2012 Fiscal Year Research-status Report
健康の行動・認知的研究:比較健康科学の構築に向けて
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23650135
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森村 成樹 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90396226)
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Keywords | 健康 / 比較認知 |
Research Abstract |
ヒトを含む動物の健康は複雑で捉えがたく、様々な種との比較研究で俯瞰する方法が有効となる。病気やケガで失った機能を取り戻すことや失ったものの代替機能を発見・習得することに認知機能が関わると考えられる。本研究は、認知課題遂行の難易度とともに課題に取り組むまでの物理的環境、社会的環境を操作することで模擬的に能力の獲得と喪失の場面を作り出し、各場面で被験体が課題遂行時における認知的特性を明らかにする。平成24年度は、熊本サンクチュアリ(旧チンパンジー・サンクチュアリ・宇土)で飼育されているチンパンジー雄15個体を対象に実験を進めた。集団構成が1群5~15個体で集団編成が変動する社会的環境下で認知実験を実施し、チンパンジーどうしの社会的関係によってもたらされる「できたことができなくなる」あるいは「できなかったことができるようになる」場面を作り出した。さらに、複数の運動場をつなげたり、区切ったりする空間の操作によって、チンパンジーが認知課題を解く場所を自由に選択できる/できない条件を追加し、空間的・社会的環境が変動する条件で、認知課題に参加(食物獲得、フィーダー操作)する方略と課題の正答率の双方について検討した。 その結果、認知課題に参加する方略には生育歴が強く影響するにもかかわらず、課題を解く方略には生育歴の影響がないこと、不安の情動表出によって成績が低下することが明らかとなった。また、空間を区切りチンパンジーが認知課題を解く場所を選ぶことができる条件の方が、選ぶことができない条件よりも課題の正答率は高かった。このことは、代替法を見つけるには問題への主体的な関わりが重要であり、できなくなる過程には情動的な特性が関与することを示した。今後は、こうしたチンパンジーの方略をゾウなどの他種と比較し、問題解決の種特性を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
認知課題、社会環境の操作、空間条件の操作、いずれも問題なく実施した。認知課題では、新たな課題「杵突きフィーダー」を導入した。筒の中に果物を入れ、その上に押し板を固定する。押し板をチンパンジーが押すことで、板の穴から食物が出るという仕組みだった。押し板を動かす力の強さ、押すことによって得られる食物量を精密に統制できるため、本実験の獲得・喪失の文脈を作り出すのに適した装置であることを確かめた。また、空間操作では、100m以上離れた運動場をつなげたり、区切ったりすることで空間を分けたりつなげる効果をより明確に捉えることができるようになった。同様の手続きを継続することで、獲得と喪失に関わるチンパンジーの情動と認知機能の関係を明らかにできると期待される。 また、動物園での実験を実施するための打ち合わせを進めた。平成25年度の動物園での実験も予定通り実施できる目処をつけた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、まず熊本サンクチュアリのチンパンジー15個体における獲得・喪失の認知実験を継続し、繰り返しの経験による行動変容についてデータを収集する。方法は平成24年度に準じる。加えて、種による獲得・喪失における問題解決行動の違いを検討するために、本研究の枠組みをチンパンジー以外のほ乳類に当てはめて、獲得・喪失の場面で発揮される認知機能の種特性について検討する。動物園で飼育されているゾウ、チンパンジー、クマ類などを対象に実施し、熊本サンクチュアリのデータと比較する。動物園の認知実験として、「杵突きフィーダー実験」あるいは「道具使用実験」を実施する。杵突きフィーダー実験では、円筒に食物を入れ、押し板をその上に設置する。押し板を押すことで穴から食物が出て、得ることができる。使用する食物の種類と押し板にあける穴の大きさによって、課題の難易度を操作する。道具使用実験では、体の部位を伸ばしても届かないところに食物を置き、引き寄せるための棒を動物に与える。棒の材質(木材、ワラ、紙)を変えることで、課題の難易度を操作する。難易度の操作により、「できなかったことができる(獲得)」および「できたことができなくなる(喪失)」の場面を実験的に作り出す。それぞれの場面において、課題の正答率やそれにともなう情動の表出、同居他個体との交渉や空間特性が課題遂行におよぼす影響を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)