2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23614016
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Research Institution | Nara Prefectual University |
Principal Investigator |
安村 克己 奈良県立大学, 地域創造学部, 教授 (00230243)
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Keywords | 観光まちづくり / 生活空間再生論 / 実践 / 限界集落 / 山村社会 |
Research Abstract |
観光学と生活空間再生論の視座に基づく「観光まちづくりの理論と実践」の考察を「研究目的」として、昨年に引き続き、理論研究と事例研究に取り組んできた。 一方の理論研究からは、次のような結果をえた。1)三重県松阪市柚原町の日常生活や行事活動などの参与観察で捉えた、観光まちづくりや生活の「実践」の意味を批判的に考察し、その結果について「生活空間再生論の「実践」論に関する一考察」(奈良県立大学紀要『地域創造学研究』XV, pp.1-24, 2012)にまとめた。2)「実践」に関してはまた、観光学の基礎論でも根本的課題となることが、「観光学が実践の学として成立する可能性について」(観光学術学会『観光学評論』1(1),pp.35-50, 2013)に発表された。3)生活空間再生論において、生活空間と人間社会全体が成立する基盤に「自然・生態系」および「対面的社会関係」という二つの要件が定立されることを、フッサール「生活世界」と今西錦司「生物全体社会」の概念を手ががりとして検討し、その結果を「生活空間再生論における人間社会の成立の根本的要件」(奈良県立大学紀要『地域創造学研究』XVI, pp.1-27, 2012)にまとめた。4)山村限界集落における、観光まちづくりなどの地域再生の実態をとらえる視座について、生活空間再生論から新たな視座を検討し、その結果が「山村再生の実践に関する生活空間再生論の新たな視座」(奈良県立大学紀要『地域創造学研究』XVII, pp.1-34)にまとめられた。 そしてもう一方の事例研究については、柚原町の観光まちづくりと日常生活の実態に関する現地調査を継続してきた。その結果については、「生活の実践からみるある山村の風景」(奈良県立大学紀要『地域創造学研究』)を執筆中である。 以上の研究から、観光まちづくりによって「持続可能な社会」を構想する理論と実践が探究された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
観光学と生活空間再生論の視点に基づく「観光まちづくりの理論と実践」という研究目標は、平成24度の研究計画に従いほぼ順調に進められた。ただし、事例研究については、長期滞在の現地調査のスケジュールが、校務などの都合で調整できず、予定通りに実施されなかった。また、柚原町の現地調査が集中的になされたため、柳生の里の現地調査の回数がやや少なくなった。他方で、理論研究については、山村限界集落の観光まちづくり研究が、「実践」の基礎論を中心として計画通りに進められ、研究結果もえられた。以上のように、「研究の目的」を達成する作業は、全体としてほぼ予定通りに行なわれ、「おおむね順調に進展している」。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究に引き続き、次年度についても研究計画に沿い、前年度までの結果を踏まえながら、さらに理論研究と事例研究を進める予定である。 理論研究では、国内の山村研究や限界集落の実践などに関する、社会科学諸分野の研究成果を分析し、それらを生活空間再生論の理論研究に組み入れてゆく。また、海外の地域振興の事情、特にCommunity-based Tourism Developmentの事例などについても、さらに考察を進め、観光まちづくりや地域再生の理論化を深めたい。 事例研究では、前年度の予定を実現できなかった、三重県松阪市柚原町の長期滞在の現地調査を履行し、奈良県奈良市柳生の里における現地調査の頻度も高める。そして、それらの結果を前年度までの調査成果と合わせて現地調査報告書を作成する。 なお、柚原町と柳生の里でそれぞれ質問紙調査を行なう予定であったが、聞き取り調査の結果が集積するにつれ、両町の人口統計的・社会的特性などから、その研究成果が質問紙調査よりも有効であると判断されたので、両町における質問紙調査を中止し、聞き取り調査を集中的に実施する。 最終的に、以上の理論研究と事例研究の結果を合わせ、本研究全体の研究結果を公表してゆきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に長期滞在の現地調査が遂行されなかったため、432千円が次年度に予定される研究費となった。その研究費は、平成25年度に長期滞在の現地調査を実施するさいに、旅費30千円、調査補助などの人件費100千円、その他32千円に当てられる。 平成25年度交付予定の研究費については、主に結果発表をする学会・研究会の旅費と、現地調査報告書製作費などに用いる。 以上の計画で、研究費を適正かつ効果的に使用してゆきたい。
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