2011 Fiscal Year Research-status Report
母子親和行動中枢の発達における脂質栄養素の役割の解析
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23617034
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
森田 規之 安田女子大学, 家政学部, 准教授 (50239662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 視床下部 / 養育行動中枢 / 愛着行動中枢 / 脂肪酸結合タンパク質 / エストロゲン受容体 / ビタミンE / 免疫組織化学 / in situ ハイブリダイゼーション |
Research Abstract |
母子の絆の深まりや、愛情や信頼の感情の育みが、生涯を通じて健全な食生活を送るための本質的な基盤になると考えられる。間脳視床下部に存在する養育行動中枢、愛着行動中枢や、不安情動制御の神経回路に注目して、その発達や機能の発揮に際して脂質栄養素が影響を及ぼす可能性の研究に着手した。多価不飽和脂肪酸などの脂質栄養素の摂取と脳機能の発達をつなぐ分子として脂肪酸結合タンパク質(Fabp)ファミリーに注目した。神経発生への関与を知る目的で、マウス胎生期での間脳視床下部領域における時空間的な発現動態を、心臓型(Fabp3)、脳型(Fabp7)、表皮型(Fabp5)の3種類の脂肪酸結合タンパク質について、タンパク質レベル(免疫組織化学染色)、遺伝子レベル (in situ ハイブリダイゼーション) で検討を進めた。さらに視床下部領域のニューロンが産生する、オキシトシン、バゾプレッシン、プロラクチン等の神経ペプチドとの関連性を調べる目的で、脂肪酸結合タンパク質やエストロゲン受容体との発現の重複性や相補性を、蛍光多重染色を施して共焦点顕微鏡観察することで解析中である。脂溶性であるビタミンEの脳内での濃度を低下させたり、ビタミンE欠乏食を摂取させることで、動物に不安行動を誘発できるとされている。その機構の一端として、エストロゲン受容体シグナリングを介しての抗不安や情動制御に対する影響を想定し、エストロゲン受容体の細胞内動態に着目した。ビタミンE添加が、エストロゲン受容体の細胞内や核内での動態におよぼす影響を、培養細胞での蛍光タンパク質イメージング解析によって検討を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、1)多価不飽和脂肪酸による脂肪酸結合タンパク質(Fabp)を介した間脳視床下部領域の神経発生の制御、2)脂溶性ビタミンEのエストロゲン受容体βシグナリングへの関与による情動行動の調節、を切り口として、脂質栄養素が母子親和行動や不安情動制御の脳中枢の発達に影響を及ぼす可能性について追究することである。マウスをモデル動物とする、胎生期の視床下部における脂肪酸結合タンパク質の発現の分子形態学的な解析については、in situ ハイブリダイゼーション実験の部分で環境整備や条件検討に手間取ったため、想定よりもわずかに遅れ気味であると考えているが、免疫組織化学による脂肪酸結合タンパク質、エストロゲン受容体、各種神経ペプチドの共発現の解析は、計画に沿って進めてきた。一方、ビタミンEのエストロゲン受容体βシグナリングへの関与は、交付申請書では24年度から免疫組織化学的手法を用いて解析する予定であった。エストロゲン受容体βに対する抗体の信頼性に議論があることを踏まえると、GFP蛍光タンパク質ラベルした受容体を用いての細胞内挙動解析を並行する事も望まれた。新たに共同研究として、23年度内にイメージング解析に着手できたことは、研究目的の達成に向けて大きな力となる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に従い、分子から細胞レベル、ニューロンから脳内ネットワークレベル、個体の行動のレベルへと、生体の構造と機能の階層性に沿うように、順次、推し進めていく。ビタミンEのエストロゲン受容体βシグナリングへの関与の解析については、信頼性に最も定評のある抗体を現在入手できないことから、免疫組織化学的解析に加えて、GFP蛍光タンパク質との融合受容体を用いて生細胞イメージング解析を行うことが、学術的にもより一層の意義を持つと考えられる。共同研究として新たに着手したエストロゲン受容体βイメージング解析を進展させ、各種のトコトリエノールおよびトコフェロールのおよぼす影響についての詳細な解析を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実施する研究内容として、1)トコトリエノールによるエストロゲン受容体β(ERβ)の核内動態の初代培養系による解析:ERβ発現ニューロンを含む脳領域(視床下部、背側縫線核、小脳)からの初代神経系無血清培養の培地にトコトリエノールあるいはトコフェロールを添加し、ERβの核内動態を免疫細胞化学染色によって評価し、免疫蛍光多重染色法によって、培養神経細胞の形態変化や各種神経ペプチド(オキシトシン、プロラクチン、バゾプレッシン等)の発現量の変化と、ERβの核内動態の関連性を検証。2) 多価不飽和脂肪酸添加が初代培養系胎生マウス視床下部細胞に及ぼす影響:無血清培地に、多価不飽和脂肪酸のアラキドン酸(C20:4, n-6)、イコサペンタエン酸(C20:5, n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6, n-3)のそれぞれを添加して、神経上皮細胞の増殖、ニューロン新生、ニューロンの分化を、免疫蛍光多重染色法によって検討。3) 多価不飽和脂肪酸欠乏食 / 添加食、ビタミンE欠乏食 / トコトリエノール添加食の摂取動物の栄養学的検討:血中濃度、脳などの臓器での脂質栄養素の濃度の変動を、母体、妊娠後期の胎仔、哺乳期から離乳期の仔など、ライフステージ別に検討。を計画している。初代培養法による細胞生物学的解析を主体として、特殊飼料を用いた栄養素摂取実験にも着手する予定であり、研究費のほとんどは消耗品費として、飼料、細胞培養試薬やプラスティック器具などの購入に充てる計画である。
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