2011 Fiscal Year Research-status Report
必須脂肪酸欠乏で増加するミード酸およびその代謝物の機能解析
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23617004
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
市 育代 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 講師 (50403316)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 栄養化学 / 臨床栄養 / 分子栄養学 |
Research Abstract |
脂肪酸は生体膜の主要な構成成分であり、ヒトは生体内で脂肪酸を合成・代謝する酵素を有している。しかし、オレイン酸(18:1n-9)からリノール酸(18:2n-6)やα-リノレン酸を合成する酵素が存在しないため、これらの二重結合を2個以上持つ多価不飽和脂肪酸(PUFA)を食物から摂取する必要があり、これらは必須脂肪酸と呼ばれている。必須脂肪酸欠乏時にはこれらの多価不飽和脂肪酸は合成できず、通常は存在しないミード酸(20:3n-9)と言われる脂肪酸がオレイン酸から合成される。そこで、昨年度はミード酸の合成酵素とその経路について検討した。 培養細胞株は細胞機能の解明において非常に有用な手段である。培養細胞の多価不飽和脂肪酸の供給は培地の脂肪酸組成に依存していることから、培養細胞の脂肪酸組成を測定した。すると、PUFAが非常に少なく、ミード酸が存在しており、培養細胞が必須脂肪酸欠乏にあることが分かった。培養細胞ではRNAiなどの手法が容易なので、脂肪酸合成酵素に関わる酵素群をRNAi法により発現抑制し、ミード酸合成に関わる遺伝子の同定を試みた。すると、脂肪酸の不飽和化酵素であるFads1, 2 , 3と鎖長伸長酵素であるElovl5の発現抑制下でミード酸が減少した。したがって、これらの酵素がオレイン酸からミード酸の合成に関与していることが分かった。 またミード酸の生理的意義を明らかにするにあたり、ミード酸が必須脂肪酸欠乏時にどのリン脂質に多く存在するかについて調べた。その結果、ミード酸は通常アラキドン酸が多く分布するホスファチジルイノシトール(PI)に多く分布することが分かった。このことから、必須脂肪酸欠乏時にミード酸はPIにおいてアラキドン酸の代用をしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ミード酸の合成酵素の遺伝子を同定するにあたり、培養細胞が必須脂肪酸欠乏のモデルになることを明らかにしたことから、siRNAによる発現抑制効率がよい培養細胞とその方法の探索を行った。その結果、マウス繊維芽細胞NIH3T3細胞はマウス細胞の中でミード酸が最も多いこと、さらにこの細胞ではPUFA合成に関わる脂肪酸合成酵素の発現をsiRNAにより20%以下に抑制することができたことから、NIH3T3細胞を用いてミード酸の産生遺伝子の同定を行った。これらの脂肪酸合成酵素の発現抑制下において、不飽和化酵素のFads1, 2, 3と鎖長伸長酵素のElovl5でミード酸が有意に減少したことから、これらの遺伝子がオレイン酸からミード酸の合成に関与していることが分かった。 またガスクロマトグラフィー質量分析計を用いて、オレイン酸からミード酸の中間生成物の測定を行い、これらの合成経路に18:1n-9(オレイン酸)→18:2n-9→20:2n-9→20:3n-9(ミード酸)と18:1n-9(オレイン酸)→20:1n-9→20:2n-9→20:3n-9(ミード酸)の2つがあることを明らかにした。 またPUFAは生体内で細胞膜のリン脂質に多く存在することが知られている。そこでミード酸の生理的意義を調べるにあたり、ミード酸が必須脂肪酸欠乏時にどのリン脂質に多く存在するかについても検討した。すると、必須脂肪酸欠乏である培養細胞においてミード酸はホスファチジルイノシトール(PI)に多く存在していることが分かった。通常、PIには同じΔ5脂肪酸であるアラキドン酸が多く存在していることから、必須脂肪酸欠乏時にミード酸はアラキドン酸の代わりにPIに導入されることが考えられた。これらのデータは、本研究において、必須脂肪酸欠乏時のミード酸の生理的意義を明らかにするための基礎データと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は培養細胞を用いてミード酸の合成遺伝子と2つの合成経路が存在することを明らかにした。そこで、動物でも同様に2つの合成経路が存在するかを明らかにするため、ミード酸の中間生成物である18:2n-9、20:1n-9、20:2n-9などの脂肪酸を必須脂肪酸欠乏マウスで測定し、これらの合成経路の存在について検討する予定である。 また培養細胞は培養時間とともにミード酸が増加し、PUFAが減少するが、その中でもアラキドン酸が顕著に減少していた。したがって、必須脂肪酸欠乏マウスにおいて、アラキドン酸などのPUFAの挙動について調べるとともに、飼育期間に伴い、ミード酸がどのリン脂質に最も早く、多く取り込まれて存在するかについても明らかにする。 生体内におけるアラキドン酸の欠乏は、様々なプロスタグランジンやロイトコリエンの減少も促すことから、過度の炎症を誘発したときのPUFA欠乏は、炎症をより悪化させることが考えられている。そこで、ミード酸の生理的意義について明らかにするため、培養細胞を用いて、必須脂肪酸欠乏時にミード酸がそれらの現象をレスキューするかについて検討する。また、ミード酸やその代謝物に抗炎症作用があるかについても調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度はミード酸の合成経路を実験動物を用いて明らかにするため、必須脂肪酸欠乏マウスを作成し、飼育する予定である。そのためには実験動物、飼育のための食餌およびケージ等が必要となる。 また、昨年同様、培養細胞を用いてミード酸の生理的意義を明らかにするために、細胞を維持していくための試薬等も必要である。 ミード酸やその中間生成物は微量成分であることからその解析にあたっては、質量分析計ガスクロマトグラフィーを用いて行っている。したがって、前処理のための試薬、またオートサンプラー用のバイアル等を購入する必要もある。
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