2011 Fiscal Year Research-status Report
健康の行動・認知的研究:比較健康科学の構築に向けて
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23650135
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森村 成樹 京都大学, 野生動物研究センター, 助教 (90396226)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 健康 / 比較認知 |
Research Abstract |
病気やケガで失った機能を取り戻すことや失ったものの代替機能を発見・習得することに認知機能が深く関わる。本研究は、認知的、社会的に課題遂行の難易度を操作することで模擬的に能力の獲得と喪失の場面を作り出し、各場面で被験体がいかに認知的・情動的に課題を遂行するかを明らかにする。熊本サンクチュアリ(旧チンパンジー・サンクチュアリ・宇土)で飼育されているチンパンジー雄15個体を対象に、認知実験として1)パズル実験、2)道具使用実験、3)コンピューター実験を実施した。パズル実験では、運動場の格子面にバナナ片9個を等間隔で配置し、獲得の方略を問うた。道具使用実験では穴から食物を取り出すことのできる円柱のフィーダーを設置し、開口のサイズを変えることで難易を操作して解法の方略を問うた。コンピューター実験では、訓練として同時弁別課題を実施した。こうした認知実験と平行して、集団構成が1群5~15個体で変動する「離合集散エミュレーション」を実施した。被験体のチンパンジーは、個体構成の変動に伴って社会関係が変化する状況で、認知課題を遂行することが求められた。 その結果、集団構成の個体変化が課題の遂行に最も影響を与えた。離合集散エミュレーションの集団では、構成個体が固定した集団に比べて社会交渉が著しく増加し、特に遊びなどの親和的交渉が顕著に増大した。劣位な個体が認知課題に参加しにくい傾向はあったが決定的な要因ではなかった。特に野生由来(自然保育)個体は緊張場面でも課題を効率的に解くことができたが、人工保育個体は安定した場面で課題を遂行する傾向が確認された。24年度は、変動する社会環境で、認知課題に参加(食物獲得、フィーダー操作)する方略と課題を解く方略の双方について更に検討する。離合集散エミュレーションが社会交渉に及ぼす影響について、2012年3月の日本応用動物行動学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23 年度には、認知実験および社会実験ともに、計画通りの訓練とテストを実施した。対象個体を当初の計画では16個体としていたが、飼育管理の都合で個体が移動することとなり15個体となった。1個体の減少は本研究計画にはほとんど影響はない。 認知実験は、a)パズル実験、b)道具使用実験、c)コンピューター課題実験の訓練とテストを実施した。パズル実験では格子状に9カ所配置した食物を取る訓練をおこない、15個体がこの条件に十分馴れた。食物を取る方略とその際に伴う情動表出の個体差について分析を進めている。道具使用実験では円筒のフィーダーから食物を取る訓練を15個体に実施した。1個体を除いて全個体が道具を使えることを確認した。普及型のフィーダーであるため、24年度には装置そのものを改良して新たな道具使用行動を研究するための装置を開発することにしている。コンピューター課題実験は、4個体が同時弁別課題(色・文字)を習得した。 社会実験は、1~3集団、1 集団あたりの個体数を5~15まで変化することを常態化した。このように集団構成が変動する集団では、社会交渉(特に親和的交渉)の頻度が高くなることが、国内動物園との比較から明らかになった。この成果を公表する準備を進めている。パズル実験および道具使用実験は、社会実験と平行して実施しており、集団構成や生育歴が課題遂行に及ぼす影響について分析している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24 年度の実施計画は以下の通りである。前年度で確立した方法で、データを集積する。認知実験と社会実験を同時に行う運動場を3カ所とする。対象15個体が空間・社会関係を調整できる、より自由度の大きな条件での喪失・獲得の文脈の行動を調べる。熊本サンクチュアリ にいる他のチンパンジーについても認知実験、社会実験を適宜導入する。a)パズル実験では、「出来たことが出来なくなる」、「出来なかったことが出来るようになる」場面を実験的に作り出し、問題解決の方略や情動表出、社会交渉を調べる。b)道具使用実験では「ヤシの杵突きフィーダー」を導入する。野生チンパンジーの道具使用を模したもので、力を使う仕事に関する知性の研究をおこなう。フィーダーに振動センサーを内蔵することで、各個体の技術を定量的に評価する。難易の変化に伴う技術の調整も客観的に把握できると期待される。c)コンピューター実験は屋外運動場において実施する。習得個体が他個体と交渉しつつ課題を遂行する方略、未習得個体が課題を習得する過程を調べる。社会実験では、平成23年度同様に、集団構成が1~3集団、1 集団あたりの個体数が5~15まで変化する「離合集散エミュレーション」を実施する。社会交渉と各課題の遂行、情動表出との関係について調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度で確立した方法で、データを集積する。認知実験と社会実験を同時に行う運動場を3カ所とする。対象16個体が空間・社会関係を調整できる、より自由度の大きな条件での喪失・獲得の文脈の行動を調べる。CSU にいる他のチンパンジーについても認知実験、社会実験を適宜導入する。
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