2011 Fiscal Year Research-status Report
低酸素刺激がiPS細胞の大脳皮質分化において果たす役割と分子機構
Project/Area Number |
23618004
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高崎 真美 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80392009)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 胚性幹細胞 / 低酸素応答 / 神経外胚葉 / 発生 / 再生医学 |
Research Abstract |
マウス及びヒトES細胞を無血清培地中で分散浮遊培養すると、神経外胚葉への効率的な分化誘導に加え、大脳皮質様の組織構造を構築することが示されている(Eiraku, Matsuo-Takasaki et. al, 2008)。これは、分泌タンパク質などの外因性シグナル非存在下でも、ES細胞から組織化した大脳組織が形成され得ることを示唆しているが、その分子機構は分っていない。再生医療の観点から、自家移植可能なiPS細胞に由来する大脳組織の分化機構の解明が強く望まれるが、ES細胞と同様にその詳細は未だ謎である。 本研究では、哺乳類の大脳発生を制御する要因として「酸素濃度」に注目し、まずマウスES細胞でその分子機構を解析した。その結果、ES細胞塊は分化の進行とともに組織自律的に低酸素領域を形成し、低酸素応答転写因子の一つHif1- αが時期を同じくして活性化された。また細胞塊内の低酸素領域は、最も初期の神経外胚葉マーカーであるSox1の発現領域と一致することが分った。Hif1-α ノックダウンES細胞株を樹立し分散浮遊培養による分化実験を行った結果、Hif1-αノックダウンES細胞塊ではSox1の発現が著しく抑制されたのに対し、未分化ES細胞マーカー及び原始外胚葉マーカーであるFgf5の発現が上昇することが明らかになった。これらより、Hif1-αは、初期発生における原始外胚葉から神経外胚葉への運命付けの段階において、必須の役割を果たす分子であることが示された。ヒトES細胞でも同様の解析を進め、低酸素領域の形成と初期神経外胚葉マーカー発現との時期の一致を確認した。 上述の分子機構がヒトiPS細胞においても保存されているかを解析するため、大量にiPS細胞 (HiPS-RIKEN-12A)のストックを作製し、マウスES細胞と同様の手法で研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は東日本大震災の影響もあり、実験の開始(特に細胞の調製や試薬類の品質の可否の検討)に手間取ったため、研究の進行が予定よりも若干遅れている感は否めない。 しかし、比較検討のためのマウスおよびヒトES細胞を用いた実験が予想以上に進展し、低酸素応答転写因子の一つHif1-αが、哺乳類初期発生における原始外胚葉から神経外胚葉への運命付けの段階において必須の役割を果たす分子であることが明らかになった。また、その作用機構に関する分子レベルの解析も進行中で、Hif1-αは神経分化抑制因子のBMPシグナルに対する抑制効果を通じて、神経外胚葉分化を制御している結論を得ている。ヒトES細胞でも同様の解析を進め、低酸素領域の形成と初期神経外胚葉マーカーの発現の時期の一致を確認した。これらより、低酸素応答機構は哺乳類の神経外胚葉分化の共通のメカニズムである可能性が示唆され、国際誌に論文投稿準備中である。 投稿のための実験などに少々時間が取られ、ヒトiPS細胞への研究の展開がやや遅れている。しかしながら、これまでにヒトiPS細胞株(HiPS-RIKEN-12A)の大量ストックを作製済みで、マウスES細胞及びヒトES細胞と同様の分散浮遊培養法を用いて効率的な神経外胚葉への分化誘導に成功している事から、今後の実験はスムーズに進行すると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように研究に若干の遅れはあるが、これまで行ったマウス・ヒトES細胞での研究結果を参考に、基本的には同様の手法をヒトiPS細胞の実験に順次応用していく事を考えている。既に、本研究で注目すべき遺伝子(低酸素応答転写因子、HIF-1α)・細胞内シグナル(BMPシグナル)についての情報が十分得られているので、ヒトiPS細胞においても、これらの分子に焦点を絞ることで、研究の推進に強く繋がると期待できる。 特に、ヒトES細胞とヒトiPS細胞の神経外胚葉分化の分子機構の比較が重要であることから、今後の研究の最重要課題として研究を進めて行く。この際、低酸素応答転写因子HIF-1αの機能解析が必須であるが、ノックダウン実験に手間が取られる可能性がある。そこで、阻害剤によるHIF-1αの機能阻害実験も並行して行うことを考えている。これまでに報告されているHIF-1α阻害剤は、特異性が高くなく、本実験の目的にそぐわない可能性がある。その際は、より特異性の高い阻害剤の使用が必要となる。これに関しては、学習院大学の中村教授(学習院・理学部・化学)らが開発した、特異性の高い阻害剤を分与いただく予定である。 ヒトES細胞とヒトiPS細胞の神経外胚葉分化ににおいて、 HIF1-α以外の低酸素応答因子が働いている可能性も否めないので、それについても柔軟に対応できるよう準備する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、主に、iPS細胞とES細胞を用いて研究を行う性質上、培地・血清・各種増殖因子・リコンビナントタンパク質・培養用プラスチック製品が大量に必要となるため、これら多くの消耗品の購入のために研究費を使用する。その他、基本的な生化学関連試薬(抗体類、薬品類、酵素類)、プライマーの受託合成、各種遺伝子工学用キット等の購入などにも使用する。 また、研究成果の発表および研究領域の最新の情報収集のために学会への参加は不可欠であり、そのための旅費として使用する。さらに、研究成果を国際誌へ発表するため、そのための投稿料として使用する。 次年度使用額が生じた一つの理由として、購入を考えていたCO2マルチガスインキュベーターが、大学の共通機器を使用させてもらえたために、購入しないで済んだ事が挙げられる。また、東日本大震災の影響から、実験の開始が予定より大幅に遅れた事も挙げられる。また、本年度の実験を終えて、ES細胞・iPS細胞の維持培養及び分化実験に予想を超えた金額がかかる事が判明したため、次年度は当該研究費を備品購入に充てる事なく、翌年度以降に請求する研究費と合わせて、上述の使用計画に沿って使用する予定である。
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Research Products
(2 results)