2012 Fiscal Year Research-status Report
電圧を用いた実験動物の組織・臓器の長期超低温保存の基礎的研究
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23650244
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Research Institution | Central Institute for Experimental Animals |
Principal Investigator |
江藤 智生 公益財団法人実験動物中央研究所, その他部局等, 研究員 (30370175)
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Keywords | 組織・臓器の保存 / 実験動物 / 保存 / 超低温保存 / Cryobiology / 卵巣 / 精巣 |
Research Abstract |
高電圧を実験動物の組織や臓器に加印して、生きたまま保存する方法を検討した。組織や臓器を長期間保存するには、-150℃以下で保存する必要がある。そのため液体窒素下の超低温で組織・臓器を超低温保存する方法を前提とした。まず細胞内外のダメージの詳細な解析を行うために、マウス卵巣を超低温保存して卵巣移植後の状態を検査した。採取直後のGFPマウスの卵巣に、5000Vの高電圧を加印または無加印で、室温から-15℃まで冷却(-0.5℃/min)した後に液体窒素に浸漬して1日間保存した。保存した卵巣は5000Vで加印しながら室温まで加温した直後に、ワイルドタイプのメスに卵巣移植した。移植2週間及び4週間後に移植部位を観察したところ、高電圧を無加印で冷却した実験区では卵巣は確認できなかった。加印して冷却した実験区では、移植2週間及び4週間後の移植部位の観察で卵巣が確認できた。そのため卵巣を摘出してGFP蛍光を確認したところ、移植2週間後の卵巣は一部又は全部が蛍光した。しかし移植4週間後の卵巣では、GFP蛍光している卵巣は確認出来なかった。これらより、無加印で超低温保存した卵巣は、移植2週間で急激に退行するが、加印すると短期間だが生存することが示唆された。また移植4週間後にも卵巣は存在するが、GFP蛍光が確認出来ないことから、レシピエントの卵巣が再成長することも示唆された。 高電圧を加印して超低温保存した卵巣は、レシピエントに移植することにより一定期間生存するため、周辺組織との関連も視野に入れる必要が示唆された。そのため以降の検討も細胞単体ではなく臓器・組織を実験材料とした。しかし卵巣は移植すると、レシピエントの組織が再構築されて評価が困難となる。そのため近年体外培養が可能になった精巣を超低温保存することを考え、マウス精巣の体外培養技術を導入して、精巣培養の系の立ち上げを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高電圧で加印して冷却すると、移植2週間後でも超低温保存した卵巣の一部が生存した。 また昨年度の研究により、移植3ヶ月後の卵巣でも組織標本を作製してGFPを染色すると、一部が生存した事が分かった。対して、無加印の卵巣は移植2週間後で保存した卵巣は確認できなかった。これらの結果より、高電圧の加印による卵巣(臓器)の超低温保存の可能性が示唆された。この点は、次年度の研究推進につながると考えられる。 高電圧を加印して保存した卵巣は、時間の経過と共に再構成されたレシピエント由来の卵巣に取り込まれながらも生存していたが、無加印の卵巣の生存は確認出来なかった。この結果より、保存いた卵巣の継続的な生存の要因は、レシピエントの卵巣切除後に残留した支持組織との相互補填の可能性がある。これら実験試料を培養細胞の系に移行せず組織・臓器に絞り込めた点も、今後の展開に有効であると考えられた。さらに、評価が容易と考えられる精巣を試料とした実験系の立ち上げも開始出来たため、次年度の研究促進が期待できた。
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Strategy for Future Research Activity |
保存後の臓器の生存には移植した部位の周囲の環境も必要であることが示唆された。そのため今後の研究は、培養細胞ではなく継続して組織・臓器の使用を検討する。しかし卵巣を対象とすると、正着から機能評価を行うまでに多くの時間を費やす。また移植したレシピエントの卵巣が再構成される可能性があり、保存した卵巣の生存性の評価が困難になることも考えられる。これらの対処策として2点考えられる。1)迅速に評価を行うためには、体外培養が可能な臓器を試料とすること。2)レシピエントの同臓器との癒合を抑えるには、保存した臓器と違う部位に移植する。 これらの条件をクリアする臓器として精巣があげられる。精巣は近年体外培養が可能となり、観察を行いながら精子形成が行える。また同動物種の免疫不全系統や同系統であれば、体内に移植することも可能である。これらを踏まえて、精巣を高電圧で加印して超低温保存する実験を検討する。対象となる精巣及びレシピエントはマウスを使用する。保存する精巣は精子形成が未成熟な幼若オスから採取する。採取した精巣は、高電圧を加印または無加印で冷却後に超低温保存を行う。保存後の体外培養又はレシピエントへ移植した精巣は、形態が維持できているか確認する。また形態が維持できる場合は精子形成も観察する。成熟した精子が得られる場合は、顕微授精を行い保存した精巣からのGerm Line伝達を確認する。上記の方法をもって、組織・臓器の保存方法の検討と、保存した臓器の生存と機能の維持の評価をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
生体から組織臓器を採取するためと、移植実験やGermline伝達の確認等を行うために動物購入費と維持費が必要になる。またプラスチックやガラス製品等は保存実験や検証実験に使用する。臓器の体外培養、保存、組織標本作製による生存評価及び顕微授精等に使用する、培地や緩衝液、保存、組織の固定・染色に使用するキットや溶液等の試薬も購入する。旅費は調査と成果発表を行うために使用する。実験および研究の為の情報収集そして成果を広報するために計上金額は何れも必要である。
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