2012 Fiscal Year Research-status Report
肥満に関与する腸内菌群の特定と腸内菌叢の改善による肥満予防の試み
Project/Area Number |
23617003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平山 和宏 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60208858)
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Keywords | 肥満 / 腸内菌叢 / 代謝活性 / 無菌動物 |
Research Abstract |
平成24年度は、平成23年度に収集したBMIが高い個体群(平均BMI 28.4)と低い個体群(平均BMI 19.7)の糞便試料を用いて、さらに研究を進めた。糞便試料の提供を受けた高BMI群と低BMI群の被験者はいずれも健康な成人男子であり、両群間にはBMIと体重に有意な差が認められたが、身長や年齢に有意差はなかった。 これらの試料について、嫌気性チャンバー法を含む高度に嫌気的な手法を用いて菌叢構成の解析を行ったところ、各個体間に大きな菌叢構成の違いがみられたが、残念ながら平成24年度までには、それぞれの群に特徴的な菌群の同定には至っていない。また、大豆イソフラボン類の代謝活性や有機酸濃度などの腸内菌叢の代謝活性についての測定も進めているところであるが、こちらにも群に特異的な特徴は見出すことはできていない。 糞便提供者のBMIや体重のデータおよび菌叢構成の解析結果をもとに高BMI群、低BMI群それぞれから検体を選抜し、それらの嫌気的な懸濁液を無菌BALB/cAマウスに経口投与してヒトフローラ定着(HFA)マウスを作製した。糞便懸濁液の投与から4週目に菌叢構成解析と代謝活性測定のための糞便試料を採取した後、解剖して内臓脂肪量及び臓器重量を測定した。その結果、投与する糞便試料によって、出来上がったHFAマウスの内臓脂肪量が他の群とは有意に異なる場合があることを見出した。また、HFAマウスの糞便菌叢の構成は一部の菌群を除き投与した糞便試料のそれを反映したものとなっていた。ただし、平成24年度までの結果からは、HFAマウスの内臓脂肪の量と投与した糞便の提供者のBMIとの間に相関は認められていない。現在は、投与する糞便試料の数をさらに増やしてHFAマウス群を作製し、特徴的な内臓脂肪量となるヒト糞便試料の選抜と、内臓脂肪量が異なるHFAマウス群間に差がある菌群の同定を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度までの研究の進捗状況は、BMIが異なるヒトからの糞便試料の収集やそれらの菌叢構成の解析、代謝活性の測定、収集した糞便試料の中から選抜した糞便懸濁液を経口投与することによるHFAマウスの作製、さらにそれらのHFAマウスの内臓脂肪量の検討などが、おおよそ計画の通りに研究を進めてくることができている。当初の計画では、過去の文献に見られたようなBMIが30以上ある被験者からの採材を計画していたが、残念ながら本研究で被験者の候補とした健康な男性の東京大学農学生命科学研究科の教員や大学院生、学生にはそれほどの極度の肥満者は見つけることができなかった。しかし、得られた高BMI群の平均は28以上であり、20未満であった低BMI群とは有意な差が認められた。また、得られた糞便試料を用いたHFAマウス群の作製もそれぞれのBMI群について複数の検体で行うことができ、さらに群数を増やして研究が進行中である。 しかし、これまでのところ、作成されたHFAマウス群間の内臓脂肪量には差がある場合があることが確認できたものの、投与した糞便を提供した被験者のBMIとHFAマウスの内臓脂肪量との間には相関が見いだせていない。このため、肥満に関わる腸内菌群の特定など、当初の計画通りに達成できていない部分もある。平成25年度にはこれらの点について検討し、研究計画の修正を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度までには被験者のBMIとHFAマウスの内臓脂肪量との間には相関が見いだせていないため、保存したヒト糞便試料から肥満に関わる腸内菌群の分離・同定の試みは進行していない。しかし、内臓脂肪量に有意な差がみられるHFAマウス群は見出すことができている。そこで、平成25年度には、さらにHFAマウス作製に用いるヒト糞便試料を増やして解析を試みると同時に、すでに得られた結果を再検討して肥満における腸内菌叢の役割を明らかにするための研究を進める。 投与した糞便の提供者のBMIあるいは作成されたHFAマウスの内臓脂肪量をもとに糞便試料を選抜し、HFAマウスを新たに作成し、これらのHFAマウス群に高脂肪含有飼料およびコントロール飼料を給与して、肥満誘発食に対する反応性の違いを検討する。また、大豆イソフラボン類代謝活性など、肥満に関与すると考えられる代謝活性の違う糞便試料を選抜し、それらの糞便でHFAマウスを作製することにより、腸内菌叢の代謝活性の違いが肥満に与える影響についても検討する。 得られた結果をもとに、内臓脂肪の蓄積に特徴的な性状を示すHFAマウスについて菌叢構成の解析と各群に特徴的な菌群の分離・同定を試みる。得られたデータを検討して必要であれば、培養によらない分子生物学的な手法を用いた菌叢解析についても検討する。また、血中や腸管内のエンドトキシン濃度や肥満のマーカーとなる因子といった測定項目の追加についても必要になるかもしれない。本研究の大きな目的の一つは、肥満やエネルギー代謝に関与する腸内菌(群)をDNA配列などの情報だけでなく生きた菌株として分離・同定することであるので、本研究期間内に菌群の特定に至らない場合でも、特徴的な内臓脂肪蓄積を示す腸内菌叢については主な菌叢構成菌株の分離を行い、将来的にさらに詳細な研究を進めることが可能となるような菌株ライブラリーを保存する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は当初の計画通り、研究費は細菌学的な手法に用いる培地・培地素材類や試薬、分子生物学的な手法に用いる試薬類、器具類などの消耗品費として使用する。無菌動物の維持・繁殖に用いる放射線滅菌飼料のための費用も消耗品費として大きな割合を占める。また、平成25年度は飼料の組成を変えた特殊飼料や特定の食餌成分を添加した試料を用いた研究も計画しているため、これらの飼料を放射線滅菌飼料として準備するための費用も重要な位置を占める。さらに、研究代表者である平山は、所属する研究室の無菌動物の維持・繁殖および使用計画を見直すことによって、当初の研究計画に比べて、本研究の残り期間である平成25年度においてより多くの無菌マウスを使用できる見通しを立てており、さらに効率的に研究を推進することができると見込んでいる。そのため、平成24年度までに消費しきらなかった研究費は25年度に効率的に使用することによって、当初の計画以上の研究成果を上げる努力を行う予定である。また、肥満のマーカーとなる因子の測定などの当初の計画には入れていなかった項目の解析を追加することにより、研究の質をより高めることができると期待される。
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