2011 Fiscal Year Research-status Report
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23650184
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤原 武志 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任准教授(常勤) (50546786)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 軸索変性 / 神経変性疾患 / ダイニン・ダイナクチン複合体 / p150Glued / DIC |
Research Abstract |
はじめに、神経軸索や細胞体が脆弱化する分子メカニズムを明らかにする目的で、軸索で変化するシグナル経路の変化に焦点をあてて本研究を実施した。まず、本研究の成果として軸索内を軸索の先端から細胞体への方向に物質を輸送するタンパク質ダイニン・ダイナクチン複合体が、アルツハイマー病などの神経変性疾患を誘起するグルタミン酸毒性による軸索変性、細胞体の死、そしてアポトーシスを制御することを世界に先駆けて明らかにした(J.NEUROCHEMISTRY, 2012)。特に、ダイナクチン複合体の重要構成タンパク質であるp150Gluedタンパク質はグルタミン酸毒性により従来の分子量よりも小さい約110Kのタンパク質に切断されることで軸索変性を促進し、またこの切断変異体がアルツハイマー病患者の脳組織において認められることを明らかにした。つまり、本研究の知見がヒト神経変性疾患の病態形成機序の解明につながる可能性を見出した。一方、ダイニン複合体の重要構成因子であるDICタンパク質もグルタミン酸毒性によりタンパク質の発現量が著しく低下することを明らかにした。さらには、野生型p150Glued、野生型DIC、そしてダイニンとダイナクチン複合体の相互作用を著しく低下させる変異型DIC(S84D)の強制発現が、グルタミン酸毒性による軸索変性、細胞体の死、そしてアポトーシスを顕著に抑制することを明らかにした。これらのように、本研究によりp150GluedとDICタンパク質の生化学的性状の変化がグルタミン酸毒性による軸索変性過程に顕著な影響を与え、またヒトの神経変性疾患の病態形成機序の解明につながる重要な成果を得た。現在、p150GluedあるいはDICタンパク質と相互作用するタンパク質を免疫沈降法により同定しており、生化学的・細胞生物学的解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の本研究では、神経変性疾患を誘引するグルタミン酸毒性により軸索変性する過程を、ストレスシグナルおよび生存シグナル経路のバランスを担う中心的タンパク質と考えられるダイニン・ダイナクチン複合体が制御するという知見を世界に先駆けて明らかにした(J.NEUROCHEMISTRY, 2012)。またヒト神経変性疾患の脳組織を用いた解析により、ヒト神経変性疾患の病態形成機序の解明につながる重要な知見をも得た。これは、平成24年度に推進する研究の一部であり、おおむね研究計画が順調に進展していることを裏付ける。さらに、ダイニン・ダイナクチン複合体の重要構成タンパク質であるp150GluedあるいはDICタンパク質と相互作用するタンパク質を免疫沈降法によりすでに同定し、生化学的・分子細胞生物学的解析を進めていることから、おおむね研究計画が順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
ダイニン・ダイナクチン複合体の重要構成タンパク質であるp150GluedあるいはDICタンパク質と相互作用する同定タンパク質は既知である。平成24年度の本研究では、すでに同定したタンパク質の周辺で機能するタンパク質の同定を生化学的に行う。そしてグルタミン酸毒性により軸索変性する過程において、同定した既知タンパク質に対する阻害あるいは安定化化合物投与により軸索変性過程への効果を分子細胞生物学的に解析し、さらに周辺で機能するタンパク質との機能的相互作用による効果をも検討する。また、p150GluedあるいはDICタンパク質の機能を阻害したときにおける同定タンパク質の軸索における局在や発現量の変化の有無を検討する。加えて、アルツハイマー病モデルマウスの海馬や前頭皮質の脳組織をもちいた免疫組織化学的・生化学解析により、p150GluedあるいはDICタンパク質を含めた同定タンパク質の局在や発現量の変化の有無を検討する。これらの結果は、成果として雑誌論文あるいは学会発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究において、23年度所要額のうち70万円程度を24年度に使用し、また24年度に請求する研究費と合わせて以下の計画で使用する。まず、同定したタンパク質の周辺で機能するタンパク質群を同定するために、受託での質量分析に使用する。これは、複数回行うことが予測されるため、23年度所要額の未使用の70万円程度を含めて24年度に計上する予定である。2012年9月に開催される第35回日本神経科学大会に演題発表するため、旅費や研究打合せのための費用、また雑誌論文発表するための投稿料ならびに別刷費用を計上する予定である。最後に免疫組織化学的・生化学的・分子細胞生物学的実験に用いる消耗品・試薬の費用を計上する予定である。
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