2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23650132
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 壽一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30172894)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 伴侶動物 / イヌ / ネコ / 性格 / 遺伝子 / 側性化 / 認知 / 社会性 |
Research Abstract |
本課題では、イヌとネコの認知行動特性の収斂進化を解明することを目的とする。イヌもネコも同様に家畜化の過程を経ているが、ヒトとの交渉場面における反応様式は著しく異なる。こういった伴侶動物の種特異性を浮き彫りにするため、両種が直接比較できるような認知科学的手法の確立を目指す。 第一の課題「イヌとネコの行動特性の遺伝的基盤」では、イヌとネコの行動特性(性格)を測定し、個体プロフィールと遺伝子の関連を調べた。イヌを対象にした研究では、秋田犬においてアンドロゲン受容体遺伝子多型と攻撃性が関与することが分かった。同様に、ネコでも飼い主評定に基づいた性格測定が進行中である。また、ヒトの伴侶動物に対する嗜好性(犬好き・猫好き)と主要な性格特性の間に関連があることも示された。 第二の課題「イヌとネコの側性化」では、主に聴覚側性化の研究を進めた。イヌに同種の発声、異種の発声、ヒトの音声を聴取させ、刺激の種類によって半球優位性が異なるかを調べた。その結果、イヌはヒトの音声を呈示した際に右を向いて反応する(左半球優位処理)傾向があることが明らかになった。 第三の課題「イヌとネコの視聴覚に関する比較研究」では、イヌとネコの感覚刺激への反応性を利用した実験を行った。イヌでは、視覚コミュニケーションの犬種差を調べるための実験系の開発に取り組んだ。その結果、原始的タイプの犬種は他の犬種よりもヒトに対する視線接触が維持されないことが分かった。ネコでは、馴化脱馴化法に基づいてヒトの感情弁別に関する実験を行った。その結果、音声刺激に含まれる感情情報によってネコの反応が異なる可能性が示された。 以上に加えて、イヌの祖先種であるオオカミや恒常的に群れを維持する大型ネコ科動物であるライオンの社会行動に関する学術的知見も提出してきた。これらの成果は、伴侶動物とその近縁種の認知や行動特性を知るための基礎となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の目的は、イヌとネコ、そしてその近縁種の認知行動特性の収斂進化を解明することである。その目的を達成するためには、まず、イヌとネコの行動を比較検討するための科学的手法の確立が不可欠となる。 研究実績の概要に記したように、本年度は採用初年度でありながら、行動特性の遺伝的基盤、聴覚側性化、視聴覚コミュニケーションといった各領域において、多面的な実験的手法の確立に取り組んだ。そして、そこから得られた成果は、学術論文や国内外の学会発表として既に結実している。 次年度は、これらの手法や実験系を他種に拡充して伴侶動物の認知及び行動特性を比較しながら論じることで、本課題の研究目的は十分達成可能であると考えられる。以上の理由から、本課題は計画通り進展していると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度はイヌやネコの認知行動特性を比較検討するための実験的手法の確立に取り組み、複数の実験系の開発に成功した。次年度は、この成果に基づいてイヌとネコの行動データセットの充実を図るべく、イヌとネコを中心に、両者が比較可能な行動実験を引き続き実施する予定である。 他方、得られた成果を発表するための研究活動も推進する。具体的には、データ解析、成果の取りまとめ、学会発表、論文投稿といったアウトプットに注力する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に引き続き、次年度は、研究活動に伴う旅費や交通費が見込まれる。本研究は動物が飼育されている各施設に訪問してデータ収集を行うため、当該施設への交通費や滞在費が不可欠である。今年度は比較的少額(31,829円)の繰り越しが生じたが、それは今年度初旬からこのような交通費がかかることを見越しての措置だった。 さらに、実験の実施に関連して、実験設備や機器に関する諸費用が必要となる。実験の刺激提示や記録、そしてデータ解析に使う機材の他、ホルモン分析や遺伝子解析などで使用する試薬やランニングコストも消耗品として見込まれる。 次年度は最終年度となることから、成果の取りまとめや学会参加のための渡航費といった支出が見込まれる。成果の取りまとめに関して、データ整理などを担当する実験補助者へ謝金や給与を支払うこと予定している。学会発表に関しては、スペインで開催される国際学会(Canine Science Forum)を始めとする海外渡航費が見込まれる。さらに、論文投稿費用や英文校閲費用も必要になる。
|
Research Products
(12 results)