2011 Fiscal Year Research-status Report
クルクミン系化合物を利用したアルツハイマー病の血液診断法の開発
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23650192
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
遠山 育夫 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 教授 (20207533)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / 診断薬 / 体外診断 / ベータアミロイド / 血液 |
Research Abstract |
現在日本には約200万人の認知症患者が存在し、その約半数がアルツハイマー病とされている。しかし、いまだに有効な診断方法がない。現在、脳内アミロイドβペプチド(Abeta)に選択的に結合するポジトロン断層撮影法(PET)による画像診断法の研究が進められている。しかし、PETは放射性核種を用いるため放射線障害による副作用が懸念されるとともに試薬が高価になる。そこで、我々は、ある種のクルクミン化合物が血液中ではケト型で存在するが、Abeta凝集体が存在するとケト型からエノール型になり、老人斑に結合することを見出した。本研究の目的は、このケト・エノール互変異性を利用することで老人斑の量を測定する血清診断法を開発することである。対象動物としては、アルツハイマー病の遺伝子改変モデルマウスと正常マウスを用いた。HPLCによりマウス血清のクルクミン濃度を20 pg/ul測定する系を立ち上げた。正常マウスに体重あたり10 mg/kgあるいは30 mg/kgのクルクミンを尾静脈から投与し、5、10、15、30、60、120分後に50 ulづつ採血して血漿中のクルクミン濃度をHPLCで測定した。その結果、10 mg/kgでは30分後、30 mg/kgでは60分後に感度以下となった。次に15ヶ月齢の正常およびADモデルマウスに30 mg/kgのクルクミンを尾静脈から投与し、5、10、15、30、60、120分後に採血をして測定したが、両者に差は認められなかった。一方、フッ素をつけたクルクミン誘導体を尾静脈から投与して、フッ素NMR信号を測定したところ、2時間後以降に正常マウスとADモデルマウスとの差がみられたので、より高感度の測定系が必要と考えられた。そこで、溶媒や送液および測定システムの改良を行い、1pg/ulまで感度を上昇させることに成功した。今後、この系を用いて検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルツハイマー病の遺伝子組換えマウスの血液中のクルクミン量を高感度に測定するシステムを確立した。この系では、経口摂取したクルクミンの血液内濃度の測定も可能であることを確認した。また、フッ素を結合させたクルクミン誘導体を用いて、尾静脈から投与したクルクミンの体内動態をフッ素MR画像法を用いて測定し、正常マウスとADモデルマウスとの差を見いだしたこと(国際学術誌に報告、Yanagisawa et al. Neuroscience 184:120-127, 2011)、アルツハイマー病のモデルマウスで脳の老人斑の形成度合いと血中ベータアミロイドペプチドの量、髄液中、尿中のベータアミロイドペプチドの量がどのように変化しているかという基礎データを得た(Kameshima et al. Neuroscience Lett 513: 166-169, 2012)など、1年目に成果を上げた。このことから、おおむね順調に進展していると判断した。一方遅れている点としては、アルツハイマー病のモデルマウス(APP/PS1ダブルトランスジェニックマウス)は、生後1年以上たかないと老人斑が出来てこないため、トランスジェニックマウスを用いたin vivo実験がやや遅れている。トランスジェニックマウスを用いたin vivo実験は、2年目に集中して行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目にアルツハイマー病の遺伝子組換えマウスの血液中のクルクミン量を高感度に測定するシステムを確立できたので、2年目にはこの測定システムを用いて、マウス尾静脈へのクルクミン投与により老人斑の量を判定できるか、マウスを用いて検討する。具体的には、アルツハイマー病のモデルマウスおよび正常マウス尾静脈からクルクミンおよびクルクミン誘導体を投与し、経時的に血液中の濃度を測定する。その後、、マウスを安楽死させて脳を取り出し、半分は凍結した後、ELISA法で脳内Aß42とAß40の量を測定する。半分は固定後に切片を作製し、Aßモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学法で染色して老人斑の量を定量する。以上の実験を繰り返して、アルツハイマー病モデルマウス脳内の老人斑の量を定量する血液診断法を開発する。候補薬は、6種類を予定している。 次に経口摂取による脳内老人斑の定量が可能か検討する。麻酔下にAPPマウスおよび正常マウスの胃にカテーテルを挿入し、バッファーに溶解した化合物を一定量注入する。その後、平成23年度と同様に、「フッ素MR画像法による体内分布の追跡」、「高速液体クロマトグラフィーによる測定」、「脳内老人斑の定量」を行い、経口摂取による脳内老人斑の定量が可能か検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度に繁殖させたアルツハイマー病モデルマウスが、老人斑を形成し始めるため、本年度はアルツハイマー病モデルマウスを用いた実験を集中して行う。そのため、研究費は主に動物飼育費を含めた物品費に使用する。一部を遺伝子組換えマウスの飼育管理等をする研究補助員の謝金にあてる。なお、アルツハイマー病モデルマウスの繁殖にやや時間がかかったため、研究費の一部は、1年次に使わずに2年目に使用するように繰り越しを行った。
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