2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23650116
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安永 守利 筑波大学, システム情報系, 教授 (80272178)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 遺伝的アルゴリズム / 組み合わせ問題 / 電磁ノイズ / 配線 / プリント基板 |
Research Abstract |
本研究の目的は,電磁ノイズの低減が可能な新たな配線構造の提案である.本年度は,我々が既にシグナルインテグリティ問題解決のために提案している"セグメント分割伝送線"を電磁ノイズ低減に適用すべく,その基礎検討に着手した.セグメント分割伝送線とは,配線を複数のセグメントに分割し,個々のセグメント毎に異なった特性インピーダンスを与え,異なった特性インピーダンスによる反射ノイズを故意に発生する技術である.そして,これ等の反射ノイズを重ね合わせることにより,対象となる波形を整形するシグナルインテグリティ改善技術である. 強い電磁ノイズを放射する系の一つとして,分岐配線系があげられる.本年度は,この分岐配線系を対象にセグメント分割伝送線の適用可能性について検討を行った.分岐配線系とは,送信回路と受信回路を結ぶ一本の配線系の途中から枝分かれした配線が存在し,その先に受信回路が接続された系である.配線分岐点が特性インピーダンスの不整合点となるため大きな反射ノイズが発生する.このため,超高速信号伝送などでは使用が困難とされる伝送系である. この系に対して,基本的にセグメント分割伝送線による波形整形が可能か否かもまだ明らかになっていない.このため,波形整形の可能性を試作評価した.1GHz・15cmクロック信号系の分岐配線(2配線分岐)の4倍スケールアップ(250MHz・60cm)に対してセグメント分割伝送線を設計し,実測した.その結果,従来配線に比べて論理マージンを約6倍改善することが可能となった(High論理マージン6.1倍,Low論理マージン5.4倍).これより,設計対象を波形から放射電磁ノイズにすることで電磁ノイズ低減が可能なセグメント分割伝送線を実現できる見通しを得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多大な電磁ノイズを発生する1対1分岐配線系に対してセグメント分割伝送線を適用し,分岐点(最も反射ノイズが大きな点)において反射ノイズを約1/6に低減できたことで,セグメント分割伝送線を電磁ノイズに提要できる基本的な見通しをえることができた.特に,本成果をシミュレーションのみならず,試作評価によって示すことができた点は大きな成果であると考えられる. 一方,従来のセグメント分割伝送線は,一点(今回の対象系では分岐点)における反射ノイズ(最大反射ノイズ)を低減する設計となる.これを電磁ノイズ低減に適用するためには,配線全体から出るノイズ(放射ノイズ)量との関連を明確にする必要がある. また,今年度のセグメント分割伝送線は,回路シミュレータHSPICEに基づく設計を行った.この点でHSPICEが反射ノイズ低減設計には十分な性能があることが分かった.一方で,電磁ノイズの評価には電磁界シミュレータをセグメント分割伝送線の設計に利用することが望ましく,この点での検討評価が未着手となっている. なお,1対1伝送系の試作評価結果については,電子情報通信学会総合大会(H24年3月)で報告するとともに,関連技術情報の調査を行った.現在のところ本提案技術に類似の技術は報告されておらず,新規性の点で高いレベルにあると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
試作評価により本提案手法の有効性の見通しを得ることができたが,次年度使用額427,880円が生じた.これは,本年度の設計に回路シミュレータのみを適用し,電磁界シミュレータは使用しなかったことによる.本年度は,分岐配線に対するセグメント分割伝送線の波形整形能力の評価を対象としたため,回路シミュレータのみで設計が完結したためである.また,成果の報告と調査を国内学会に絞ったこと,および,既存の設計ソフトウェアの範囲でセグメント分割伝送線が設計できたこと(人件費を利用したソフトウェア改良を行わなかったこと)が理由である. 次年度(最終年度)は,セグメント分割伝送線設計の評価関数の改良に着手し,対象とする系を増やす(分岐配線だけでなく,他の系も対象とする)ことで提案手法の有効性を評価する.さらに,電磁界解析シミュレータの使用を検討する(具体的には,現有のシミュレータADSの利用を予定している).また,現在,設計に用いている最適化手法である遺伝的アルゴリズムの改良も検討する.具体的には,アルゴリズムの高速化と他のアルゴリズムとの併用である.以上のアプローチにより,セグメント分割伝送線を用いた電磁ノイズ低減構造の有効性を定量的に評価する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(最終年度)は,次年度使用額(427,880円)を加えた総額,1,627,880円(直接費)で本研究の目的を達成するよう研究を推進する.具体的には本年度の成果をベースに,セグメント分割伝送線を用いた電磁ノイズ低減を分岐配線系以外にも適用し,試作評価する. 設計には基本的に本年度と同じソフトウェア環境を用いるが,回路シミュレータ(HSPICE)はライセンス契約の更新が必要であり,約50万円をこれに当てる予定である.一方,東京大学大規模集積回路設計教育センター(VDEC)が,教育機関に対してライセンスサーバ接続形態でCADの無償利用サービスを提供している.ライセンスサーバ接続の基で現在のソフトウェア環境が動作すれば,VDECのHSPICEが使用可能となるため,現有HSPICEのライセンス更新は不要となる.このため,次年度は早急にこの可能性をあたる予定である. さらに,設計を加速するために設計サーバ1台(約25万円)を増設する予定である(現在,セグメント分割伝送線の1回の設計に約10時間という長時間を要している).なお,上記VDECの利用が可能な場合,ライセンス更新費を計算サーバ増設費に当てる予定である. 次年度は最終年度であるため,国内外での成果発表を予定している.このための出張旅費,参加費として,約70万円を予定している(国内2回,海外2回).さらに,学生アルバイトによる設計ソフトウェア環境の改良(アルゴリズムの高速化)に約15万円の使用を計画している.以上の研究費使用計画の基で研究を推進する予定である.
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Research Products
(3 results)