2012 Fiscal Year Research-status Report
母子親和行動中枢の発達における脂質栄養素の役割の解析
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23617034
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
森田 規之 安田女子大学, 家政学部, 准教授 (50239662)
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Keywords | 視床下部 / 養育行動中枢 / 愛着行動中枢 / エストロゲン受容体 / ビタミンE / 脂肪酸結合タンパク質 / 免疫組織細胞化学 / in situ ハイブリダイゼーション |
Research Abstract |
母子の絆の深まり、愛情や信頼の感情の育みが、生涯を通じて健全な食生活を送るための本質的な基盤になると考えられる。間脳視床下部の養育行動中枢や愛着行動中枢、不安情動制御の神経回路に注目して、その発生や発達、機能の発揮に際して、脂質栄養素が及ぼす影響を研究している。 ビタミンE欠乏食の摂取や、脳内ビタミンE濃度の低下によって、動物に不安行動を誘発できるとされている機構の一端として、ビタミンEがエストロゲン受容体のリガンドとして作用する可能性を検討した。免疫組織細胞化学的手法、緑色蛍光タンパク質標識受容体の発現系を用いて、細胞内、あるいは細胞核内におけるエストロゲン受容体の挙動解析を進めてきたが、既報に基づく我々の仮説に沿わない結果がこれまでのところ得られており、実験系や解析手法の再検討を含めて細胞レベルでの追究を継続する。 また、多価不飽和脂肪酸などの脂質栄養素の摂取と脳の発生や機能の発達をつなぐ分子として脂肪酸結合タンパク質(Fabp)ファミリーに注目した。間脳視床下部領域の神経発生への関与を知るため、in situ ハイブリダイゼーションによって、胎仔期のマウスにおける時空間的な発現動態を遺伝子レベルで検討している。あらためて、Fabpファミリーメンバーの各々について特異性の高いcRNAプローブを設計した。ジゴキシゲニン標識ならびにフルオレセイン標識プローブによる多重染色によって、関連が期待される核内受容体遺伝子や領域マーカー遺伝子との発現の重複性の検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、1)多価不飽和脂肪酸による脂肪酸結合タンパク質(Fabp)を介した間脳視床下部領域の神経発生の制御、2)脂溶性ビタミンEのエストロゲン受容体βシグナリングへの関与による情動行動の調節、を切り口として、脂質栄養素が母子親和行動や不安情動制御の脳中枢の発生と発達に影響を及ぼす可能性について追究することである。 マウスをモデル動物とする、胎生期の視床下部における脂肪酸結合タンパク質の発現の分子形態学的な解析については、プローブの特異性の問題から、Fabpファミリーメンバーの各々についてあらためてcRNAプローブを設計して調製することとなった。ジゴキシゲニン標識およびフルオレセイン標識したプローブを併用する多重染色in situ ハイブリダイゼーションによって、Fabpならびに、関連が期待される核内受容体、領域マーカーとの発現の重複性の解析を進めた。 ビタミンEがエストロゲン受容体のリガンドあるいはモデュレーターとして作用する可能性については、免疫組織化学的解析に加えて、緑色蛍光タンパク質との融合受容体を用いたイメージング解析を進めた。エストロゲン受容体リガンド、各種ビタミンEを添加後の、エストロゲン受容体の核内移行の挙動や細胞核内における分布を検討したが、これまでのところ、既報に基づいた我々の仮説に沿わない結果となっている。実験系や解析手法の再検討を含めて細胞レベルでの追究を継続する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
生体の構造と機能の階層性に沿うべく、当初の研究計画に準じて、分子から細胞レベル、ニューロンから脳内ネットワークレベル、個体のレベルへと、順次進めていく。 脂溶性ビタミンEのエストロゲン受容体βシグナリングへの関与については、受容体タンパク質の核内移行の挙動や細胞核内における分布の解析からは当初の仮説に沿わない結果となっており、細胞株や細胞種の違いによる影響などを詳細に検討しつつ、他のエストロゲン受容体ファミリーメンバーとの相互作用の可能性についても、細胞レベルでの追究を継続する。 受容体シグナリングによる遺伝子発現や細胞形態の変化を、視床下部、背側縫線核、小脳等からの初代培養系ER発現ニューロンにおいて、エストロゲン受容体リガンドの添加と脂溶性ビタミンEである各種トコトリエノール添加の影響を比較して検討する。 多価不飽和脂肪酸添加が、初代培養系胎生マウス視床下部細胞の増殖や分化、形態変化に及ぼす影響を、Fabpファミリーメンバーの発現と関連させつつ免疫蛍光多重染色法によって検討する。 多価不飽和脂肪酸欠乏 / 添加食、ビタミンE欠乏食 / トコトリエノール添加食を摂取させた動物での血液、脳での脂質濃度の変動を、母体、妊娠後期の胎仔、哺乳期から離乳期の仔など、ライフステージ別に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) エストロゲン受容体βシグナリングの初代培養系による解析:視床下部、背側縫線核、小脳などERβ発現ニューロンを含む脳領域からのマウス初代神経培養系に対してエストロゲン受容体リガンドと各種トコトリエノールを添加した際の、培養神経細胞の形態変化や各種神経ペプチドの発現量の変化を比較、検討する。 2) 多価不飽和脂肪酸添加が胎生マウス視床下部細胞に及ぼす影響:無血清培地にアラキドン酸(C20:4, n-6)、イコサペンタエン酸(C20:5, n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6, n-3)のそれぞれを添加して、神経上皮細胞の増殖、ニューロンの分化、形態変化を、免疫細胞化学的に検討する。 3) 多価不飽和脂肪酸欠乏 / 添加食、ビタミンE欠乏食 / トコトリエノール添加食の摂取動物の栄養学的検討:血液、脳での脂質濃度の変動を、母体、妊娠後期の胎仔、哺乳期から離乳期の仔など、ライフステージ別に明らかにする。 初代神経培養法による細胞生物学的解析、特殊飼料を用いた栄養素摂取実験を進める予定であり、研究費は、飼料、細胞培養試薬やプラスティック器具など消耗品の購入に充てるとともに、成果発表のための旅費、謝金を支出する計画である。
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