2011 Fiscal Year Research-status Report
生活習慣・環境因子との相互作用に関与する遺伝子多型と膵癌リスク
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23617037
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
大浪 俊平 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 支援施設長 (60291142)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | MTRR |
Research Abstract |
生活習慣や環境因子との相互作用に関与していると考えられる遺伝子のSNPsを対象とした関連解析により、浸潤性膵管がんの易罹患性座位として葉酸代謝酵素遺伝子、MTRRを同定し、さらに同集団を対象としたデータマインニングを基盤とした遺伝子間相互作用解析(MDR法)により、最も精度の高い組み合わせとしてMTRRとTYMSのSNPsペアを見出した。TYMSは、DNA複製に対する必須のプレカーサーであるdUMPからdTMPの変換を触媒する葉酸代謝系酵素であり、膵発がんに複数の葉酸代謝系酵素の遺伝子多型が関与している可能性が示唆される。また、MTRRを強発現しているMIAPaCa-2膵がん細胞株のsiRNAによるMTRR遺伝子のノックダウンにより、TYMSの発現が5倍以上に増加している事を見出し、MTRRがTYMSと相互作用していることが示唆された。次に、膵がんに対して最も高あるいは低リスクのハプロタイプに対応するMTRR蛋白質発現プラスミドを内因性MTRRのmRNAが検出されないヒト細胞にトランスフェクションし、通常、高度にメチル化されている反復配列LINE-1をCOBRA法により測定すると、前者は後者に比してメチル化レベルが減少している知見を得た。しかしながら、ゲノム全体の約15%を占めるLINE-1測定のみで、ゲノム全体のメチル化状態を反映する指標としては不十分であることが指摘されている。本研究では、これまで精度に問題のあったアイソトープ法によるゲノム全体のメチル化シトシン含量を測定する技術の改良・開発を進め、従来法と比較してより簡便で精度の高い測定法を確立した。本法を用いてがんに特徴的なゲノム全体の低メチル化と葉酸代謝系酵素の遺伝子発現や遺伝子多型、葉酸摂取との関わりについての検討結果が集積されており、膵がんに対する有効・適切な予防・治療法への応用に繋がることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、MTRRの機能および膵がん発症における役割をさらに解明するとともに、がんに特徴的なゲノム全体の低メチル化と葉酸摂取およびMTRRを含めた葉酸代謝系酵素の遺伝子多型との関わりを明らかにし、膵がんに対する有効な一次・二次予防法の開発と普及を目指すものである。平成23年度においては、膵がんの易罹患性を規定する葉酸代謝酵素MTRR遺伝子の機能解析を開始した。MTRR遺伝子により発現が制御される分子としてDNA複製及び細胞増殖に関与するMinichromosome maintenance (MCM)遺伝子やTYMS遺伝子等を同定した。特にTYMSは、がん遺伝子としての機能に加え、MTRRと同様に葉酸代謝酵素であり、膵がんの発症に複数の葉酸代謝酵素が関与している可能性が示唆される。また、ゲノム全体のDNAメチル化解析に必要とされるアイソトープ法による分析条件も検討を開始した。非結合型遊離アイソトープ分離に磁性ビーズ技術を導入することにより微量サンプルからの5-メチルシトシンを検出する測定法を開発し、従来法に比較して、簡便かつ精度・再現性に優れた方法を確立した。MTRR遺伝子を高発現しているMIAPaCa-2、Capan-1膵がん細胞株および正常ヒト膵管上皮細胞株では、MTRR遺伝子のノックダウンにより、ゲノム全体のDNAメチル化が減少する傾向を認めたことから、MTRR遺伝子発現量の低下は、異常なDNAメチル化を誘発し、遺伝子不安定性や将来の発がんリスクに影響する可能性を示した。膵がんの易罹患性遺伝子として同定したMTRRの機能解析を中心に分子標的予防の開発がおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの基礎実験における成果をもとに、引き続きがんにおける葉酸代謝酵素遺伝子の作用機序およびDNAメチル化異常について検討を進めるとともに、MTRRの発現低下により誘導される、がん遺伝子としての機能を持つTYMSおよびMCM遺伝子のcDNAを個別に過剰発現、あるいは翻訳制御等の方法でその機能的意義を明らかにし、これらの研究成果を実験動物個体を用いて検証する。また、MTRR遺伝子の機能阻害によるゲノム全体の低メチル化が、葉酸添加によって修正されるのか否かを明らかにする。葉酸代謝酵素活性の減弱と遺伝子多型との関与が示されているメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)遺伝子については、MTHFR蛋白質発現プラスミドを作成し、膵がん細胞への遺伝子導入により、遺伝子多型によるDNAメチル化への影響について調べる。葉酸欠乏はDNA鎖切断、DNA修復活性の低下によるゲノム不安定性や変異率の増加およびDNAメチル化異常に関与し、がんの発生と進展に重要な役割を果たしており、がんにおける葉酸状態とDNAメチル化異常との関連性についての証拠はこれまでのところ不十分であるが、本研究の成果からその全貌を明らかにできる可能性がある。また、葉酸欠乏による異常なメチル化変化の誘発およびその機構が明らかになれば、ヒトの高発がんリスク群の同定や葉酸摂取によるがん予防につながるので社会的貢献が大きいと考えられる。当初、研究計画に示した「膵発がん動物モデルに対する葉酸摂取効果の検証」については、特殊な餌代等に対する研究費が十分確保できていないため、動物モデル多段階膵発がん過程でのゲノム全体的なDNAメチル化の関与や遺伝子発現制御機構について、生殖細胞系列および体細胞系列両面から解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に計画している主な研究項目と研究経費は次のものである。1. 葉酸代謝系酵素(MTRR, MTHFR, MTR, TYMS等)の機能解析:引き続きがんにおけるMTRR遺伝子の作用機序およびDNAメチル化異常について検討を進める。また、MTRR遺伝子によって制御されるTYMSおよびMCM遺伝子については、cDNAを個別に過剰発現、あるいは翻訳制御等の方法でその機能的意義を明らかにする。さらに、MTRR遺伝子の機能阻害によるゲノム全体の低メチル化が、葉酸添加によって修正されるのか否かを明らかにする。葉酸代謝酵素活性の減弱と遺伝子多型との関与が示されているMTHFR遺伝子について、アミノ酸変化を伴う多型との間でDNAメチル化に及ぼす影響を評価するために、MTHFR蛋白質発現プラスミドを作成する。また、多型によるホモシステイン濃度との関与についても明らかにする。さらに、MTHFR、TYMSおよびMTRに対する特異抗体を作成し、葉酸代謝系酵素の遺伝子多型による蛋白質発現とDNAメチル化との関与を明らかにする予定である。2.葉酸代謝関連遺伝子の分子機構の解明:膵がん細胞株への葉酸添加は細胞増殖を促進するが、葉酸欠乏あるいは過剰な葉酸添加は逆に抑制する。一方、正常ヒト膵管上皮細胞株は、葉酸依存性でない知見を得ており、葉酸結合蛋白や葉酸受容体の両面から葉酸摂取の分子メカニズムの解明を行う。以上の研究計画に対して、主に(1)DNAのメチル化シトシン含量を測定するためのアイソトープ等の関連試薬、(2)MTHFR, TYMS, MTRに対する特異抗体による蛋白質解析のための関連試薬、(3)細胞培養関連試薬、およびこれらの研究により得られた成果公表のための関連学会等の参加費を研究予算に計上する。
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