2011 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜伸展により分泌された伝達物質を介する細胞容積感受性アニオンチャネル制御機構
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23612008
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
秋田 天平 生理学研究所, 細胞器官研究系, 特任助教 (00522202)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 細胞容積感受性アニオンチャネル / 細胞膜伸展 / 化学伝達物質 / ATP / カルシウムナノドメイン / 細胞容積調節 / 国際研究者交流 / ベラルーシ |
Research Abstract |
我々の主な研究対象である細胞容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)は、あらゆる種類の細胞において環境変化に応じた細胞の容積及び形態の適切な調節を促す重要な役割を担っているが、本年度我々はマウス大脳皮質由来アストログリア細胞において、細胞外低浸透圧溶液暴露により細胞膜伸展刺激を加えた際に細胞から放出される化学伝達物質の細胞自身への作用により誘起されるVSOR活性化成分の有無、及びその活性化機序について検討を行った。その結果、低浸透圧刺激により誘起される細胞内Ca2+シグナリングが、放出されたATPの細胞自身への作用にほぼ完全に依存していること、またそのシグナリングを担う各種Ca2+透過型イオンチャネル開口部の極めて近傍に形成される高Ca2+濃度領域「Ca2+ナノドメイン」を介してVSORが活性化されることが明らかになった。但し、この機序によるVSOR活性化は全体の4割程度であり、残りの6割は何らかの別の機序によることが示唆された。しかし、そのATPの作用そのものは、VSORのみならず或る種のK+チャネルを同時に活性化することを通じて、細胞外環境変化時の細胞容積調節には必要不可欠なものになっていることが判明した。このATPの作用によるCa2+ナノドメインを介するVSOR活性化、即ち細胞容積調節機構は、1細胞上の局所的な容積調節をもたらす基盤機序と考えられ、このことは細胞の形態変化・分裂・移動時に1細胞の部分毎に独立した容積変化を誘導する上で必要不可欠である。従って、本年度の我々の研究により、細胞の普遍的基本性質である形態変化・移動の基本制御原理の一端が解明されたということができる。 なお、本研究の一部は、松前国際友好財団の招聘によりベラルーシから来日したSergei V Fedorovich博士との国際研究者交流を通じて行われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の第一目標であった、細胞膜伸展により細胞から分泌される主な化学伝達物質の同定と、その細胞自身への作用により誘起されるVSOR活性化機構及びその細胞容積制御への寄与を明らかにするということについては、一通りの結論を得ることができ、且つ初年度内に論文発表を行うことができたという点では、計画はおおむね順調に達成されたと言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
低浸透圧刺激によりアストログリアから放出される化学伝達物質としては、ATPの他にグルタミン酸が知られているが、今年度の我々の研究結果は、そのグルタミン酸の作用によるVSOR活性化成分があるとすると、それは細胞内Ca2+シグナルを介するものではない可能性を強く示唆している。ATPの作用に依存しない残り6割のVSOR活性化成分が、Ca2+シグナルを介さないグルタミン酸の作用によるものであるか否かについては今後確認しておく必要がある。また、前年度の我々の研究により、Ca2+ナノドメインを介するVSOR活性化機構は活性酸素種(ROS)の生成を伴うことが判明しているが、Ca2+シグナルを介さないVSOR活性化にもROS生成を伴っているか否かについても確認しておいた方がよいであろう。 さらに重要なこととしては、今年度明らかになった機序が細胞群、即ち組織内の細胞の挙動を実際にどの程度制御しているかを明らかにすることである。実際の脳組織内においては、何らかの物理的・病的ストレスが脳に加わったときにATPが放出されるだけでなく、神経活動に伴って細胞外のイオンが正味神経内に流入することにより、特に活発な神経活動が起こっている部位では一過性に細胞外低浸透圧環境が形成され、それによる細胞膜伸展により放出されたATPが神経・グリアに作用していることも最近報告されている。従って、我々がこれまでに明らかにしたCa2+ナノドメインを介するVSOR活性化機構は脳内で日常的に働いていると考えられ、それが神経・グリアの形態変化・移動等の誘導にどれだけ関わっているかを明らかにすることについては、早急に取り組むべきだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定では、可能ならば初年度内に細胞群ないし組織内における細胞の膜伸展による影響を調べることに着手することを考慮し、その設備投資のための予算として、初年度に物品費を多く計上していたが、残念ながら着手までには至らなかったため、次年度以降その課題に取り組むべく、その未使用分の予算を次年度以降に回すこととした。
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Research Products
(11 results)