2012 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜伸展により分泌された伝達物質を介する細胞容積感受性アニオンチャネル制御機構
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23612008
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
秋田 天平 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (00522202)
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Keywords | 細胞容積感受性アニオンチャネル / 細胞膜伸展 / 化学伝達物質 / 細胞容積調節 / ATP / グルタミン酸 / カルシウムナノドメイン / 活性酸素種 |
Research Abstract |
我々の主な研究対象である細胞容積感受性外向整流性アニオンチャネル(VSOR)は、あらゆる種類の細胞において環境変化に応じた細胞容積及び形態の適切な調節を促す重要な役割を担っている。前年度はマウス大脳皮質のアストログリア細胞において、細胞外低浸透圧溶液暴露により細胞膜伸展刺激を加えた際に細胞から放出されるATPの、その細胞自身への作用により誘起されるVSOR活性化成分と、その細胞容積調節における重要性を明らかにした。そこで、本年度は先ずATP以外に同刺激により放出されることが知られるグルタミン酸が、ATPと同様な効果を持つか否かについて検討を行った。その結果、グルタミン酸はATPと全く同様に、Ca2+透過型イオンチャネル開口部の極めて近傍に形成される高Ca2+濃度領域「Ca2+ナノドメイン」を介してアストログリアのVSORを活性化しうることが判明した。しかし、低浸透圧暴露による膜伸展刺激で放出されたグルタミン酸のアストログリアへの作用は弱く、同刺激により誘起される細胞内Ca2+シグナリングにはあまり寄与しないことも明らかになった。同刺激によるグルタミン酸の放出量自体はATPよりもむしろ多いことが知られているが、アストログリアに発現するグルタミン酸受容体の感受性が低いため、我々が用いた培養標本では細胞表面上に十分なグルタミン酸濃度が蓄積されなかったことが考えられる。従って、今後は組織標本で再検討する必要があるだろう。 さらに、Ca2+ナノドメインを介するVSOR活性化の中間シグナルである活性酸素種(ROS)が、低浸透圧暴露による細胞膜伸展刺激でどの程度活性化されるかを、ROS産生酵素阻害剤を用いて調べたところ、Ca2+ナノドメインを介して産生されるROSとは別に、Ca2+非依存的に産生されるROSも、VSOR活性全体の2割程度を担っていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の研究を通じて顕わになった課題である、ATPとともに細胞膜伸展により分泌されるグルタミン酸のVSOR活性化機序が、本年度の研究で解明されたこと、また、細胞膜伸展によるROS生成にCa2+依存性と非依存性の2つの異なる機序があることが新たに判明したことで、研究には一定の成果が認められた。しかし、当初本年度内に計画していた、細胞(または細胞群)の一部分にのみ膜伸展刺激が作用した場合の細胞(群)全体への波及効果の検討については、本年度途中に研究代表者の他研究機関への異動があったこと等から、進展がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、初年度・次年度にアストログリア細胞にて判明したことが、他の上皮細胞系cell lineや血管内皮細胞等についても当てはまるか否かを調べ、機序の普遍性や細胞種特異性の有無について検討する予定であった。しかし、研究代表者の新たな異動先の所属講座では脳スライス標本、特に胎生期脳を用いた研究が盛んになされていることを活かして、今後細胞群全体への波及効果を検討するに当たっては、脳スライス標本を用いて研究を進めていきたい。これにより、これまでアストログリアで得られた知見が直接適用されるとともに、胎生期脳神経の発達・移動・回路形成過程にも着目することで、当初の研究目的である「脳浮腫や高血圧等で病的な物理的ストレスが細胞(群)に加わった際のその適応機構を理解するのみならず、細胞の普遍的基本性質である形態変化・移動の基本制御原理の解明を目指す」ことが、一層合理的に達成されうることとなる。特に胎生期脳では、細胞膜伸展により分泌された伝達物質を介する細胞容積感受性アニオンチャネル制御機構が、神経細胞の分裂・増殖に伴う細胞容積調節や細胞移動時の形態変化を駆動する重要な役割を果たしていることが予想される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の通り、研究代表者の異動に伴い実験系を一部変更することとなり、異動先研究機関で利用可能な実験設備との兼ね合いから、本年度内に購入予定だった物品の一部は購入を見合わせた。本年度末までに新たな実験系の計画が立ったため、次年度よりその実験系での研究に着手すべく必要物品を購入していく。
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Research Products
(5 results)