2012 Fiscal Year Research-status Report
必須脂肪酸欠乏で増加するミード酸およびその代謝物の機能解析
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23617004
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
市 育代 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 講師 (50403316)
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Keywords | 脂質栄養学 / 栄養化学 |
Research Abstract |
哺乳動物では必須脂肪酸が欠乏すると、ミード酸(20:3n-9)と言われる脂肪酸が増加することが知られている。昨年度、必須脂肪酸欠乏時のオレイン酸(18:1n-9)からミード酸産生遺伝子がFads1, Fads2, Elovl5であることを明らかにした。そこで本年度は、必須脂肪酸欠乏時における産生遺伝子の発現変化について、培養細胞と必須脂肪酸欠乏モデルマウスを用いて検討した。 培養細胞は培養時間とともにミード酸が増加し、多価不飽和脂肪酸が減少することで必須脂肪酸欠乏状態が亢進する。そこで培養時間に伴うミード酸産生遺伝の発現量の変化を調べたところ、Fads1, Elovl5の発現が増加していた。また、ミード酸の前駆物質であるオレイン酸の合成酵素SCDの発現も培養時間とともに増加していた。4週間の無脂肪食を与えた必須脂肪酸欠乏マウスの肝臓についても、Fads1, Fads2, Elovl5の発現とSCDの発現が増加していたことから、必須脂肪酸欠乏時にはミード酸の合成が遺伝子レベルで増加することが分かった。 また必須脂肪酸を含めたPUFAは、その多くがリン脂質に存在することが知られている。そこで、必須脂肪酸欠乏マウスにおける各臓器(血漿、肝臓、腎臓)の多価不飽和脂肪酸分布の変化を調べた。まず各臓器のリン脂質のミード酸分布について、必須脂肪酸欠乏時のミード酸はホスファチジルイノシトールに極めて多く分布していた。また他の多価不飽和脂肪酸はホスファチジルコリンにおいて減少が大きいが、ホスファチジルセリンなどは多価不飽和脂肪酸の減少がほとんど見られなかった。これらの結果より、必須脂肪酸欠乏では各リン脂質における多価不飽和脂肪酸の必要性が異なることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は必須脂肪酸欠乏時におけるミード酸の産生遺伝子とその経路を明らかにした。これらの結果については、現在、英文雑誌に投稿中である。 今年度は必須脂肪酸欠乏時のミード酸の産生遺伝子の変化を明らかにするため、培養細胞とモデルマウスを用いて、これらの産生遺伝子の発現変化について調べた。その結果、ミード酸の産生遺伝子の発現量は増加していたことから、必須脂肪酸欠乏時には遺伝子レベルでミード酸の産生が亢進されていることが分かった。 また、必須脂肪酸欠乏時のリン脂質や中性脂肪を構成する脂肪酸の変化についても検討した。その結果、必須脂肪酸欠乏時には中性脂肪の多価不飽和脂肪酸の減少は大きく、リン脂質ではホスファチジルコリンで多価不飽和脂肪酸の減少が大きいことが分かった。しかし、ホスファチジルエタノールアミンやホスファチジルセリンなどの多価不飽和脂肪酸の多いリン脂質では脂肪酸の変化が小さかった。このように、必須脂肪酸欠乏における脂肪酸の変化の詳細を調べることで、ミード酸がどのような脂肪酸の代用をしているか、またその必要性について明らかにできると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
必須脂肪酸欠乏におけるミード酸の必要性を明らかにするため、必須脂肪酸欠乏にある培養細胞にミード酸の産生遺伝子の阻害剤を添加し、ミード酸が合成できない培養細胞を作成する。必須脂肪酸欠乏状態でかつミード酸も産生できない培養細胞における細胞の形態や増殖能に与える影響について調べ、ミード酸の必要性について明らかにする。 必須脂肪酸欠乏時のミード酸はリン脂質の中でもホスファチジルイノシトール(PI)で顕著に増加していたことから、PIにおけるミード酸が必要であるメカニズムについても培養細胞や必須脂肪酸欠乏モデルマウスを用いて明らかにする。また必須脂肪酸欠乏時に各リン脂質における脂肪酸の変化が異なっていた。そこで、その変化の違いについてもリン脂質の合成に関わる遺伝子の変化を網羅的に調べ、原因遺伝子を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を遂行するにあたり培養細胞また動物サンプルを用いていることから、サンプル保存のための冷凍庫を購入する予定である。 また、多価不飽和脂肪酸非存在下でミード酸産生遺伝子の阻害剤を用いることにより多価不飽和脂肪酸が産生できない培養細胞を作成し、細胞形態や増殖能に対する異常を確認する。したがって、培養細胞の維持や機能解析のための試薬が必要となる。 本年度も昨年度に引き続き、必須脂肪酸欠乏モデルマウスを用いて実験を行うことから、動物飼育の維持費用も必要である。さらに脂肪酸の解析のための試薬やガラス器具の消耗品等にも使用する予定である。
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