2011 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋AMPキナーゼと関連情報伝達分子を対象とした食品、生薬の作用機序の解明
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23617009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 達也 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (00314211)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 骨格筋 / AMPキナーゼ / インスリン / 糖代謝 / シグナル伝達 / 運動 / 機能性食品 / 生薬 |
Research Abstract |
近年コーヒーや緑茶などカフェイン(Caf)含有飲料の摂取が糖尿病発症リスクを低下することが報告され、Cafの糖尿病予防効果に関する分子機序が注目されている。これまで我々は、ラット単離骨格筋を用いた検討で、Cafが骨格筋に存在する5’AMP-activated protein kinase(AMPK)を活性化することによって糖代謝を活性化する可能性を明らかにしてきた。一方、Caf摂取は糖尿病患者においてインスリン感受性を急性的に低下させることも報告されている。そこで本年度の研究では、Cafがインスリンシグナルを阻害しインスリン依存性糖輸送を抑制するかについての解析を行った。その結果、Caf(3 mM、15分刺激)は、insulin recepor substrate-1(IRS-1) Tyr612リン酸化、phosphatidylinositol-3 kinase Tyr458リン酸化、Akt Ser473リン酸化を阻害するとともに、インスリン依存性糖輸送活性を減弱することが明らかとなった。またCafは、インスリンシグナルに対して抑制的に作用するIRS-1 Ser307リン酸化とその制御因子inhibitor κB kinase(IKK) Ser176/180のリン酸化を亢進させた。さらに、CafによるIRS-1 Tyr612およびAkt Ser473、インスリン依存性糖輸送の阻害作用は、IKK阻害剤caffeic acidによって減弱した。またラットに生理量のCafを静脈投与することで、インスリンによるIRS-1 Tyr612及びAkt Ser473のリン酸化の抑制が認められた。以上の結果から、糖尿病患者におけるCafによるインスリン感受性の低下に、骨格筋におけるIKK/IRS-1 Ser307リン酸化を介したインスリン依存性糖輸送阻害が関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果と本年度の研究成果とに基づいて「カフェイン摂取は急性的にインスリン感受性を悪化させるものの、長期的な摂取によるAMPKの反復的活性化によって糖尿病予防効果が誘導される」との仮説を提唱することができた。この仮説は、カフェインの長期投与実験による検証を必要とするものではあるが、複数の疫学的研究において示されてきたカフェイン含有飲料(コーヒー、緑茶など)の糖尿病予防効果を説明すると同時に、糖尿病患者における糖代謝悪化のメカニズムを同時に説明することが可能な学術的・社会的意義の高い仮説と考えられた。また、カフェイン以外のコーヒー由来生理活性物質の検討も行い、カフェ酸が骨格筋AMPK活性化作用を持つことを明らかにすることができた。以上より研究が順調に進展しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に引き続き、コーヒー由来生理活性物質(カフェイン、カフェ酸、クロロゲン酸など)の骨格筋代謝に対する検討を行うとともに、他の食品や生薬成分(レスベラトロールなど)の骨格筋に対する作用を、安静時のみならず運動時において順次検討してゆく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究においてはすでに研究のための設備が整っているため、実験動物や薬品などの物品費にその大半を使用する予定である。その他の用途として、学会における研究発表・情報収集のための旅費や参加費、論文の投稿料や別刷作成、英文校正に使用する予定である。
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