2011 Fiscal Year Research-status Report
慢性腎臓病における栄養障害としての骨格筋萎縮機序の解明と治療戦略
Project/Area Number |
23617015
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
熊谷 裕通 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (40183313)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 慢性腎臓病 / 筋萎縮 / 低蛋白食 / 食事療法 / ミオスタチン / テストステロン |
Research Abstract |
本年度は、研究計画にそって次の3つの研究を行った。(1)培養筋細胞における生理活性物質の作用に関する基礎的研究:培養骨格筋細胞において、慢性腎不全患者の栄養障害を惹起する因子である炎症、アシドーシス、化学的低酸素、糖・アミノ酸の欠乏は、Angiopoietin like protein 4 (ANGPTL4)の発現を増加させた。ANGPTL4は遊離脂肪酸を増加させ筋肉内にエネルギーを供給する作用があることから、以上の結果より、骨格筋は、栄養障害を引き起こす条件下でANGPTL4の発現を増加させ、自らにエネルギー供給を行うような防御作用機序が存在すると考えられた。(2)慢性腎不全モデルラットにおける筋萎縮の機序の検討:慢性腎不全モデルラット(5/6腎摘群)はコントロール群に比べて、腎機能の低下が有意に見られ、骨格筋におけるmRNAの発現量は、Myostatinは増加傾向にあり、IGF-1は低下傾向にあったことから、腎不全が筋肉代謝に影響を及ぼす可能性が明らかとなった。しかし、5/6腎摘群における低蛋白食摂取群と通常蛋白摂取群との間に骨格筋におけるmRNAの発現量に有意な差は見られなかった。この結果から、腎不全患者に腎機能保持のため低蛋白食を処方することが栄養障害の原因となることは示されなかった。(3)慢性腎臓病患者における筋萎縮の検討:本年度は、透析患者におけるテストステロンと筋萎縮の関連について検討した。男性透析患者において、血清テストステロン値は健常者に比して有意に低値で、年齢や炎症指標やインスリン様成長因子(IGF-1)と負の相関が見られた。一方、血清テストステロン値は、血清クレアチニン値、クレアチニン産生量、腹部筋肉量、大腿部筋肉量と正の相関が見られた。このことから、血清テストステロンは筋肉量の維持に重要な因子の一つであることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画では3つの研究を予定していたが、それらはいずれも概ね順調に進んだ。ただ、血中のミオスタチンの測定法の開発に手間取っており、今後できるだけ早くその問題を解決したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画にそって次の3つの研究を推進する。(1)培養筋細胞における生理活性物質の作用に関する基礎的研究:筋肉細胞において、慢性腎不全患者の栄養障害を惹起する因子である炎症、アシドーシス、化学的低酸素、糖・アミノ酸の欠乏が、Angiopoietin like protein 4 (ANGPTL4)の発現を増加させる細胞内シグナル伝達機構について検討する。(2)慢性腎不全モデルラットにおける筋萎縮の機序の検討:これまでの研究で、低蛋白食は慢性腎不全モデルラットの筋肉代謝に影響を与えないという結果が得られたが、これは低蛋白食の程度に影響された可能性がある。さらに厳しい低蛋白食でも影響がないか検討する必要があるので、蛋白質の量を大きく変えた食事で検討を行う。(3)慢性腎臓病患者における筋萎縮の検討:慢性腎臓病患者の筋萎縮に関連する因子として、ミオスタチン、IGF-1、ユビキチン・プロテアソーム系などがある。これらの測定法を確立して、血清クレアチニン値、クレアチニン産生量、腹部筋肉量、大腿部筋肉量と正の相関が見られるか否かを検討する。その結果から慢性腎臓病患者における筋肉量の維持に重要な因子を解明する。 さらに、慢性腎臓病患者を対象とする研究では、血液透析患者おける研究が終了する時点で、保存期慢性腎不全患者を対象とする研究をスタートさせる。その研究では、特に低たんぱく質食事療法と骨格筋萎縮との関係に重点をおいて研究を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への繰越が生じたのは、血清ミオスタチンの測定法の確立が遅れているためであるが、今後その問題の解決を図る予定である。引き続き、培養細胞を用いる実験、慢性腎不全モデルを用いる実験、慢性腎臓病患者における研究を遂行するために研究費を使用する。次年度の研究費の使用計画に大きな変更はない。
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