心筋細胞への導入の際、心筋細胞のサイズによる導入効率の違いが無視できないほど大きいことを見出し、心筋標本のサイズをいろいろに変えて導入効率を電気泳動法により詳細に調べる必要が生じたが、測定の結果、変異型トロポニン導入の際に標本がいたまない処理時間(5時間)で拡散障壁が事実上失われるのは標本径20ミクロン程度であることが明らかになった。また、X線回折実験においては、骨格筋に比べて筋原線維含有量が少なく、また配向もよくない心筋標本から、定量的な解析が精度よくできるような良好な回折像を得るための条件決定に多くの時間を費やした。心臓から標本を採取する部位の違いによる回折像の違いと保存液の組成、照射のパターンについての検討を重点的に行い、トロポニンが明瞭に分離できる条件を検索した。また同時に、回折像の解析の際に、ノイズを除く方法を改良した。これらの準備を入念に行ったために、K247R変異体についての実験を本格的に行うことができず、来年度への持越しとなったが、回折像の質が飛躍的に上昇したため、当初予定していたものより多くの構造情報を得ることが期待できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.変異トロポニンK247Rの追加作成:23年度と同様に、ヒト心筋トロポニンTのcDNAはヒト心筋mRNAからRT-PCRにより増幅し、クローニング(pBluescript-2-SKT)ベクターに組み込んだ後に、オリゴヌクレオチドを用いてPCRにより変異を導入する。発現には低温発現ベクターと大腸菌(BL21)を用い、アフィニティークロマトグラフィにより生成する。2.変異型および野生型トロポニン導入筋の張力特性の追加測定:前年度の実験で変異型および野生型トロポニン導入筋の張力特性が異なっており、K247R変異体では野生型より単位面積当たりの張力が予想に反して小さくなっていることがわかった。そこで今後はこの違いが何に由来するのかを調べるために、通常の生理的収縮条件での張力測定に加えて、ATP欠乏状態でのカルシウム非依存性張力が変異型と野生型で異なるかどうかを調べ、構造解析とあわせて変異体の特徴を解析していく。3.放射光施設でのX線回折実験:骨格筋に比べて筋原線維含有量が少なく、また配向もよくない心筋標本から、定量的な解析が精度よく行えるような良好な回折像を得るための条件がほぼ明らかになったので、今後はこの条件のもとに変異体を導入した標本のX線回折像を取得し、分子動力学の結果と比較しながら野生型との違いを明らかにしていく。K247R変異体で予想外の興味深い実験結果が得られてきていることから、来年度もK247Rの解析をさらに推し進め、当初計画していたG159D変異体についての解析は時間に応じて行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.変異トロポニンK247Rの追加作成:23年度と同様に、ヒト心筋トロポニンTのcDNAはヒト心筋mRNAからRT-PCRにより増幅し、クローニング(pBluescript-2-SKT)ベクターに組み込んだ後に、オリゴヌクレオチドを用いてPCRにより変異を導入する。発現には低温発現ベクターと大腸菌(BL21)を用い、アフィニティークロマトグラフィにより生成する。必要なベクターやヌクレオチドを購入する。2.変異型および野生型トロポニン導入筋の張力特性の追加測定:23年度の実験で変異型および野生型トロポニン導入筋の張力特性が異なっており、K247R変異体では野生型より単位面積当たりの張力が小さくなっていることがわかったため、今後はこの違いが何に由来するのかを調べる目的で、通常の生理的収縮条件での張力測定に加えて、ATP欠乏状態でのカルシウム非依存性張力が変異型と野生型で異なるかどうかを調べ、構造解析とあわせて変異体の特徴を解析していく。標本採取に必要な動物とATPなどの高純度試薬を購入する。3.放射光施設でのX線回折実験:骨格筋に比べて筋原線維含有量が少なく、また配向もよくない心筋標本から、定量的な解析が精度よくできるような良好な回折像を得るための条件検索に多くの時間をさいた結果、変異トロポニン導入筋の回折像取得を本格的に推進することができなかったため、そのために予定していた費用(主に変異トロポニン作成のための試薬購入費)が未使用となった。次年度は23年度に明らかにした条件のもとに変異体を導入した標本のX線回折像を取得し、分子動力学の結果と比較しながら野生型との違いを明らかにしていく。標本採取に必要な動物と試薬の購入費および放射光施設への交通費を支出予定である。
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