2012 Fiscal Year Research-status Report
ローランド型てんかん発症機構解明のためのショウジョウバエモデルの作成
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23650170
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
浜 千尋 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (50238052)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 実 京都産業大学, 総合生命科学部, 助教 (40449236)
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Keywords | シナプス / シナプス間隙 / Hig / 神経発生 / ショウジョウバエ / てんかん / コリン作動性 / アセチルコリン受容体 |
Research Abstract |
ショウジョウバエのHigタンパク質とヒトのSRPX2タンパク質はCCPドメインを複数もち、互いに類似した構造的特徴をもつ。そこで、両タンパク質の機能的類似性の有無を調べるために、hig変異株にSRPX2をコードする遺伝子を導入してレスキュー実験を試みたが、hig変異株に観察される活動性の低下や寿命の短さを回復させることはできなかった。そこで、H24年度は、研究の方向性を絞り、Higタンパク質の機能およびシナプス間隙への局在機構を深く追求することにより、ヒトのSRPX2が関与する神経回路形成機構の理解にアプローチすることにした。 ショウジョウバエゲノム上に多数存在するCCPドメインタンパク質遺伝子の胚における発現をin situ hybridizationで解析したところ、複数の遺伝子が神経系で発現していることが判明した。それらに対してトランスポゾンをジャンプさせることにより欠失変異の作製を試みたところ、2遺伝子に対して変異の分離に成功した。興味深いことに、そのうちの1変異系統においては、Higタンパク質のシナプス間隙への局在が消失していた。そこで、われわれはそのタンパク質をDig (Defective Localization of Hig)と命名した。Digに対する抗体を作製して免疫染色を行ったところ、Digはシナプス間隙に局在することが明らかとなった。DigはHigのシナプス間隙への局在には必要であるが、HigはDigのシナプス間隙への局在に必要とはされない。また、HigとDigはタンパク質複合体を形成することが免疫沈降実験により明らかとなった。さらに、Higはコリン作動性のシナプスに局在し、その局在はアセチルコリン受容体サブユニットDα7の変異株脳の少なくとも一部で消失することが判明した。これらのことから、Higはコリン作動性シナプスの分化に関与することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたショウジョウバエHigとヒトSRPX2の機能的互換性を示すことはできなかったが、Higのシナプス間隙への局在のために別のCCPドメインタンパク質であるDigが必要であることが明らかとなったことは、シナプス間隙の構築機構を明らかにする上で大きな前進であると考えられる。神経筋接合部の構築機構については多くの研究があるのに対し、中枢シナプスの構築機構については未だわずかな知見しか得られておらず、今回の発見は将来の研究に向けての重要な基礎として位置づけられる。 さらに、HigとDigが実際にタンパク質複合体を形成すること、およびHigはDigのシナプス間隙への局在に必要ではないという知見は、シナプス構築機構を考える上で、タンパク質複合体の形成過程に対するモデル構築のための情報を提供する。また、Higが全てのシナプスではなく、コリン作動性シナプスに局在することが示されたことも重要な一歩である。事実、Higはアセチルコリン受容体サブユニットDα7と生体内で結合することがその遺伝子変異を用いた解析により明らかとなっている。このように、本年の研究は、Higについての研究の枠組みを設定する上で有意義な進歩をもたらしたという事ができる。 ただし、今なお、本研究の重要テーマであるHigのシナプス間隙における機能については、その変異表現型が活動性の低下および寿命の短さとして示されているにも関わらず、その詳細は不明であり、精力的に解明の努力がなされるべきである。
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Strategy for Future Research Activity |
Higの生体内における機能を明らかにするため、生きたショウジョウバエの脳内カルシウムイメージング法を確立する。現時点では、性ホルモン蒸気を含む空気をショウジョウバエに与え、その結果、嗅受容神経細胞を刺激して脳内一次嗅覚中枢の特定の糸球体でイメージングを行うシステムを確立しているが、さらに他の脳部位においても解析を進める。その時にもホルモンを長期的に与え、単に蛍光強度変化の有無だけでなく、変化の減衰パターンなどを解析することによりシナプス間隙におけるHigの機能を明らかにしていく必要がある。 また、Hig機能の解明のための第2の方法として、hig変異に対するサプレッサー変異を分離する。hig変異株は活動性が低下し寿命が短くなるが、この表現型を抑圧する第2の変異を誘起し、その遺伝子を同定する。このことにより、シナプスでHigが示す機能に共に関与する新たな分子を同定することができる可能性がある。今までに、小規模でhig変異株にEMSを投与して変異を起こさせスクリーニングを行ってきたが、実際に1株のサプレッサー変異株の分離に成功してきている。この株には元のhig変異は保存されていることから、第2の変異が生じていることが期待される。今後は、その変異の染色体上のマッピングおよび次世代シークエンシングにより変異遺伝子を同定するとともに、さらに大規模な変異スクリーニングを行うことにより、Hig関連分子機構に関与する新たな分子を同定し、シナプス間隙構築機構を明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Fruitless recruits two antagonistic chromatin factors to establish single-neuron sexual dimorphism.2012
Author(s)
Ito, H., Sato, K., Koganezawa, M., Ote, M., Matsumoto, K., Hama, C., Yamamoto, D.
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Journal Title
Cell
Volume: 149
Pages: 1327-1338
DOI
Peer Reviewed
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