2012 Fiscal Year Research-status Report
エキソソーム構成成分の網羅的解析によるスフィンゴ脂質の新たな栄養機能の実証
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23617005
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
三浦 豊 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10219595)
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Keywords | スフィンゴミエリン / エキソソーム / miRNA / 肝癌細胞 |
Research Abstract |
前年に引き続きスフィンゴミエリン添加時に分泌されるエキソソームの量的、質的変動を主として肝癌細胞において検討した。ヒト肝癌細胞Hep G2にスフィンゴミエリンを取り込ませ、培地中に分泌されたエキソソーム中のHSP70をWestern blot分析により定量したところ、スフィンゴミエリン未添加群と比較して、大きな差は見られなかった。HSP70はエキソソームマーカーとして知られている膜タンパク質であり、この結果はスフィンゴミエリン添加肝癌細胞から分泌されるエキソソームには量的な変化は生じにくいことを示唆している。一方で、スフィンゴミエリン添加時に分泌されるエキソソームに細胞増殖抑制作用があることをすでに見出しているため、エキソソームの質的変動を解析することを目的とし、エキソソーム中のmiRNAの網羅的解析をマイクロアレイ法により行った。対照群およびスフィンゴミエリン添加群のエキソソームよりtotal RNAを調製し、マイクロアレイ解析に供した。約15000種のmiRNAの発現を測定した結果、ほとんどのmiRNA量には差が見られなかったが、発現が上昇したmiRNAが4種、低下したものが2種見出された。そのうち、最も発現が上昇したものはhas-miR-4708-3pであり、このmiRNAは細胞増殖を促進させるタンパク質のmRNAを標的とし、それらを分解、もしくは翻訳を阻害して細胞増殖を抑制することが報告されている。この結果より、昨年見出したスフィンゴミエリン添加時に分泌されるエキソソームの細胞増殖抑制作用は、エキソソームに含まれているmiRNAを介した作用である可能性が示された。またエキソソーム中のtotal RNA中にはmiRNA以外にも、Asn-tRNA, U1 RNAなどが含まれていることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の目的の一つであったエキソソーム中に含まれているmiRNAの網羅的解析を予定通り実施し、一定の成果を挙げることができた。実績の欄にも記載したようにスフィンゴミエリンを添加したヒト肝癌細胞より分泌されるエキソソーム中のmiRNA組成が対照群と比較して変化していること、変動したmiRNAの標的が細胞増殖関連タンパク質であることが明らかになったことなどから、スフィンゴミエリンが細胞に取り込まれ、エキソソーム生成、分泌過程を変化させ、分泌されたエキソソームを介して、その生理作用を発揮している可能性を明らかにすることができた。ここで得られた知見はスフィンゴミエリンの新たな生理作用発揮機構の一つであり、当初の目的の一部を達成できたと考える。しかし、エキソソーム中にはmiRNA以外にも多数のRNA分子が含まれていることも確認されており、それらを網羅的に解析することにはまだ成功していない。また本年度は肝癌細胞での検討に注力したため他の細胞系での網羅的解析は進んでいない。それらの点からおおむね順調に進展していると評価した。 さらに食事として摂取したスフィンゴミエリンが血中エキソソームの構成を変化させ、その生理作用を発揮するという新たな栄養機能を証明することが本研究の最終目的である。そのためには食事成分摂取後の小腸からの分泌物を採取する手法が必要となる。そこで上記研究と並行して小腸潅流法の習得を行った。具体的な成果は得られていないため研究実績には記載していないが、年度中に小腸潅流系の実験手技を確立しており、次年度にはスフィンゴミエリンを摂取させたラットより血液および小腸潅流液を調製し、食事性のスフィンゴミエリンが小腸から分泌されるエキソソームにどのような影響を与えるかを検討する計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記に記載のように肝癌細胞での検討がある程度進んだため、次に肝癌細胞が分泌するエキソソーム中のRNA分子を網羅的に解析する。具体的にはRNAの質量分析を行い、エキソソームに含有されるすべてのRNA分子の同定を試みる。電気泳動上で対照群と比べて変動している可能性があると思われた分子についてはノザンブロット分析により、その含有量を定量する。さらに次年度には小腸上皮様細胞であるCaco-2細胞を用いた検討を実施する。その際Caco-2細胞は極性を有した細胞であるため、血液側、すなわちbasolateral側に分泌されるエキソソームについて、肝癌細胞と同様の手法により解析を実施する計画である。 またこれら培養細胞を用いた検討と並行して、in vivoでの検討を開始する。具体的にはスフィンゴミエリンを一定期間摂取させたマウスより血液を採取し、血液中のエキソソームを専用試薬により調製し、エキソソームマーカータンパク質の同定、引き続きエキソソーム中のtotal RNAの調製、含有されるRNA種の分析(今年度変動が観察されたmiRNA分子の定量を含む)を行い、食事として摂取したスフィンゴミエリンが血中エキソソームにどのような影響を及ぼしているかを明らかにする。ここで明らかな変化が観察された場合にはスフィンゴミエリンが小腸に作用し、小腸からのエキソソーム分泌を変化させているかを明らかにするため、小腸潅流を実施し、潅流液中のエキソソーム分析を行う。 これらの検討により本研究の最終目的であるスフィンゴミエリンの新たな栄養機能を実証する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は最終年度であるため、備品の購入計画はなく、ほとんどすべて物品費(消耗品費)として使用する計画である。具体的にはエキソソーム調製試薬、各種抗体、実験動物、RNA分析用試薬、miRNA定量のためのreal-time PCR用試薬等として使用する。今年度の経費のうちCaco-2細胞を用いた実験に予定していた経費が未実施のため繰り越されているが、その経費は予定通りCaco-2細胞を用いた実験実施のための使用する計画である。残りの研究経費は、その他の経費として、研究成果発表のための学会出張旅費ならびに論文投稿料に使用することを計画している。
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Research Products
(3 results)