2011 Fiscal Year Research-status Report
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23650066
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩谷 昌己 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (30156252)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | プロセス計算 / グラフ書き換え系 / 抽象化 / 進化計算 / 自動合成 / DNAデバイス / 分子ロボティクス / 合成生物学 |
Research Abstract |
DNAデバイスをモデル化するグラフもしくはグラフの集合を、抽象ノードの集合として抽象化する方法を開発した。抽象ノードは、一本鎖のストランドに他のストランドとの結合情報を付加することにより定義した。以上の抽象化に基づき、抽象システムのシミュレータを実装した。そして、抽象システムを進化的に探索する方法を開発し、各種の回路やオートマトンの自動合成を試みた。この結果、抽象ノードに基づく抽象化により、シミュレーションの速度は向上し、探索空間も大幅に縮減されることが明らかになった。この成果に関しては、国際会議にて発表するとともに、会議録に論文を掲載した。 続いて、同様の抽象化をRNAiのシミュレーションに応用した。RNAiの場合は、各siRNAのセグメントをもとに抽象ノードを定義した。抽象化を施さない元のシステムでは、RNA分子が作る構造の数が組合せ爆発するために、セグメント数が10個以上のRNAiのシミュレーションは不可能であったが、抽象化により、セグメント数が20個以上のRNAiのシミュレーションが可能となり、その結果、siRNAの濃度分布をシミュレーションにより再現することができた。 以上の抽象化は近似を含んでおり、抽象システムのシミュレーションは、厳密には具体システムのシミュレーションとは一致しないが、その近似の精度は極めて高い。平成23年度の後半では、なぜ近似が高精度になるかを考察するとともに、RNAiに対しては、近似を含まない抽象化を定義することを試みた。反応のある種の制限のもとで、近似を含まない抽象化を定義することに成功した。 自動合成されたDNAオートマトンを、実際にウェット実験によって稼働させた。光とATPの二種類の入力を受け取るオートマトンを構築した。この成果については、国際会議でポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、目的の仕様や性質に合わせて、抽象ノードを定義する方法を開発することを計画していたが、実際に、RNAiに対しては、各セグメントに基づく抽象化を定義することにより、RNAiのある種の現象を再現することができた。今後は、抽象ノードを定義するためのより一般的に方法の開発を試みたいと考えている。 当初、抽象化に各種の近似を導入する方法について考察することを計画していた。より粗い抽象化により、シミュレーションや探索が効率化されることが期待された。しかしながら、DNAデバイスやRNAiに対して定義した抽象化は、そもそも近似を含んでいるため、研究の方向を以下のように転換した。一つは、抽象ノードによる抽象化の近似の精度が一般に高い理由を分析するとともに、どのような場合に近似が悪くなるかを明らかにすることである。もう一つは、近似を含まない抽象化を定義することである。後者に関しては、RNAiの場合に、近似を含まない抽象化を定義することができた。前者に関してはある程度の考察を進めたが、平成24年度に継続して取り組む予定である。なお、以上の成果に関しては、国際ワークショップで発表を行ったが、現在、国際会議への投稿を準備している。 抽象システムの自動合成に関しては、研究実績の概要で述べたように、十分な成果を得ることができた。 ウェット実験による稼働に関してもある程度の成果を得た。なお、平成24年度は、抽象化を含む自動合成を他の種類の対象、特に、遺伝子ネットワークなどの合成生物学の対象に適用することを計画しているため、平成23年度には、大腸菌の組み換え実験の準備も行った。特に、ウェット実験の環境を整備し、予備実験を行うとともに、組み換え実験を支援するソフトウェア基盤の構築も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度で述べたように、目的の仕様や性質に合わせて抽象ノードを定義するためのより一般的な方法の開発を試みる。 これもまた現在までの達成度で述べたように、抽象ノードによる抽象化の近似の精度が一般に高い理由を分析するとともに、どのような場合に近似が悪くなるかを明らかにする。 当初の研究計画にあるように、遺伝子ネットワークなどの合成生物学における研究対象に対して抽象化を含む自動合成を試みる。特に、mRNAの間のインタラクションによる転写後調節の人工システムを実装することを計画している。 当初の研究計画にあるように、並列アルゴリズムやプロトコルのような純粋な離散系を、抽象化を適用して自動合成することを試みる。ただし、この項目に関しては、時間的な余裕がないかもしれないと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主として、ウェット実験、国際会議における発表に使用する。ウェット実験に関しては、各種の消耗品に加えて、技術補佐員への謝金の支出を検討している。
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