2011 Fiscal Year Research-status Report
肥満に関与する腸内菌群の特定と腸内菌叢の改善による肥満予防の試み
Project/Area Number |
23617003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平山 和宏 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60208858)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 腸内菌叢 / 肥満 / 代謝 / 無菌動物 / HFAマウス |
Research Abstract |
平成23年度は、まず本研究計画全体の基本となるヒト糞便試料の収集をおこなった。被験者は東京大学大学院農学生命科学研究科の教員、大学院生および学生である男性からBMIをもとに選出した。BMIは22を標準とし、25以上を肥満とみなすため、25以上を高BMI群、22以下を低BMI群として糞便試料の提供を依頼した。試験は、東京大学の倫理委員会の承認を得たうえで、被験者のインフォームドコンセントを得て行った。その結果、高BMI群を9検体(BMI平均28.4)、低BMI群を8検体(BMI平均19.7)得た。両群間にはBMIと体重に大きな差が認められたが、身長や年齢に有意差はなかった。得られた試料は、嫌気性グローブボックスを用いた高度に嫌気的な手法により、菌叢構成解析を行った。試料の残りは、分子生物学的な手法による菌叢解析や各種代謝産物・代謝活性の測定のため、-80℃に保存した。HFA作製のための試料はグリセロールを添加して-80℃に保存した。菌叢の構成には個体間に大きな違いがみられたが、培養法では高BMI群と低BMI群との間に有意な差を認める菌群は見いだすことができなかった。代謝活性や代謝産物については現在測定を進めている。さらに、糞便提供者のBMIや菌叢構成のデータをもとに各群から2検体ずつを選び、HFAマウスを作製した。選抜された検体は嫌気的に100倍希釈とし、10週齢の無菌BALB/cAマウス(雄)に経口投与した。菌叢投与から4週間目に菌叢構成の培養法による解析を行い、各種代謝産物・代謝活性の測定のための糞便試料を採取して凍結保存した後、剖検して血液および臓器の採材と内臓脂肪量の測定を行った。その結果、内臓脂肪が有意に少ないHFA群が存在することが明らかとなった。ただし、これまでの結果からはHFAマウスの内臓脂肪の量と投与した糞便の提供者のBMIとの間に相関は認められていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究の進捗状況は、倫理委員会の承認や被験者の選定や依頼、インフォームドコンセントに予想以上の時間が必要であったために、当初の予定よりも研究の開始がやや遅れたものの、おおよそ計画の通りに研究を進めてくることができている。被験者は、研究代表者である平山が所属する東京大学農学生命科学研究科の教員や大学院生、学生に依頼することにより、被験者への依頼や説明に要する時間を節約し、検体採取容器の受け渡しや採取した検体の輸送にかかる時間を短縮することができた。当初、高BMI群としては過去の文献にみられるようなBMI30以上の高度の肥満者を計画していたが、健康な日本人ではそのような個体を見いだすのは容易ではないため、高BMIの基準を25としたが、低BMI群とは年齢などの他の条件には大きな違いがなく、年齢や性別が均一でありながらBMIには大きな差がある試料を十分な数得ることができた。これらの検体については、すでに培養法による菌叢構成の解析をすべて済ませ、代謝活性や代謝産物の測定も進めている。また、採取した高BMI群および低BMI群のヒト糞便からそれぞれ2検体ずつの試料を選抜し、無菌マウスに投与することによって複数のHFAマウス群を作製し、これらのHFAマウスの菌叢構成を培養法によって解析するとともに、代謝活性や代謝産物の測定のための試料も採取して保存することができた。さらにこれらのHFAマウス群は剖検を行い、その内臓脂肪の量を測定した結果、一定の成果を得ることができた。さらに詳細な検討が行えるように血液や臓器の採材も行っている。以上のように、一部当初の計画とは解析の順序を変更した項目があるために計画通りに測定が終了していない項目や予定よりもやや進んでいる実験はあるものの、おおむね計画通りに研究を達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、採取して保存した試料について各種代謝産物・代謝活性の測定を進めていくとともに、分子生物学的な手法による菌叢構成の解析を行い、糞便提供者のBMIと菌叢の構成との相関あるいは各群に特徴的な構成菌群が見いだせないか、培養法および分子生物学的手法によって得られた菌叢構成に関する結果を注意深く検討する。血中や腸管内のエンドトキシン濃度や肥満のマーカーとなる因子といった測定項目の追加についても検討する。また、保存したヒト糞便試料を用いてさらに多数のHFAマウス群を作製し、その内臓脂肪の量に違いがあるかどうかを検討する。内臓脂肪の量に違いが認められる特徴的なHFAマウス群を見いだすことができたら、それらのHFAマウス群の菌叢構成を詳細に検討し、特徴的な構成や構成菌群が存在しないか注意ぶかく解析する。本研究の大きな目的の一つは、肥満やエネルギー代謝に関与する腸内菌(群)をDNA配列などの情報だけでなく生きた菌株として分離・同定することであるので、候補となる菌群を見いだしたら、それらを標的として菌株の分離を試み、その分類学的な位置や代謝活性などを明らかにする。さらに、それらの分離菌株は単独あるいは組み合わせて無菌マウスに投与してノトバイオートマウスを作製し、ヒトの腸内菌の肥満への関与をin vivoで確認する。一方、肥満に関して特徴的なHFAマウスを作ることができた糞便試料を用いて再現性を確認するとともに、それらのHFAマウス群に高脂肪食などの肥満を亢進させる飼料やプレバイオティクスや大豆イソフラボン類などの肥満の抑制効果が期待される成分を添加した飼料を給与し、腸内菌叢の違いによってこれらの食餌成分に対する応答が異なるかどうかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は当初の計画通り、研究費は細菌学的な手法に用いる培地・培地素材類や試薬、分子生物学的な手法に用いる試薬類、器具類などの消耗品費として使用する。無菌動物の維持・繁殖に用いる放射線滅菌飼料のための費用も消耗品費として大きな割合を占める。また、平成24年度は飼料の組成を変えた特殊飼料や特定の食餌成分を添加した試料を用いた研究も計画されているため、これらの飼料を放射線滅菌飼料として準備するための費用も重要な位置を占める。さらに、研究代表者である平山は、所属する研究室の無菌動物の維持・繁殖および使用計画を見直すことによって、当初の研究計画に比べて、本研究の残り期間である平成24年度及び25年度においてより多くの無菌マウスを使用できる見通しを立てており、さらに効率的に研究を推進することができると見込んでいる。そのため、平成23年度に消費しきらなかった研究費は平成24年度及び25年度に効率的に使用することによって、当初の計画以上の研究成果を上げる努力を行う予定である。また、肥満のマーカーとなる因子の測定などの当初の計画には入れていなかった項目の解析を追加することにより、研究の質をより高めることができると期待される。
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