2011 Fiscal Year Research-status Report
昆虫飛翔筋の神経系を介さないメカノセンシング機構の解明
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23612009
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
岩本 裕之 (財)高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 主幹研究員 (60176568)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | メカノセンシング / 昆虫飛翔筋 |
Research Abstract |
伸長による活性化は昆虫飛翔筋の非同期型動作にとって重要な機構である。我々の以前の研究はマルハナバチ飛翔筋のX線回折像中の第1層線上の1,1反射スポットが伸長に対して最初に反応する反射であることを示した。モデル計算によれば、この反応はトロポニンの構造変化によって説明できる。この結果は、昆虫飛翔筋のトロポニンが現在解明されていない伸長センサーの有力な候補であることを示す。それならば、次の疑問は何が伸長の信号をトロポニンに伝えているかである。昆虫のトロポニンIはプロリン・アラニンに富んだ長い延長部を持つことが知られ、これがアクチン繊維からミオシン繊維まで伸びて伸長の信号を受け取るのではないかということが言われてきた。この可能性を試すため、マルハナバチ飛翔筋のトロポニンI延長部を特異的な蛋白分解酵素(Igase)で切断し、飛翔筋の力学特性とX線回折像に及ぼす変化を調べた。予想に反し、伸長による活性化は切断によって影響を受けなかった。切断は、回折像には劇的な変化をもたらした。昆虫飛翔筋では一般的に赤道2,0反射が1,0反射より遥かに強度が高いが、延長部の切断後は2つの反射の強度がほぼ等しくなった。もしこの強度変化が(トロポニンの結合している)細いフィラメントの質量の減少に由来するなら、その質量は処理前の1/4にならないといけない。しかし延長部の質量は細いフィラメントの10%程度しかない。SDS電気泳動パターンでは、酵素処理によってトロポニンIの75kDaのバンドが消失するのと同時に、溶液中に幾つかの蛋白のバンドが新たに出現している。可能性としては、飛翔筋の高いミトコンドリア活性の結果生じる過酸化物を処理するためのグルタチオンS転移酵素が延長部に多数結合しているため(Clayton et al., 1998)、細いフィラメントの質量が大きくなっていることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昆虫飛翔筋の高速振動を可能にする非同期型動作について重要な知見を得ることができたこと。具体的には、昆虫飛翔筋を伸長したときに最初に現れる分子構造変化を捉えるとことができたこと、また伸長のシグナルが、従来それを伝えるといわれてきたトロポニンI延長部以外の構造を通じて伝えられていることを明らかにしたことである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「昆虫飛翔筋を伸長したときに最初に現れる分子構造変化」はマルハナバチ飛翔筋を用いて得られた結果であるが、これが昆虫飛翔筋に普遍的にみられる現象であるかを調べるため、他の昆虫(タガメなど)でも同様の現象が見られるかを確認する。またトロポニンI 延長部を切断した飛翔筋線維を伸長したときに、細いフィラメントが延びるかどうかをX線精密解析により調べる予定。その他当初の予定通り、生きた昆虫の羽ばたき時の飛翔筋構造変化、X線ホログラフィー法による構造解析、RNAi法による機能解析等を行なう予定。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度、昆虫飛翔筋線維を動作中に撮影する装置の一部を製作したが、これにかかる費用が当初予想より押さえることができたので次年度への繰越が生じた。一方、飛翔筋の酵素活性を測るための試薬類等は高額で当初の予想を上回る支出が生じている。24年度も試薬類にかなりの支出を予想している。その他、24年度は特に生きた昆虫の羽ばたきとX線回折の同時測定のための装置の製作、またX線ホログラフィーに必要な資材の購入を予定。
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