2011 Fiscal Year Research-status Report
シナプスでの核タンパク質の局所翻訳・核への移行とシナプス可塑性
Project/Area Number |
23650189
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
白井 良憲 信州大学, 医学系研究科, 助教 (70342798)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 龍雄 信州大学, 医学系研究科, 教授 (80162965)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | シナプス可塑性 / 局所翻訳 / 核移行 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
記憶や学習の基礎となるシナプス可塑性は、刺激を受けたシナプスが特異的に修飾され、長期にわたって持続することが必要であるが、その長期維持・固定の機能は全く明らかになっていない。申請者の研究室で同定された、Postsynaptic density近傍に存在するPSD-mRNA群には、核タンパク質をコードするものが存在していた。本研究では、これらが刺激に応じてシナプスにおいて「局所翻訳」され、「シナプスから核へと移行」し、核においてシナプス可塑性に関与する新たな遺伝子の発現誘導を示すことを計画している。これにより、シナプスから核への情報伝達を介した、シナプスの可塑的変化の長期維持・固定メカニズムを明らかにすることを目指している。今年度は、まずin situ hybridizationにより、核タンパク質をコードするPSD-mRNAのうち、実際にPSD/dendriteに局在するものを探索し、それらの中から核タンパク質をコードするもの(転写因子)の一つに着目し解析を行った。この転写因子に対する抗体を作製し、ラット脳での発現をウェスタンブロッティングで確認した。この転写因子は複数のisoform (splicing variants) の存在することが知られており、ウェスタンブロッティングの結果から、脳における複数のisoform の発現が示唆された。既知の遺伝情報をもとに、この転写因子の脳で発現するisoformをRT-PCR法により調べたところ、既知のものに加え、機能未知のものを含む複数のisoformの発現が明らかになった。これらisoformを全てクローニングし、発現ベクターの構築を行った。これらを用いて、この転写因子の各isoformそれぞれの、シナプス可塑性への関与・シナプスにおける局所タンパク質合成・新たな遺伝子発現への関与を明らかにすることを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、これまでに申請者の研究室で生化学的・分子生物学的に同定されたPSD-mRNA群のうち、核タンパク質をコードするものが、実際にin vivoでPSD/dendriteに局在することを示し、次にそれらをノックダウンし、シナプスの形態変化への関与を示し、続いてこの核タンパク質のシナプスにおける局所翻訳を可視化し、その翻訳産物のシナプスから核への移行を調べ、最後に核へ移行した翻訳産物により発現誘導を受ける遺伝子の同定を行う予定である。核タンパク質をコードするPSD-mRNAが、実際にPSD/dendriteに局在している事を示すことが最も大きなポイントであるが、現在までの研究で、核タンパク質をコードするmRNAが実際にPSD/dendriteに局在することを示すことが出来た。また、このような核タンパク質の一つである転写因子に着目して解析を行い、この核タンパク質の脳での発現様式を調べる過程で、脳において機能未知のものを含む複数のisoformが発現していることが明らかになり、研究を進める上での重要な基本的情報を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初の研究計画に従い研究を推進する予定である。すなわち、本研究で注目した核タンパク質(転写因子)について、これまでに得られた遺伝情報をもとに、この転写因子の3つのisoformの特異的なノックダウンを行い、各isoformのシナプス形態形成への影響を調べる。またこれまでに得られた、抗体・発現ベクター等を用いて、この核タンパク質の遺伝子を大脳皮質初代培養細胞に導入し、シナプス刺激によるタンパク質発現の変化(局所翻訳)を可視化し、翻訳産物の細胞内局在の変化(シナプスから核への移行)を調べる。さらには、この核タンパク質(転写因子)を培養細胞に過剰発現させ、proteomicsの手法により、核において新規に発現誘導されるタンパク質の同定を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、主に細胞培養や分子生物学的実験に必要な試薬・抗体・siRNAの購入や作製に使用する予定であり、申請した金額を使用する計画である。また、成果の発表と学術上の情報を得るために、国内外の学会や研究会への参加を予定しており、論文発表のための論文掲載料・印刷代・英文校正の費用なども必要である。これらについても申請した金額を使用する計画である。なお、当初計画時よりも、試薬などを安価に購入できたこと、今年度予定していた海外学会参加を、研究の進捗状況より、次年度に実施することになったことなどから、次年度使用額が生じた。
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