2012 Fiscal Year Research-status Report
低酸素刺激がiPS細胞の大脳皮質分化において果たす役割と分子機構
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23618004
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高崎 真美 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80392009)
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Keywords | iPS細胞 / 胚性幹細胞 / 低酸素応答 / 神経外胚葉 / 発生 / 再生医学 |
Research Abstract |
これまでの研究で、マウス及びヒトES細胞を無血清培地中で分散浮遊培養することにより形成されるES細胞塊において1)神経外胚葉の効率的分化が誘導されること、2)長期培養によって大脳皮質様の神経上皮組織が構築されることが示されている(Eiraku, et. al, 2008)。これらの報告は、分泌タンパク質等の外因性シグナル非存在下において、ES細胞から自律的に組織化した大脳組織が形成され得ることを示唆するが、その分子機序の詳細は分っていない。また、再生医療の観点からiPS細胞に由来する神経外胚葉への分化機序の解明が強く望まれるが、ES細胞と同様にその詳細は未だ謎である。 本研究課題では、哺乳類の神経外胚葉の発生を制御する因子の一つとして酸素濃度に注目した。昨年度は、マウスES細胞の分散浮遊培養で生じるES細胞塊で、分化の進行とともに細胞自律的に低酸素領域が形成され、神経外胚葉の分化開始と時期を同じくして低酸素応答転写因子の一つHif1- αが活性化されることを示した。本年度はHif-1α ノックダウンES細胞株を用いた分化実験及びHi1α強制発現実験を行い、未分化ES細胞から神経外胚葉への運命付けにおいてHif-1αが必須の因子であることを明らかにした。また、Hif-1αの標的遺伝子を探索するためクロマチン免疫沈降法を実施した所、Hif-1αは神経外胚葉マーカーである転写因子Sox1の遺伝子座に結合し、その発現を正に調節することが明らかとなった。 ヒトES細胞でも同様の解析を進め、マウスES細胞と同様に、HIF-1αがヒト神経外胚葉への運命付けにおいて重要な因子であることを示す結果得ている。ヒトiPS細胞においても、マウスES細胞と同様の手法で研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は初年度からの実験のずれ込みもあり(震災の影響から、実験の開始までに手間取った)、研究の進行が予定よりも若干遅れている感はある。 また、iPS細胞との比較検討のために行ったマウス及びヒトES細胞を用いた研究が進展し、この内容を論文にまとめるための実験を集中的に行ったことも、全体としての研究進展の遅れの理由の一つと考える。 また、ヒトiPS細胞株(HiPS-RIKEN-12A)を用いた分散浮遊培養でHif-1α阻害実験を行った所、マウス及びヒトES細胞と異なる結果を得たため、別のヒトiPS細胞株を購入し再検討を始めたことも実験がやや遅れていることの原因である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、特に重点的に推進する研究課題として、ヒトES細胞とヒトiPS細胞の神経外胚葉分化の分子機序の比較が挙げられる。これまでマウス・ヒトES細胞で明らかにした研究結果に基づき、基本的に同様の手法をヒトiPS細胞の実験に順次応用していくが、この際、低酸素応答転写因子HIF-1αの機能阻害実験が必須である。本研究課題では、ノックダウン実験を簡素化して研究を進めるため、HIF-1α阻害剤の使用を計画する。これまでに報告されているHIF-1α阻害剤は特異性が高くないため、中村教授(学習院大学)より分与されたより特異性の高い阻害剤を使用し、ヒトiPS細胞の神経外胚葉分化におけるHIF-1αの機能解析を推進する。 これまでのマウスES細胞を用いた研究代表者らの予備的実験から、 Hif-1αの下流で神経外胚葉分化を制御する因子として、ある種の分泌因子(X)が同定されてきた。そこでヒトiPS細胞においても、Hif-1αに加えこの分泌因子の機能解析に焦点を絞ることで、研究の推進に強く繋がることを期待する。 また、ヒトiPS細胞の神経外胚葉分化ににおいて HIF1-α以外の低酸素応答因子が働いている可能性も否めないので、それについても柔軟に対応できるよう準備する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた一つの理由として、論文投稿が予定より遅れたために国際誌への投稿料として確保していた分が残額として生じた事が挙げられる。また、iPS細胞関連実験の進展が少々遅れているため、当初予定していた研究費が残額として生じている。 iPS細胞とES細胞を用いて研究を行う性質上、培地・血清・各種増殖因子・リコンビナントタンパク質・培養用プラスチック製品が大量に必要となるため、翌年度分として請求する助成金の多くは、これら消耗品の購入のために使用する。その他、基本的生化学関連試薬(抗体類、薬品類、酵素類)、プライマーの受託合成、各種遺伝子工学用キット等の購入などに使用し、備品購入には充てない。 また、研究成果の発表および研究領域の最新の情報収集のために学会への参加は不可欠であり、そのための旅費として使用する。さらに、これまでの研究成果を国際誌へ発表するため、そのための投稿料として使用する。
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Research Products
(1 results)